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『真実の愛』に裏切られた元婚約者が、ヤンデレ化して戻ってきました  作者: 黒木メイ


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4/5

初めてのお見合いに乱入する元婚約者

 カタリナ、初のお見合い。場所はサウェル公爵邸だった。有言実行と、公爵夫妻がお相手を斡旋してくれたのだろうというのは理解できた。しかし、それにしても早い。

 加えて、相手の詳細を何も聞いていない。お見合いというのはそういうものなのだろうか……と考えていたのだが、相手を見て納得した。そもそも、説明等いらない相手だったのだ。


「どうしてあなたが?」


 なぜかセッティングされたテーブル席で待っていたのはフェリックスだった。

 カタリナの眉間に皺が寄る。


「まさか、フェリックス様がお相手……なわけないわよね?」


 しかし、それに対して返ってきたのは隙のない温度のない微笑み。


「まずは、ご挨拶を。私、サウェル公爵家が嫡男。フェリックス・サウェルと申します。本日はよろしくお願いいたします。」

「……私はクロムウェル侯爵家が嫡子。カタリナ・クロムウェルと申します。お会いできて光栄です」

 言いたいことは全てのみ込み、茶番に付き合う。フェリックスのエスコートで着席した。


「それで……まだ教えてくれないのかしら?」

 これ以上は時間がもったいないとばかりに、再び説明を求めればフェリックスは苦笑した。

「カタリナ嬢は相変わらずせっかちだな」

「効率的と言ってくれる? あなただってこういう無駄な時間は嫌いでしょう?」

 交流時間がガクッと減ったとはいえ、彼は幼馴染だ。彼の本質というものをカタリナは理解している。逆も然り。

 先程の紹介通り、互いに生家の嫡子だ。見合いの相手としては不適格。

 にもかかわらず、フェリックスの態度は変わらない。

「これは我が家にとっても必要な時間だからね」

 彼の言い回しにカタリナは訝しげな視線を向けた。

「今日のこれはあくまで予行練習だ」

「予行練習?」

「そう。だって、カタリナはお見合いしたことないだろう?」

 フェリックスの口調から硬さが取れた。そのことに驚く。まるで幼少期に戻ったかのようだ。眼鏡越しの瞳が愉しげにカタリナを射抜いた。

(フェリックスはそういう意味では先輩だから、そんな顔をしているのね)

 カタリナはそちらがその気なら、と自分も合わせて口調を崩す。

「この時間も私への慰謝料に含まれるということ、ね。でも、必要ないわ。確かにお見合いはしたことないけれど、要は互いを売り込む商談のようなものでしょう。それに、お見合いといっても非公式的なものだから……第一……」

 鋭い視線をフェリックスへと向ける。

「セシリアが知ったら悲しむわよ」


 セシリア・ローウェル。ローウェル伯爵家の長女で彼の婚約者だ。しかし、フェリックスはカタリナの言葉を鼻で笑い飛ばした。

「今回のお見合いも、今後のサポートについても私以上に気合を入れているのは彼女の方だ」

「……はい?」

 理解できず問い返してしまった。すると、なぜかジト目を向けられる。

「セシリアがカタリナのことを実の姉のように慕っているのは君も知っているだろう?」

「まあ……そうね」

 会うたびに、「カタリナお姉様」と呼んでぴったりくっついてくる彼女の姿を思い浮かべる。カタリナのプラチナブロンドの髪も、アイスブルーの瞳も、泣き黒子も。全てが彼女の琴線に触れたらしく、出会ったその日からなぜか慕われているのだ。


 フェリックスが溜息を吐きながら、つい……と視線を数センチ開けられた扉の外へと向けた。

「今回の婚約破棄について、セシリアがかなり腹を立てていてな」

「え? あの子に教えたの?」

「まさか。勝手に知っていた……使用人には注意しておいた方がいいぞ」

 それはつまり、公爵家の使用人が買収された。もしくは、セシリアの息がかかった人間が潜入していたかのどちらか。

(さすが情報関係では右に出るものはいないと言われているローウェル伯爵家だわ。ただ……その貴重な人材や技を私的な趣味で使うところは理解できないけれど)


 カタリナの気持ちを見透かしたかのようにフェリックスが首を振る。

「完全に排除するのは諦めた方がいい。根気合戦になるからな。まあ、カタリナが本気で縁を切ると言えばセシリアも止めるかもしれないが……」

「実害がないなら別に構わないわ。でも、教えてくれてありがとう」

「ああ。……って、何だか変な感じがするな。こうしてゆっくり話すのは久しぶりだからか……一応、私も幼馴染なはずなんだが」

「そうね。フェリックスとこうして話すのは……もしかしたら十年ぶりかもしれないわね」

「だな。私に婚約者が出来てからは三人で話すこともなくなったし、それ以前もオーギュストを必ず間に挟んでいたから……」

 過去を懐かしんでいると、聞き覚えのある足音が近づいてくるのが聞こえた。

 扉の外が騒がしくなる。女性と男性の争うような声。フェリックスと顔を見合わせ、ほぼ同時に溜息を吐いた。


 元々開けていた扉をさらに開けば、そこには部屋に押し入ろうとしているオーギュストと、それを止めようとしているメイドに扮したセシリアがいた。

「まったく……あなたたちは何をしているの?」

「も、申し訳ありませんお姉様!」

 慌てて、深々と頭を下げるセシリア。

 オーギュストは謝ることすらせずに、非難の目をセシリアに向けている。

「僕はカタリナに用があって、会いに来たんだ。それなのに、セシリア嬢に止められて……。って、それよりも、どうして二人だけで茶会を? フェリックスの婚約者はセシリア嬢だろう?」

「それは……」

「ただの茶会ではありませんわ! これは婚約者公認のお見合いです!」

 カタリナたちが説明する前に、セシリアが言い切った。

 オーギュストは目を丸くし、「見合い?」と呟き、ぐっと眉間に皺を寄せた。鋭い視線をフェリックスにぶつける。その目には怒りと侮蔑の色が混じっている。

「婚約者公認の見合い? なんだそれ……。カタリナと上手くいくようなら、フェリックスはセシリア嬢との婚約を破棄するつもりなのか? そんなの、不誠実じゃないか。カタリナにもセシリア嬢にも。せめて、きちんとセシリア嬢との婚約を白紙にしてからにすべきだろう!」

 カタリナは唖然とした。オーギュストの言い分は分かるが、それ以上にもやもやする。それに、この見合いは『予行練習』だ。勘違いだと、カタリナは説明しようとしたのだが横やりが入った。

「私がいいと言っているのです! 今この場で一番邪魔なのはオーギュスト様ですわ! さあ、出て行ってくださいませ! 婚約を破棄したのですから、今後二度とお姉様に近づかないでくださいませ! さあさあさあ!」


 セシリアに追い立てられるオーギュストという珍しい構図。


「な! 僕は君たちのためを思って。というか、僕は婚約者としてではなく、幼馴染としてカタリナに話がっ」

「カタリナ嬢とお呼びくださいませ!」

「そ、それは、分かった。……カタリナ嬢に用事がある。これでいいんだろう⁉」

 顔を顰めたまま、セシリアはちらっとカタリナに視線を向けた。

 カタリナは疲れたように「はあ」とため息を吐く。

「オーギュスト様。用事とは何でしょう。急ぎですか?」

 そうでなければ帰ってくれと言外に伝える。これは予行練習だ。とはいえ、お見合いの最中に、元婚約者を招き入れることなんてありえない。初めてのカタリナでも、それがマナー違反だということはわかる。

 カタリナの拒絶ともとれる態度にオーギュストは傷ついたように顔を歪ませた。


(いや、なぜそんな顔をするの……)


 顔つきは公爵に似ているのに、表情は夫人に似ている。その表情にカタリナが弱いことを知っていてわざとしているのかと問いただしたくなる。


「それは……ここではちょっと……」


 オーギュストの視線の先にいるのはセシリア。どうせ、彼女に黙っていたところで、彼女が本気になればその情報は筒抜けになるのだが。それでも、隠したい……というより、目の前では言いづらい内容のようだ。

 ならば、とカタリナは口を開く。


「では、お話はまた今度。それではさようなら。セシリア。少しだけ、借りるわよ」

「ええ、もちろんですわお姉様!」

 目を輝かせ頷くセシリアは、フェリックスにアイコンタクトを送る。それに応えるようにフェリックスがすぐに動いた。

「カタリナ。続きは中で話そうか」

「ええ」

 カタリナの腰に、フェリックスが優雅に手を添える。実際は、触れているようで触れていない微妙な距離を保っているのだが、オーギュストからは分からないだろう。

 エスコートされ、カタリナは踵を返す。後ろで何かオーギュストが呟いた気がしたが、それには気づかないフリをした。セシリアが強引に扉を閉める。もちろん、わずかな隙間を開けて。けれど、それだけでもオーギュストとカタリナの間に線を引くには良い小道具になっただろう。――もう彼を招くことはないという意思表示として。

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