8.魔導具
「街の皆のため、そちらこそここで消えてください」
『ヴォォォォォォォォォォ』
無数のアンデッドが波となり襲いかかる。
「聖天!」
最上位の浄化を行使するも、如何せん数が多すぎる。
「なら、これで!」
そう言って懐から黒い球を取り出し、アンデッドに向かい投擲する。球が割れ、空間に穴が空いたような黒が出現する。紫電が迸り、アンデッドが吸い寄せられるが、これで倒せるほどやわではない。相手は不死族なのだ。
ミーシャが投げたのは重力球と言い、かつて幻とまで言われた神代魔導『重力操作』を封じ込めたものだ。
極上のブラックホールを一時的に出現させるもので、今では護身用に誰しもが持っている。
「聖天!」
一箇所にまとまっているアンデッドに浄化魔法を発動する。今度は目に見えて数が減った。
『無駄だ』
しかし再び召喚が行われ、先ほどよりも大きな波ができる。
「これ、ほんとにやばいかも・・・・」
ポーションがあるとはいえ、魔力にも限りがある。このままいけばジリ貧なのは確実だった。
(何か現状を壊す一手が必要ですね)
しかし、現実は非情だ。
『いでよ、腐龍』
巨大な魔法陣から肉が腐り、骨が露出した龍が現れる。
現状を壊す一手は、最も悪い形で現実となった。
「付与『浄化』」
覚悟を決め、死獣の王を一体でも殺すためダメージも無視して進み続ける。
しかし、道を作ることもできない。どこから攻めようと屍肉の壁が作られてしまい、辿り着けない。
☆☆☆
「あれ、この辺空気が綺麗だね」
先ほどミーシャが浄化を繰り返し使ったあたりに、ようやく二人が辿り着いた。
「なんか、聞こえる」
「え、ほんと?」
「いこう」
生者の気配に骸は反応し、その灯火を消しにかかる。
だが、二人はすでにアンデッド対策を完成させていた。
足を重点的に攻撃し、移動能力を奪い先へ進む。
「これは!?」
「」
先にあったのは視界を埋め尽くすアンデッドと、それに立ち向かう1人の少女だった。
☆☆☆
仲間の声が聞こえて振り向けば、すでに2人はこちらへ向かっていた。
浄化を使えばある程度はマシになるが、広範囲を浄化するには魔力が足りない。
「ギャォォォォォォォォン」
腐龍が横薙ぎに爪を振い、ミーシャは戦棍でそれを弾く。
『無駄だ!ここで死ね!』
「やめろ!」
ネクロマンサーが吸血鬼をけしかけるが、アレンのもつ魔剣の効果、『魔力具現』により斬撃を飛ばされ防がれる。
「そうか、あれなら・・・・」
ミーシャは進むのをやめ、合流を優先することにした。
「下がって!壁を背にしてください!」
なるほど、それならば警戒する範囲を狭めることができる。
3人は合流し、壁際までたどり着いた。
「それで、どうするのさ!」
「その魔剣の力で、結界を作ってください」
再び懐へ手を突っ込み、八卦路のようなものを取り出し投げた。
「早く!目を閉じて耳を塞いで!」
結界を作り出し、言われた通りにする。次の瞬間、凄まじい衝撃が3人を襲う。
「ぐ、うぅ」
結界の維持すらも困難なようで、アレンが苦悶の声を漏らす。
「多重詠唱『物理障壁』」
ミーシャが補助をする。
何度か衝撃が加わり、数分経った頃、結界が解ける。
目を開けた時、迷宮の姿はそこになかった。
「ミーシャ、なにこれ──」
「・・・・」
その問いに答える声はない。
何事かと目を向けるとミーシャは倒れ込んでいた。
アレンは知らないことだが、先ほど使ったのは全魔力と体力のほとんどを注ぐことで使える魔導具であり、発動したのは重力操作と同じく神代魔導の『天罰』だ。
上を見上げれば空が見えるだろう。『天罰』は円柱型に冥王孔をくり抜いていた。
「ほら、ポーション飲んで」
「う、ふぅ・・・・ん・・・・」
ミーシャが艶かしい声をあげ、瞼を開けた。
「ネクロマンサーは・・・・?」
その言葉に慌てて辺りを見渡すも、それらしい影はどこにもない。
「死んだ。魔力が感じられない」
「よか・・・・た・・・・・」
一同は、どうやって上に上がるかを考え始めた。