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3・何か別の怪しい人に捕まった

 僕は妖気を使い、いわゆる身体強を行いながらとにかく走った。それはもう、宛てもなくただひたすら走った。


 夕暮れを迎えて辺りが見えにくくなる頃、それでも後ろから声がする。


 鬨統(ときむね)さんの足止めは大した効果を発揮することなく、鹿地払(かちはら)は僕を追いかけてきている。


「待てえ!!面汚しめ。御前のご意向である。さっさと殿の元へ参られよ!!」


 言ってることが無茶苦茶だ。なんで母の意向で僕が殺されなきゃならないんだ。それも、コイツが丙家に取入る為にだ。そんな事のために死んでたまるか。


 さすがに咄嗟の事で武器も鎧の類もない。鹿地払は確か身体強化によって金棒を振り回すのが得意だったハズ。膂力と持久力が買われて取り立てられたヤツなので、基本的に頭は悪い。体の良い肉壁なのだが、この度の戦では何を間違ったか、その肉壁がかすり傷程度で生き残り、父や兄が討たれるという大番狂わせが起きている。


 その状況でコイツが玄家内でやって行けるのかと言うと、まあ無理だ。頭が悪いなりに母にすり寄って悪さを思いついたのだろう。あまりの力技でこの有様だが。


「待たんか!!さっさと討たれて御前に首をお見せしろ」


 もう、何言ってるんだろうかコイツは。


 妖気が多い僕でもさすがに疲れて来るが、奴は未だ元気に追いかけてくる、疲れという言葉すら知らず、疲れを理解できないんじゃないか?アレ。


 とっさに逃げ出したのは良いが、下手に西へ逃げると新手が居るかも知れず、とにかく東へと走ったが、気が付いたら平野を突っ切り森へ入り、ここが何処かもわからない。


 そろそろ限界かと思ったところでうまい具合に窪地を見つけ、そこへと隠れ鹿地払をやり過ごす。


「どこへ行った!!面汚しめ!!」


 そんな吠える声が聞こえる。


 そっと窪地から覗くとあたりを探す姿が薄暗い中に見えている。一か八かで石を拾い、石に妖気を付与し、鹿地払へと忍び寄る。


「そこに居たのか!!」


 草の擦れる音で位置がバレたのか、叫んでこちらへと近づく鹿地払。しかし、僕が見えている訳ではないらしく、大体の見当で近づいて来る様だ。


「さあ、出てこい面汚し。すっ首御前に差し出し俺は居心地の悪い近習衆を抜ける!!」


 もはや願望ダダ洩れではないか。そんな欲望だけで僕が発見できるのか?


 息を殺して鹿地払が近付くのを待ち、頭へと石を投げつけてやる。


 すると、石が当たったであろう瞬間、急に静かになり、そのまま惰性でこちらへと歩みを進める姿が見える。その顔からは感情が抜け落ち、目もうつろな状態で何を見ているのか分からない。

 僕は隙を衝いて鹿地払の前へと躍り出るが反応は無く、手にした太刀を難なく奪う事が出来た。


 太刀を奪われても反応せずに歩みを進める鹿地払を、思いっきり袈裟斬りに斬りつけるも、痙攣したような反応をするだけで倒れ伏してしまった。

 とりあえずトドメに太刀を胸に突き立て、呼吸が止まったことを確認する。


 そして、鹿地払が歩いて来た方へと辿ると、石と共にこぶし大のナニカが落ちているのが見えた。


「そっか、大脳が半分くらい切り取られて運動神経だけで動いてたのか、あの物体は」


 石がぶつかった時点で、もはや人間としては死んでいたという事らしい。


 ようやく追手は倒したのだが、ここが何処か分からない。少なくともマラソンランナー並みのペースで4時間以上走ったはずで、つまりは鎮台から最悪80km近く離れた事になる。徒歩で2日以上の距離と言う事になるか?


 東境(とうきょう)の地理などまるで分らないのでここが何処か、どう帰ればいいのか分からない。


「遭難したぁ~」


 妖気も随分使ったのでもう一度走るのもちょっと難しいし、日も落ちて足元も覚束ないので下手に動き回っては余計に迷うだけな気がする。


「おやおや、こんな所で迷子かな?」


 そんな声が聞こえた。しかし、どこに居るのかよく分からない。


「ここだよ、ここ」


 そう声が聞こえるが、どこから聞こえるのかよく分からない。この世界にモンスターは居なかったと思うが、何が居るのか、実はよく分かっていない。この声がモンスターでなければ良いんだが・・・・・・


 そう言えば、東境のさらに東には悪鬼羅刹と恐れられる者たちが住まう国があるという話だったか。


 辺りを見回すが、声の出どころすらよく分からない。


 その時、ふと背後に気配を感じたと思ったら、何かに拘束された。


「ほうら、捕まえた」


 不思議な事に妖術を使う事も出来ない様に拘束され、もちろん、逃げ出す事など不可能。


「変なのが騒ぎながらこっちに来るから見に来て見たら、凄いものが見れちゃったよ。君、何したの?」


 優しそうな女性の声でそう問いかけられたが、声とは裏腹に抵抗する事が出来ない拘束のされ方をしている。


「そっかぁ、西国の位の高い武人の子供みたいだけど、何かやったの?相手は獣並みに思慮が足りないみたいだったけど。ねえ、石と一緒に飛び出したのって、アイツの体の一部だよね?」


 どうやらそこもしっかり見ていたらしい。


「矢に槌みたいな力を持たせるとか、火矢を放つとかは知ってるけど、体を抉るとか、ちょっと見たことないんだよね。君、どこの子?」


 ちょっと近所の子供と話す様な口調で聞いて来るけど、拘束力は並みじゃなく、問われた内容も普通じゃない。

 きっとこの女性、ガチの武者だ。それもヤバい系の。絶対戦場では出会いたくない一騎当千と言う奴。最低でも父並みの強さはあると思う。


玄 順大(くろのよりとも)


 素直にそう答える。きっと下手な抵抗は死に直結すると思ったから。


「へぇ~、玄家。それも名前からすると直系かぁ。そりゃあ、強い訳だ。でも、つい最近戦で負けたよね?直系って」


 と聞いてくるので、これまでの経緯を簡潔に説明した。


「なるほどなるほど。それは災難だねぇ。じゃあ、このまま西国へ帰ると捕まっちゃうね」


 そう言って拘束が解けた。そして、振り返って見たのは、ちょっと年上そうな顔だちの女の人だった。

 

 そこで疑問が浮かんだ。

 この女性は何といった?西国?自分のいる国だったらそんな風に言うか?


「もしかして、東国の‥‥‥」


 僕は警戒しながらそう声を掛ける。


「うん、頭もいいね。服も鎧も関係なく触れた者の体を抉る術。そんな強い術を持った上にちゃんと考えることもできる。(あずま)でも一握りの才能だよ、君。私のモノにならない?」


 と、ちょっとよく分からない褒められ方をした。なにせ、出来損ないや面汚しとしか言われたことがないので、きっと褒められているんだろうって事しか分からないんだ。


 しかも、ここがすでに東国なのだとしたら、彼女の誘いを拒否した瞬間、殺される運命しか待ってはいなさそうだ。


「僕に断るって選択、無いんだよね?」


 そう答えると、ニタリと笑う彼女。

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