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17・他にも居たって事なのか

 耕作可能な畑作地に乾燥させた泥炭をほぐし、石灰を混ぜたモノを播いて耕してもらう。

 水田よりも深く耕す必要があるので犂に関しては妥協せずちゃんとしたものをいくつか製作してもらい、それを馬や牛に曳かせ、そこに泥炭を撒くという作業はそこそこ大変なモノだが、広さもあるので荷車を馬に曳かせ、荷台から撒いていくという方法をとって時間短縮を図ってもらった。


 そんな事はこれまでやっていなかったようで、人手も少なく時間もかからないと喜ばれはしたが、それは言いかえれば製塩事業に人が流れて農民が減っている事も意味していた。

 だってそうだろう。堤防づくりの人足は大量に必要だし、製塩自体も作業の大半は人力で行っている。作業は大変かもしれないが、この地で行う農業に比べて収入は確かだ。

 元々そんなに豊かでもない土地を無理やり開墾して畑を拡大してみたが、収量は大したことがない。そもそも輪作など考えずに単一栽培に特化していたものだから連作障害で収量が落ちたり病虫害が流行したりで安定した生産の保証すらなくなっていた。


 そこでまずは使えそうな泥炭を肥料として投入し、単一栽培から輪作への移行を行う。四、五年がかりとなるので今は休耕地が目立つ状態だが、それはそれで仕方がない。

 

「ほう、こんな道具が西国にはあるのか。なかなか便利なもんじゃないか」


 大工や細工師に制作を依頼した播種機は構造の割に能率は良いので大評判だ。更に水田用とは少し違う中耕除草機も導入するので草取りも楽になるだろう。

 こうして初秋からの麦作の準備を終え、冬の準備が始まることになる訳だが、ヤギや羊を飼っている山間では保存食として腸詰めは作っていないのか聞いてみた。


「そりゃあ、作りたいですがねぇ。先立つモンが無きゃあ、無理でしょう」


 先立つもの。つまりは腸詰めづくりで必須の塩の事だが、それなら製塩業が順調に進んでいるのでたくさんある。


「いんや、腸詰めには山塩が要るんですよ」


 という。山塩、つまりは岩塩だが、仁乎(きみこ)領に岩塩鉱山はない。そもそもあったら海塩に手を出す必要も無かった訳だが。

 そもそも、山塩って言葉があるんだから、どこかで採れるのは確かだが、それってどこ?


 どうやら、それは東の隣領、親戚筋の事であるらしい。さて、海塩生産で一儲けしているここと仲良くしてもらえるのだろうか?

 まずは義兄の相談する必要があるので話をしてみると、軽い調子で承諾してもらった。良いのかそれで。


「問題ないよ。山塩と海塩では使い方も値段も違うからね」


 と言うことで、早速使者が送られる事となった。 


 返事は使者が来るという事で半月ほど待っていると、それらしい集団がやって来たのだが、その集団を見た義兄が首をかしげてそれを不思議がる。


「何だろうか、あの変な集団は」


 それが何故なのかは、僕にしか分からないと思う。


 その集団は持ち物こそ弓や槍、弩なのだが、装備が全く時代外れ過ぎていて浮いているように見える。

 持っている弓は一見したら小弓と思われそうだが、形からして前世のアーチェリーで使われていた弓のように見えるし、弩についてもシルエットはライフル銃のそれだ。一瞬鉄砲があるのかと疑ったが、近くまで来るとその構造が分かった。コンパウンドクロスボウと言う種類だと思う。


蕊葉(しべは)好宗(よしむね)にございます」


 そう挨拶をした人物は、僕もよく知るロボット物の配色をした鎧を着ているではないか。もう、開いた口が塞がらない。


仁乎(きみこ)殿よりの山塩の件、主もお認めになられております。ただ、すでに(ひのと)へ下ったとの事であれば、先方より話があった岩炭と合わせて話がしたいのですが」


 と、どうやら岩塩の話しだけでなく、姫さまが売り込んだらしい石炭の交渉まで持ちかけて来た。けれど、そんなことは義兄の知る所ではないため、僕を見てくる。いや、どうしろと。


「そちらが(くろの)殿で?」


 と、好宗さんが僕を見てくるので、義兄がそうだと答える。


「では、玄殿ならば、丁殿が何を我らと交易したいか分かっておいでで?」


 と、早速僕に尋ねてくる。まあ、それもそうか。さっき義兄がこちらを見たし。


「石灰と岩炭の炭ですね。ただ、未だに上手く求めた炭にはなっていないようですが」


 と、僕が素直に答える。きっとここで話を誤魔化しても意味はないだろうし?


「ふむ、その炭は貴殿の進言で?」


 という好宗さん。何故そう思ったのだろうか。


「はい、その様なモノが製鉄には都合が良いと耳にしていたもので」


 と、適当に誤魔化しに掛かる。


「それは異な事を。コークスは私が世に示したもので、適した岩炭を見たのはついこの間。そう、丁家の岩炭はウェールズ炭の様だ」


 と、何やら言い出した。しかし、ここは異世界。決してウェールズなどではない。だって、明らかに鎧や植生がブリテン島と違い過ぎるじゃないか。

 まあ、ウェールズ炭、つまり英国の製鉄を支えたコークス原料という事になる訳だ。それと姫さまの領地の炭鉱が似た品位と言う事なのだろう。


「なるほど。製鉄に適した品位であるならば、適切な乾留法をお教えいただければ、良質な物をお渡し出来るかと」


 なんだかんだ言っていたが、つまりそう言う事なのだから、コークス化技術を教えて欲しい。


「それは構いません。こちらとしても原料炭から作るよりも現地で加工してもらう方が手間が少ない」


 と、にこやかに答えてくれた。ただ、その会話の間、義兄はポカンとして話について来れていなかったが。そして、ニヤリと笑って好宗さんが一言。


「やはり、そうであったか。わかった。この話は後で2人でしょうか」


 と、僕との話を打ち切って義兄と岩塩の話を進め、後で僕を通じて姫さまに岩炭の話は伝えるという事になった。

 これ、明らかにこの人って僕と同じ転生者って事だよね?

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