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第二章 五幕

 トライア教とは、マリアの説明にあったようにミリー地方の主要な宗教である。多神教であり、聖典は「神の章」と「人の章」に分かれている。神の章においては古の神々の物語が書かれており、重要な内容として三度に渡る大戦があったとされている。その後、人の時代が訪れる「人の章」の内容へと移る。歴史に残る人類よりも遥かに昔の人類のことが書かれている。そこには神が出てくるため、歴史書ではなく神話、あるいは当時の文明では理解不能だった自然現象が表されているという推測がされている。

 その「人の章」において、人による戦乱が書かれているのだが、その争いで大きな活躍をした英雄がいる。その英雄は身の周囲に雷と炎を纏い操り、槍を振るっていたと記述があり、ただの槍使いだけでなく魔術師のような戦い方をしたのではとされている。特別な名はわかっておらず、便宜上トライア教の研究所では「名無しの雷炎」と研究者から呼ばれている。


 シュウはこの英雄のことを知らない。彼は知識としてトライア教の大まかな雑学を知っていても、敬虔な信徒というわけではないからだ。

 シュウ・ハリーは裕福な家庭や、ジョージのように由緒ある家系の出ではない。彼が魔術を使った戦闘に触れるのは大学入学時、先輩との間に起きたいざこざを解決すべす、先輩からの提案で決闘したからだった。人と戦うのも、魔術を戦闘で使うのも初めてだった。

 とにかく距離をとるために長い杖を使いたかった。魔術を人に向かって使うのは慣れていなかった。そしていざ始まった決闘。明らかに怯えていた先輩。脅して喧嘩を売れば乗ってこないと踏んでいたのだろう。そして一切動揺していない自己を認識したとき、次の一歩の先には、杖を振りかぶって突撃している自分がいた。

 先天的なセンスで物理攻撃と魔術攻撃を混ぜるという戦法を思いつき、先輩相手に圧勝した。その後、連日の決闘により一気に二位に勝ち上がり、ムーリアリアには挑まずに今日に至る。


 彼の戦法は、聖典において描写される「名無しの雷炎」に酷似している。しかし彼がこの戦法を取っているのは、名無しの英雄への敬意からではなく、偶然の一致と言える。あるいは物理攻撃と魔術を併用する戦法において、収斂的な最適解なのかもしれない。

 物理攻撃という暴力に不慣れな現代において、近接攻撃をいなさなければならない。そして近接攻撃の連撃の隙間を魔術攻撃で埋める。熱攻撃か氷塊による攻撃かもわからない。初手を誤らなければ攻撃し続けることが可能であり、遠距離中心の魔術戦闘に置いての意外性もある。


 故にシュウは久々の戦闘でも接近のタイミングを見ていた。様子見の遠距離攻撃によってジンの動きを観察した。確かに動けるが、予想の範疇を少し超えただけ。おそらくこれまでの決闘でも、ジンは遠距離攻撃しか相手どらなかったはず。そして油断しているジンの心の隙間に入り込んだ。人間関係でも戦闘でも、人の心を弄ぶのが上手い男だ。東方の異邦者という未知の敵に対して。間違いなくこの戦略は最適解。


 しかし今回だけは、今回だけはこの戦略は悪手だった。

 ジンに大きく接近したシュウの全身に衝撃が走り回る。次に違和感。頭が意図した通りに体が動かない。意図しない動きをしているわけではない。振ろうとした武器が弾かれていると悟る。

 次に痛み。衝撃があった箇所に鈍痛が走る。ほぼ味わったことのない、固いもので体を殴打される痛み。

 そして気付く。ジンが目にも留まらぬ速さで自分を殴打したことに。自分が振り下ろした杖。それをジンは杖で振り払い、その反動で一撃、舞うように五連撃を加えた。東方の現代の武勇が、日の目を浴びる時が来ていた。

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