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『真実の愛』に裏切られた元婚約者が、ヤンデレ化して戻ってきました  作者: 黒木メイ


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6/20

元婚約者の初恋は実らなかったようです

 オーギュストとの婚約がなくなったことは、意外にもカタリナに良い影響を与えた。

 今まで彼がいたからこそ、カタリナは『学ぶ』ことだけに集中できていた。逆を言えば、それ以外のことは疎かになっていたのだ。


 特別棟の食堂。以前のカタリナは一人栄養補給(食事)をして、終わったらさっさと教室に戻り、授業の復習をしていた。

 しかし、今は男女入り交じるグループで食事をしながら主に会話を楽しんでいる。


(このような時間の使い方があったなんて……)


 傍から見れば中身のない会話をしているように見えるかもしれないが、その実……随所に有益な情報が散らばっている。それも分かる人にだけ分かるという高度な内容。カタリナは感嘆と同時に落胆していた。今までこの有意義な時間の使い方に気づかなかった自分自身に。


(今までの時間が無駄だったとは思わないけれど……単純に、学生の本分は『学業』。『交流』は最低限で十分。と思っていた自分が恥ずかしいわ)


 実際はそこまで深く考えていない者たちの方が大半なのだが、そのようなこともカタリナは知らない。その多くの生徒たちから、彼女が一目置かれていることも。自分が彼らにいい影響を与えていることも。


 カタリナはスタートダッシュで遅れた分を取り戻すため、ついでに(もともとの目的である)次のお相手探しのための情報収集を……と率先して話題を振ろうとしたその時――。


「大変だ!」


 一人の男子生徒が駆け込んできた。見覚えのない顔。『特別科』には大声で騒ぎ立てるような者はいない。皆が訝しげな視線を向ける。誰かが彼に注意を促そうとした。その前に彼の口から衝撃的なニュースが飛び出した。


「『普通科』でとある女子生徒と男子生徒が不純異性交遊を行っている現場を教師に押さえられ、連れていかれたぞ!」


 そのビッグニュースに普段は声を荒げることを良しとしない『特別科』の紳士淑女の生徒たちが騒ぎ始める。

 なお、ニュースは今も続いている。


「その女子生徒の名前はなんとあの『ミラ・ベルモンド』だ!」


 聞き覚えのある名前だと思ったのはカタリナだけではなかったようで、皆顔を見合わせている。

 耳を澄ませば「あの……?」「例の『真実の愛』の?」という声が聞こえてくる。


(ああ、そうだわ。ミラ・ベルモンドといえばオーギュストの『真実の愛』のお相手だわ。皆、知っていたのね……知っていて私の耳には届かないようにしていたのかしら……。というか、オーギュストが学内で不純異性交遊をしていたですって⁉)


 あり得ないという感情が先立った。

 幼少期から今までの記憶が走馬灯のように頭の中で流れる。朴念仁とも言える彼は婚約期間中カタリナに触れようとしたことは一度もなかった。その気配すらなかった。


(それはつまり、私には食指一つ動かなかったということ。いえ、逆かしら。彼女が『真実の愛』のお相手だから?)


 女性としての魅力すら否定されたような、奇妙な敗北感に一瞬だけ陥ったが、そうではなく彼女だけがオーギュストにとって特別なのだと結論付けた。そうでもしないと、気持ちを落ち着けることなどできそうにない。


 カタリナが内心パニックを起こしている中、同じテーブルに座っていたフェリックスがいきなり立ち上がった。

「失礼」

 一言だけ告げ、足早に食堂を出ていく。カタリナは数秒遅れで、彼の背中を追った。


「フェリックス。どこへいくつもり?」

「決まっているだろう。普通棟だ」


 ちらりとカタリナを見て、フェリックスは告げる。


「何をしに……」

「次期当主として、事実確認をしに」

「……そうね、必要なことだものね」


 彼の言葉を聞いてハッとした。事実ではない可能性はまだ残っているのだ。

 冷静になって考えてみれば、納得できない点が次々浮かび上がってくる。

 そういえば、オーギュストは言っていたではないか。彼女からしばらく距離を置きたいと言われたと。それなのに、こうも急展開が起きるのだろうか。


 カタリナはフェリックスに言及されないのをいいことに、便乗して『普通棟』へと乗り込むことにした。

 普段だったらしない行動だ。無意味な時間を割くよりも勉強を優先させただろう。けれど、今のカタリナには必要なことだと思えた。気になって仕方ないのだ。このままでは他のことに手がつかないほどに。


(本当にあのオーギュストが? もし、万が一にも本当にオーギュストがやらかしたのだとしたら……彼はすぐにでも公爵家から除籍される。そうなれば学園もきっと退学……ただでさえ過酷な未来がより酷いものとなる……それが分からないオーギュストではないはずよ)


 そう思っているのに、やはり『真実の愛』という文言が頭を掠める。


 そんなことを頭の中でぐちゃぐちゃと考えている間に、『普通棟』へと辿り着いた。

『普通科』ではさらに混乱が起きているようで、教師が生徒たちをどうにか落ち着かせようとしているが、虚しく空回りしている。それもそのはず、鎮静化を拒むように、あちこちで騒ぎ立てている人物がいるのだから。


(あれは……)とじっと見つめていると声をかけられた。


「お姉様! フェリックス様!」


 まるでカタリナたちが来ることをわかっていたかのようにセシリアが待ち構えていた。

 雑踏を避けるように案内された先は、誰もいない庭園。

(ここ?)とセシリアに視線を向ければ、「こちらへ」と促される。

 そこには、大きな木や草に隠れるように座り込んでいるオーギュストがいた。その傍には誰もいない。彼一人だ。


 いったいこれはどういうことなのか、とセシリアに尋ねようと振り向いた時には、彼女もフェリックスも姿を消していた。

 ハメられたのだとすぐに気づいた。


(最初から私をオーギュストの元に連れて行くつもりだったのね。おそらく陽動していた生徒たちは全員セシリアの息がかかった者たち。フェリックスも知っていたのかしら? ……知っていたのでしょうね。というか、そもそもあの噂は真実なの?)


 分からないことだらけだ。けれど、それらは全て彼に聞けばわかること……。

 カタリナはぴくりとも動かないつむじに視線を落とした。


「オーギュスト」


 ぴくりとつむじが動く。しかし、顔を上げる気配はない。

 仕方なく、カタリナも彼の隣に腰を下ろそうとした。

 その瞬間、さっとオーギュストが己の上着を脱ぎ、この上に座ってと示してくる。それは今まで一緒に過ごしてきた年月の中で染みついた動作だった。カタリナも断ることなく、彼の上着の上に座る。


「何があったのか話してくれる?」


 オーギュストはそう聞かれるのを待っていたかのように話し始めた。


「ミラが……ミラが浮気をしていたんだ」

「学内で不純異性交遊をしていたのはあなたじゃなかったのね?」

「当たり前だ! 僕はそんなこと絶対にしない。そういうことは普通結婚してからするものだろう? それに先日言った通り、僕は今もミラから避けられている」


 はっきり否定され、カタリナはホッと息を吐いた。オーギュストは涙声で続ける。


「その理由を問いただしたくて僕はミラを探していたんだ。そうしたら……彼女が他の男と……『真実の愛』だって言っていたのに! 信じてカタリナと婚約破棄までしたのにっ!」


「やっぱり、騙されていたんじゃないの!」とツッコミを入れたかったが、今の彼にそんなことは言えず……代わりに彼の背中を撫でてやる。ぽたぽたと涙が草を濡らす。


「結局、『真実の愛』って何だったんだよ……」

「いや、それは私の方こそ聞きたいんだけれど?」


 堪らずカタリナはツッコんでしまった。オーギュストはぎゅっと下唇を嚙み、カタリナを見る。しかし、答えたのは彼ではなく――。


「お姉様! それについては、私が解説いたしますわ!」


 ひょっこり木の陰から顔を出したセシリアだった。

 にんまり笑顔の彼女は、すでにボロボロのオーギュストをさらに追い詰める気満々だ。その後ろから顔を出したフェリックスも止める気配はない。むしろ、場所の移動を提案する始末。


「続きは公爵家で、にしよう。どうせ、この騒ぎで授業も中止だ」

「それもそうね」


 カタリナも立ち上がった。オーギュストは救いを求めるようにカタリナを見上げてきたが、無視した。


(セシリアはきっとオーギュストが知りたくないことまですべて明らかにしてしまうでしょう。傷心の彼にとってはそれが怖いんでしょうけど……私は止めないわよ)


 あれだけ豪語していた『真実の愛』の正体とは一体何だったのか、その答えを求めてカタリナたちは公爵邸へと向かった――。

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