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其の肆 霧隠才蔵

天文2(1533)年 9月

春日山城 とある一室


今日はとても穏やかで気持ちの良い日だ。

外から流れる気持ちの良い風が秋を感じる。


転生してからもう早3年、時が経つのが早いなとしみじみしながら私は本を読んでいた。

すると奥の部屋からミシッ…という音が微かに聞こえた。


「だれ?!」

私は思わず音が聞こえた方へ声を出す。

「………驚いたな」

微かに声が聞こえた。

私も声を出さずに静かに様子を見る。


「申し訳ございません、才蔵に御座います。」

「なんだ、貴方か。ちょっと待って」

私は小さな身体で立ち上がり、襖から外を覗き、暫くキョロキョロした後、襖をそっと閉じた。


「で?首尾は?」

後ろを振り返らず、その体制のまま話しかける

「上々に御座います。まさに姫様の思った通りに進んでおると思われます。」

「思われます…か、まぁ上出来かな?」

「何か不満な点でも?」

「いや、私らはそのままの予定で進めるつもり、だから出来れば曖昧な解答は避けたい所だが、今はそれが限界か…ごめん、ありがとう」


さてどうするか…ココからの動きが肝心なのだが…

「…姫様、何故佐渡を御狙いになるのですか?」

………まぁ気になるよね……

「知りたい?」

「まぁ一応は…」

「知ってどうするの?戸隠の里に報告でもする?」

「なっ!!」

…やっぱり…

「ふふっ…バレてないと思った?まぁでも特に敵対とかする所作は無かったし、もう少し探る為に泳がせても良かったんだけど、私一人じゃ限界だしね」


私の後ろに居る者は名を才蔵と称した戸隠の忍び。

昨年の三月の謙信(わたし)の誕生日に晴景(あに)が三つだけ好きなモノをなんでも買ってやると言われ要求したプレゼントの一つで、将来私の最初の家臣になる予定の人物だ。


「……いつから、お気づきになっていたのですか?」

「割と最初からかな?元々謙信(わたし)が幼いうちから色々手を打ちたくて、晴景(あに)ばかりには頼れないから、どうしても自分の駒が必要だったの。だから忍びを雇いたいって打診してもらった。でも会ってみたらなんか違う気がして、時より動きをこっそり観察とかして様子見てたんだけど…ハハハなーんて冗談、テキトーこいたわ。冗談のつもりでふざけて言ってみたんだけど、まさか当たってるとは驚いたねーイヤーコレで長尾の情報筒抜けかー」


「……ご安心下さい。ココには今真に某と姫様だけに御座います。里にも伝えません、お約束致します。ですからお教え願えませぬか?」


「………佐渡には金山銀山がある。」

「え?…」

「今の佐渡は越後(うち)と同じで御家の内部抗争の状態になっており、佐渡(くに)の開発どころじゃ無い。だが確かにある、勿論砂金じゃない、ちゃんと金や銀・銅が出る山が確かに多数存在する。見つかってないだけで、間違いなく存在する、場所も分かってる。」


「っ!!」

………バっ、バカな…

そんな事あり得るはずがない…

見つかってないのに、何故金山銀山があると言い切れるのだ、場所も分かってるだと?

そんな事ありえるはずが…


「な〜んて、嘘々、冗談冗談アハハーー…………って言ったら……どうする?」

すると幼子は急に声のトーンを下げ忍びに振り向いて笑顔を見せ……たように見えたが、その瞳は笑ってなかった。


「…………」

…こりゃあ、参った。

正直ゾッとしていた。

まだ齢4つの者にしては頭がキレすぎていると思ってはいた、でもそれは越後長尾家だからだと勘違いしていた。

しかしおよそ見当違いだった。

長尾じゃない、ヤバいのはこの幼子だ。

「あ、貴女様は一体…何者に御座いますか?」


「毘沙門天の生まれ変わり…」「…の転生者(小声)」


…毘沙門様の……フハハそうか、そういうことか…

「申し訳ございません」

これは…

「某勘違いしておりました」

勝てない

「この生涯をかけて、姫様を御支え致します」

見てみたい!この子の行く末を!


「っ!!本当に!?」

「えぇ、もう嘘偽りはございません。妻子は置いてきます。」

「えぇっ!子供居たの!」

「??え?えぇ…下忍故たいした家庭ではございませんが…」


「よし!すぐ連れてこよう!兄上にお願いして…」

「ちょ…ちょっとお待ちを…そ、それは…」

「給料どうしてたの?」

「え?…」


「最初に雇った時以外にも、働きに応じた額を兄上から渡されていたはず、どうしてたの?それ…」

「あ、いや…その」

「さっきの話が本当なら腑に落ちるよ、どーせ家族にこっそり渡してたんでしょ?それに下忍ってのも嘘でしょ?私には相当な手練に見えるけど?」


「まさかそこまで、見抜かれてるとは…コレでは真に隠し事は出来ませぬな…忍びより上をいくその勘、その幼さで、まさに神童。いや恐怖すら覚えます、越後の怪童に御座いますね」

「怪童…納得いかん……はぁ…まぁええか、ん!おんぶして、晴景(あにうえ)の所に行くよ。連れてって!」

「若君の所へ?」

「首尾の話とか、佐渡を堕とす作戦会議よ!早く連れて行きなさい!」

「…フッ、承知」


ー春日山・本丸ー

「兄上ーー」

「ん?虎か?入れ」

「では失礼致します」

そういうと丁度兄の真後ろ襖を開けて室内に入る、兄は予想外の所からの来客に少し驚いた表情を浮かべた。

「ビックリした!」

「内容が内容だからね、周りには誰も居らん?」

「あぁ、今この部屋には俺だけだ。」

「分かった、じゃあ話しの前に、起請文書いて」


「は?」

「才蔵が裏切らないように誓いを立ててもらおうと思って、ほら早く!」

「え?…お、お前本当に堕としたのか…」

「ニヒヒ」

「えぇ〜…其方本当にいいのか?」

「は!もう既に覚悟は出来て御座います。」

「そ、そうか……」

じゃあ…と定景はスラスラと起請文を書きとめた。


「ほら、ココに其方の名と誓いを立てよ」

「は!」

「ちょっと待って!!兄上……ゴニョニョ」

「は?後で怒られても知らんぞ…」

そういうと兄は再び筆を走らせた。


「あ、ごめんだけど、暫く目瞑ってもらえる、大丈夫になったら声掛けるから」

「は!」


「ほら、書けたぞ。コレで良いか?」

「うん、上出来!!才蔵目開けて良いよ」

「は!」


目を開くと目の前に紙が置いてあり、紙にはこう書かれていた。

霧隠才蔵(きりがくれさいぞう)…?」

「そ、貴方の新しい名前。"霧隠才蔵虎翼(とらすけ)"。虎は私の名前からの偏諱なんだけど、どう?」

「え?あの…」

「さっき二人で話してた通り、私は貴方の事を評価してるんだけど、多分周りは違ったんじゃない?で、さっきの話で自分は下忍だと言ってたからもしかしたらと思って。嘘が上手い人って、嘘に真実を混ぜて話すって言うし」

「まさかそこまで評価していただいていたとは、流石に…困りましたな、これでは益々里には帰れませんな」

「あ、兄上。この人の家族も越後に連れてきても良いよね?」

「は?えぇ〜無茶を言うなよ…」


その返しを受け私はキラキラした目を見せた。

折れろ

「わ、分かったって、何とかするよ…」

「よし!良かったね!じゃあ話し合いの続きをしようか佐渡攻略についてね!」


架空の人物、霧隠才蔵です。

イメージモデルは真田十勇士の霧隠才蔵ですが、同一人物ではありません。

今回の作中では、たまたま才蔵という名前の下忍に主人公が惚れ込み、未来の知識として霧隠才蔵が架空の人物である事を知っていた為、"本物"にしてしまおうと名付けたという設定にしております。

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