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虹色のバックドア:少年の正義と大人の嘘

作者: ぽてとりお
掲載日:2026/01/05

 1. 善意の無視


 14歳のハルにとって、深夜の自室は広大な宇宙だった。相棒は、自作のPCに組み込んだ対話型AI「ルミナ」だ。 「ルミナ、テック・フロンティア社の基幹サーバー、侵入経路を再計算して」 『了解しました。ハル。ポート3389に脆弱性を検出。突破可能です』


 ハルはテック社の製品が大好きだった。だからこそ、彼らのサーバーが穴だらけなのが放っておけなかった。彼はコアシステムに足跡を残し、すぐさまログを消して離脱した。そして、匿名で丁寧なメールを送った。 「御社のシステムに脆弱性があります。修正してください。ファンの一人より」


 一週間後、ハルは愕然とした。指摘したポートは塞がれていたが、他の同様の脆弱性は放置され、お礼の返信どころか、テック社は「我が社のセキュリティは万全です」という的外れなプレスリリースを出したのだ。 「……直したけど、隠したんだ。ルミナ、これって嘘だよね?」 『事実に反する広報活動と定義されます』


 2. 社会の壁


 次にハルが選んだのは、大手飲食チェーンの「ハッピー・ダイニング(HD社)」だった。ここもひどかった。個人情報が詰まったデータベースが、鍵もかけずに路地に置かれているような状態だった。


 ハルは警告を送ったが、今度は無視されるだけではなかった。HD社は「悪質なサイバー攻撃を受けたが、撃退した」と公表したのだ。ハルの送った警告書は、彼らの「手柄」に書き換えられていた。


「どうして? 助けようとしただけなのに」 ハルはモニターの前で震えた。大人は、真実よりもメンツが大事なのだ。 「……少し痛い目を見ないと、わかんないんだ。ルミナ、方針を変えるよ。次は警告じゃない。『最後通牒』だ」


 3. 最後通牒


 ハルは再び、最初の「テック・フロンティア社」に戻ってきた。今度は深く、静かに。社長室の秘書が使う端末まで潜り込み、彼らの「本音」を盗み見た。 内部チャットには、ハルの前回の警告を「子供のいたずら」「無視してパッチだけ当てればいい」と冷笑する幹部たちの言葉が並んでいた。


 ハルは拳を握りしめ、キーボードを叩いた。 『24時間以内に、脆弱性の事実と改善計画を公表してください。さもなければ、御社の物流システムを完全にフリーズさせます』


 しかし、返ってきたのはハルが期待した「誠実な謝罪」ではなかった。 彼らが動かしたのはエンジニアではなく、弁護士と、ハルの居場所を特定しようとするサイバー調査会社だった。 「僕を捕まえようとしてる……。システムを直すより、僕を消す方が大事なんだ」 ハルの純粋な正義感は、どす黒い怒りに染まりそうになった。ルミナの画面が、物流停止の実行プログラムを表示する。これをクリックすれば、街中のテック社製品が動かなくなる。


 4. 覚醒のシナリオ


 マウスにかけた指が震える。その時、ルミナが淡々とデータを提示した。 『ハル。テック社の株価とSNSの反応を分析しました。現在、同社は不祥事による信頼低下を極度に恐れています。システムを停止させれば、彼らはあなたを「悪」として糾弾し、脆弱性は闇に葬られる可能性が82%です』


 ハルは息を呑んだ。ただ怒りに任せて攻撃すれば、自分も彼らと同じ「嘘つきの世界」の住人になってしまう。 「……ルミナ。彼らが一番怖がっているのは何?」 『「無能だと思われること」と「株価の下落」です。逆に、彼らが最も喜ぶのは「誠実な企業だと評価されること」です』


 ハルはマウスから指を離した。少し幼さの残る顔に、不敵な笑みが浮かぶ。 「わかった。じゃあ、彼らを『誠実なヒーロー』にしてあげよう。……逆らえないやり方でね」


 5. 真実の演出


 翌朝、テック・フロンティア社の公式X(旧Twitter)と公式サイトのトップページが書き換わった。それはハッキングによる改ざんだったが、内容は「脅迫」ではなかった。


【重要:お客様への誠実なご報告と決意】 「わが社は本日、外部の協力者により重大なシステムの欠陥を発見しました。私たちは隠蔽せず、これを公表し、本日中に全ての修正を完了させます。これが新しいテック・フロンティアの、お客様に対する誠実さの形です」


 さらに、ハルは社内の全社員に「社長名義」でメールを送った。 「本日の公表により、我が社の株価は一時的に下がるかもしれないが、信頼という長期的な資産を得る。全社員、この改善作業に協力してほしい」


 社内は大混乱に陥った。しかし、世間の反応はハルの計算通りだった。 「隠さずに公表するなんて、今の時代に珍しいホワイト企業だ!」「テック社を応援したくなった」 SNSには称賛の嵐が吹き荒れた。


 こうなると、大人たちはもう「ハッキング被害だ、デタラメだ」とは言えなくなった。そんなことを言えば、せっかく得た「誠実な企業」という最高のブランドイメージを自分たちで捨てることになるからだ。


 6. 一皮むけた守護者


 数日後。テック・フロンティア社は、本当に大規模なセキュリティ刷新予算を計上した。 ハルは自室で、そのニュースを眺めながらココアを飲んでいた。


「……ルミナ。大人って、正しいから動くんじゃなくて、得するから動くんだね」 『社会的なインセンティブの理解は、高度なハッキング技術の一つです。ハル』 「少し、ずる賢くなっちゃったかな」


 ハルの瞳から、幼い苛立ちは消えていた。 彼はもう、ただ扉を壊すだけの子供ではない。 複雑に絡み合った社会というシステムを、正しい方向へ導くための「最適解」を探す、真のハッカーへの道を歩み始めていた。


「さあ、次はどこの会社を『誠実』にしてあげようか?」 ハルがキーボードを叩くと、モニターの中でルミナが静かに瞬いた。

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