15・いろんなことが意外な結末
自害しようとした城方武将を取り押さえ、他の面々の動揺も何とか収めた頃、ひょっこり姫さまが顔を出した。
「どしたの?」
そのなんとものんびりした調子にイラっと来たが、その目は笑っていなかった。
「あ~あ、ヤッちゃった?」
などと呑気に言っているが、その顔は計略が成功したと言わんばかりだ。
「丁のやることは禄でも無いな。何が女子には優しいだ!」
取り押さえた武将が姫さまを睨みながらそう叫んでいる。その啖呵を一切受け流して飄々とこちらへとやって来る姫さま。
「おい、出ておいで!」
すると、先ほど連れ込まれた春と言う女性が綺麗な着物を着て現れたではないか。藍地に白の花があしらわれたそれは、確か姫さまの着物であったような?
「どう?」
などとドヤっているが、場違いにも程がある。
僕らがそれを呆れて眺めている中、取り押さえた武将は違う感想を抱いたらしい。愕然とした顔で自らが斬り倒した血だまりへと視線を向けている。
「お前は仁乎一党だね?」
それまでのニコニコ顔を消して姫さまが武将に尋ねる。しばらく間があって
「‥‥‥仁乎 英威」
力なくそう答えるのであった。
「嫡流じゃないとはいえ、あの仁乎一党と縁を結んだと聞いた時にはちょっと冷や冷やしたもんだよ。でも、どうやら当の本人は全く乗り気ではなかったみたいだし、それは君も同じだった?」
ふと、拙い知識をフル回転させて東国有力者たちの氏名を検索してみると、玄丙並みの有力者の庶流あたりにその名前があるのを思い出す事が出来た。
姫さまが嫡流では無いと言っているからさらに格が下がるのかもしれないが、名乗りが許される程度には格があるという事は、ある意味では侵略者に過ぎない丁家への大きなプレッシャーだった事だろう。
まあ、そんな政治力すら重きを置けないおバカが危機に際して切ってはいけない綱を切ったというのだから。まあ、最後まで選択をミスったもんだよなぁ~
姫さまに促されて語ったところによると、件の武将は三代前に混家家臣として領内に所領を与えられた家だとかで、一党内では傍流にあたるものの、名乗りも未だ許される程度のは格を残してはいるらしい。
そんな落ち目な所におバカが声を掛けて来た事で縁談が成立したらしいが、おバカは仁乎という格にこそ興味はあれ、実際の人物には何の関心も持ってはいなかったらしい。仮に子をなしたならば、そこに初めて関心が生まれたやもと自嘲しているほどだ。
確かに、外にある大家の係累なのだから、衰退著しい当代にとってはうまみもあるにはあったろうが、それ以上に恐ろしかったのかもしれない。乗っ取られでもしたら大変だもの。
「そうかそうか、まあ、そこで提案なのだが、春を玄直系に嫁がせる気はないか?」
と、姫さまがトンデモナイ事をお言いになり出した。
もしかして、混家内の事情を知った上で引っ掻き回した挙句、最後には「女を連れてこい」などと誘い、おバカ自ら仁乎の者を追い立てさせたと?武者がおバカを斬ったのは偶然であって欲しい所だが、それ以外は間違いなく計画していたことで間違いないな。これ‥‥‥
それを聞いた武将も何を言われたのか理解できていないらしい。
「玄とは、西国の、あの天孫族のことか?」
玄丙ともに天族の者のなかから臣位を受けて地方行政や軍事、治安を取り仕切る立場となった者の末裔である。丁家もその庶流にあたるし、玄家の庶流には幻家がある。南西の島国へ渡ったと聞いている。
武者の問いに頷いて返す姫さまに対し、武者はしばらく考える。
「何、西国へ娘を送り出すなどと言ってはいないよ。聞いた事くらいあるだろう?昨今の騒乱で直系の多くは討ち死に、残った末子は流罪となったって話は。その流れ者を私が拾った」
と、ドヤる姫さま。
「その玄はどの様な技の持ち主で?」
武者も引こうとはせずに問い質しに来た。
「疋勿を討ち取った。では不足かな?」
と、ドヤりながらの姫さま。
それを聞いた武者は頭を下げた。
「決まりだね。何、こちらでどうこうしやしないよ。えっと、何だっけ?」
そう言って僕を見てくる。何?え?なんかジェスチャーしてるので解読してみると、塩の事らしい。
「製塩をそちらで広めたい」
と、解説も説明も要らない直球で語ることにした。が、それを聞いた姫さまは不満げである。
「塩の害が起きている領で塩を作るとは、揶揄いか?」
と、鋭い視線を向けてくる武者に対し、沿岸に広がる広大な砂浜を利用して塩田開発をすることについて説明した。
「なるほど、作物の育たない田畑ではなく、目の前に広がる海を使うか。塩が大量に作れるなら、作柄も不安定な今の土地での農業よりも安定した年貢には出来るか」
と、理解が早い様で助かった。
それに、落ちぶれたとはいえ名のある一族に連なるという事で、混家内でも一目置かれる立場であるんだとか。これで沿岸部での製塩事業は安定して開発していけるかもしれない。
「よかったなぁ、順大。ようやくお預けされない側室だぞ。しかも東の有力な大家に繋がる家だ」
そう言って僕の肩を叩く姫さま。
「さて、順大は城方の差配が終ればすぐ沿岸部の開発に行ってもらおうか」
と、残る家臣たちへの話しもまだな状況でさっさと段取りを決めてしまっている。
「竹の枝がどうとかと言うのは、あるのかな?」
などと、さっさと武将にも尋ねる始末だ。
結局、この場でそうした段取りが固まった後、当主討伐が宣言され、入城となった。
そして、混家家臣のアレヤコレヤの聞き取りが行われ、その間にも塩田開発の根回しもあったりしつつ、丁家の論功行賞として、「人質」の春さんが僕に下賜される形となった。




