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なろうラジオ大賞6参加作品たち

隣の席の下野君が寝言で卒業式答辞のイメージトレーニングをしているけれど、答辞担当は私である。

 私はたつみ。高校生だ。最後の学校行事である卒業式をひかえていた。


 私は「卒業生代表の答辞」を担当することになっており、日々練習している。

 もう三年生の授業も残りわずかというある日。隣の席の下野君が居眠りをしていた。


「卒業生代表、下野……在校生に、感謝申し上げます……」


 やたらとリアルな寝言だ。

 最初は聞き間違いかと思ったが、確信した私は、昼休みに下野君を問い詰めた。


「答辞をする夢を見ていたの?」


「夢の中では、巽がケーキにあたって腹痛で出席できなくなっていてだな。代役の俺が華麗に答辞するんだ」


「縁起でもない夢ね」


「倒れるのが正夢にならないとも言い切れないだろ」


「私が倒れる前提やめてよ。ほんと、縁起でもないから」


 下野君はまるで聞く耳を持たず、「備えあれば嬉しいな」と言い残して立ち去ってしまった。


 その日から居眠りの寝言は毎回それ。本当に倒れたらどうしてくれるのよ!


 そして迎えた卒業式当日――緊張で震えながら登校した。予鈴がなったのに隣の席が埋まらない。


 先生が教室に入ってくる。


「出欠を取るぞー。下野は腹痛で休むとさっき電話が来たが、他のみんなはいるな?」


「えっ!?」


「昨日の夜にお母さんの手作りケーキのマグロを食べてあたったと言っていた。生クリームと生魚は出会っちゃいけなかったとかなんとか」


 生クリームマグロのケーキってなに。

 深く突っ込まないほうがよさそうだ。クラスメートたちも曖昧な笑みを浮かべている。



 緊張はしたものの、私は卒業式で無事に答辞を読み終えた。

 会場からは拍手が湧き起こり、胸を張って席に戻った。

 卒業生退場で教室に戻り、先生から卒業証書を受け取って解散となる。


 スマホがメッセージ着信を告げる。開いてみると下野君からだった。


『俺がかわりに答辞する予定だったのにマグロケーキのせいで』

「マグロケーキってなに」


 無言でケーキ(たぶん)の写真が送られてきた。生クリームでコーティングされたスポンジ。苺のかわりにマグロがトッピングされている。

 後ろからのぞき込んできたクラスメートたちが写真を見て爆笑する。


「下野、マジでこんなヤバい物体食ったん?」

「アタシなら見た目の時点で食べるの拒否するわ」

『許まじマグロ』


 下野君は、同窓会のたびにマグロケーキで倒れたとネタにされることになった。

 ドンマイ。

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― 新着の感想 ―
 思わず、有名な「星を仰ぎ見るパイ」(スターゲイザーパイ)を思い出しました。マグロケーキって、やはり、人間はそーゆーことを思いつくものなのですね。  ちゃんと、答辞のお役目を果たせて良かったです。
マグロケーキ!? 検索したら実在するしΣ(゜Д゜) というかマグロっぽいデザインのケーキかマグロの刺身をケーキっぽくしたのしか出てきませんが……果たしてどんなケーキだったんでしょうね。 とにかくご…
下野君のお母さんは、なかなか個性的な料理のセンスをお持ちのようですね。 調べてみました所、すり身にした真鯛を豆乳や生クリームと合わせたムースや白餡と黒蜜を用いた鯛の和風スイーツなど、魚介類を使った甘い…
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