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7・進軍ってこんなだっけ?

 いざ出陣に集まったのは騎馬武者ばかり、徒歩が一人も見当たらない。

 従者は連れて行かないのだろうか?補給部隊は別に集合しているのだろうか?


「徒歩?今回雑兵は連れて行かないし、補給もない。そんな時間のかかる戦いにはならないと思うよ?」


 とは、姫さま談である。


 はたしてそれで良いのか不安しかないが、意気揚々と出立する面々に不安の色はない。


 出立して街道らしき道を悠々進んでいくと低い峠を越え、なだらかな丘陵地帯を延々進んでいく。それも急ぐでもなく進軍するのだから、はたして戦に行くのか散歩に出たのか分からない。


 そんな日暮れ前には村らしきものが眼前に見えてきた。


「よし、まずはあの館を落とす」


 と、姫さまが宣言し、三分の一くらいを割いて攻略部隊を編成し、さっそく突撃して行った。


 僕はそれをただ見ているだけで、真っ先に突っ込んだ姫さまが振るう刀からほとばしる稲妻が館の門をはじき飛ばし、建屋の軒をはじき飛ばし、それをあ然と見つめるうちに戦いは終了した。


「ほっほ、凄かろう?雷神と呼ばれるあれが、姫さまの姿だよ」


 隣に控える爺やがそう教えてくれた。


 今日はこの村に泊まるという。


 村人も館の者達も、なぜか侵攻部隊を普通に受け入れ、僕の前には食事が置かれている。何で?


 それは控えめにバターらしきものが乗っかるジャガイモで、どう見ても、前世のソレである。


 食べた感じは可もなく不可もなく。


「ん?これは良いイモだな。うちのよりも甘みがある!」


 と言い出す姫さま。


 そして、少々疑問だった事を尋ねてみる事にした。


「今回の騎馬武者にかなり女子が混じっていますが······」


 それを聞いた姫さまはキョトンとするばかり。


天国(あまのくに)では女武者は稀有なので」


 と、さらに付け加えたら、ようやく理解したらしい。


「そうなのか?(あずま)では普通のことだよ。それに、若い女の方が妖気が多い。子に分ける前の女こそ戦に向いているんだけどねぇ」


 と、聞かれてしまった。


 それは初耳なんだけど?天国(あまのくに)ではそんな話は聞いたことがない。


「やっぱり西国は古いねぇ。と言っても、大島だってそうは事が運んでないらしいけどね」


 と、東国事情を説明してくれたところによれば、妖気を測る方法が大島から伝わり、話の通りに若い女性が一番妖気を保有している事が分かったそうだ。

 

 しかし、それだけで女性が武者として適性があるかと言うと、そんなウマい話はなかったと。

 実際に適性者を見つけるのは難しく、身分に拘っていては人が集まらなかったらしい。


 そこで、姫さまの父は身分に拘らずに人探しを行い、千人からの女武者を育てる事に成功したらしいが、それは東国のシガラミを壊す様な行為でもあった。


 それはそうだ。


 次男以下や女性は家にとっての駒。より身分がある家へ、或は世継ぎの居ない家へ送り込んで縁や手勢を増やす手段なのだから。

 この辺りは天国とさして変わらない。


 が、武家、公家、百姓問わず適性の有る女性を集めて部隊を編成した。

 ここで功績を挙げた武者はどうすれば?


 その問題を無視して姫さまという稀有な妖気持ちへと家督を譲った父は、周囲から攻撃を受け、領地の半分を失い討ち死にしたらしい。


 ちなみに、これから攻めるのは、元家臣。ここは旧領。なるほど、それは納得だよ。


「そう気にしない!サクッと討って終わりにすれば良いんだよ」


 と、元気な姫さまだった。 


 翌朝、すでに配下と化している館の者たちに見送られ、僕たちはさらに進軍を続けた。


 うまい具合に昼過ぎには次の村?町?があり、今回は戦うことなく降伏して来た。


 昨日同様に悠々と陣を解いて食事の準備を始める軍勢。どうやら今日はジャガイモではなく、ナンだ?


 クレープの様な物体の上に色々と乗せられたモノ、少し厚みのある物は単体で置かれ、緑色のグリーンカレーの様な物体を満たした皿が側には置かれている。


 どうやって食べるのか分からず、チラッと姫さまを見た。


 意図を理解したのだろう。僕を促すようにまず、具材が乗せられたクレープを丸めてかぶりついた。僕もマネをしてかぶりつくと、それはどうやらシカ肉とシャキシャキしたナニカ。見た感じ、はつか大根かな?

 そして、グリーンカレーな物を厚みのあるナンだか分からないモノをちぎって掬って食べる。

 こちらは豆のスープらしく、全くカレーでは無かった。


「どうだい?」


 と姫さまに聞かれたので、おいしいと答えておいた。


 まるっきり気候が違う事から、和食然とした天国(あまのくに)で食べていたらしい食事とはまるで別物である。海を渡ることなくこれほど食文化が違うのには驚くしかない。


 これが戦かどうかよく分からなくなった3日目、館も砦もない村で泊まることになった。


 ここでも姫さまは歓迎を受けることになったが、旧家臣の領主ってそんなに人望がないのだろうか?


疋勿(あしな)と言うのはそこまで人望がないのですか?」


 そう聞いてみると、笑っている姫さま。


「アイツに人望なんかある訳がないよ。父を裏切ってまんまと領地を手にしたは良いが、やることなす事裏目にしか出ていないんだから」


 との事である。石灰鉱山も手に入れたはずなのにほとんど手を付けることも無く、ひたすら周辺の領主たちに媚びを売ることに精を出し、全く何も出来ていないという。


「仕方ないけどね。主を裏切って領地を手に入れたは良いけど、複数から声を掛けられていたものだから、誰に付くって事も出来ずに曖昧に過ごしてるんだよ」


 との事である。


 優秀だから見限って反旗を翻したわけではなく、鹿地払(かちはら)と似た境遇だったらしく、上手く転身したはいいものの、その後の身の振り方が定まっていないらしい。


「ふ~ん、順大(よりとも)を襲っていたのが、近習衆ねぇ。なら、成功しても疋勿(あしな)と一緒で地歩が固まらずにウロウロする事になったかもね」


 と、どうやら僕が思っている事と同じらしい。


 そうそう、3日目の食事は麦粥と気のアルコールの抜けたビールっぽいナニカだった。


 

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[気になる点] 〉そうそう、3日目の食事は麦粥と気のアルコールの抜けたビールっぽいナニカだった。   麦茶の様なモノでしょうか? 
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