7.前進
~アレン~
マズイ、非常にマズイ。2人と分断されてしまった。
自分の不注意のせいだ、魔物の言うことなんて信じるんじゃなかった!
ミーシャは無事だろうか。サラは無事だろうか。
わからない、どうすればいい。
こんな時、師匠なら・・・・
「悩んでても仕方ない、進もう」
進むしかないのだ。
(そもそも、二人は僕よりもランクが高い。なら、今するべきなのは目の前のことへの対処だ)
~サラ~
「逸れた?」
いや、あの一瞬で姿が見えなくなるほど離れることなどない。つまり、罠。
「あいつ、許さん」
偉そうな口叩いて、いざとなったら命乞い。私の最も嫌いな人種だ。
しかし、妙。嘘をついている様子はなかった。
一発殴りたいが、恐らくもう──
(逃げてる)
ではどうするか?
「先に進んで、早く帰る!」
~ミーシャ~
「はぁ・・・・」
少し前から魔法の気配はあった。ある程度進むと発動するようで、確証が持てたところで戻ると言う判断を下したが──
「多分、罠に気付いた段階で発動する二重トラップ」
悪質極まりない。仕掛けたやつの性格は最悪だ。ひとまず、二人の無事を祈るしかない。
「さっさと脱出しますかね」
☆☆☆
「あの3人、今頃たどり着いたのであろうか?」
『あの道は外に出るようなのでもどるときは通常の道を使え』
上官のセリフが思い出される。
どう言うことかは知らないが、取り敢えず殺されないようにしなくてはならない。
長生きしたいのだ、余は。
☆☆☆
「ふむふむなるほど」
「我が配下のハイリッチーが手引きしたようです。申し訳ございません、創造主」
「いや、いい。それより準備しておけ」
「何を、ですか?」
「王都から討伐隊が来る。勝手な役人が集めたらしい。オレは後でクリムゾンのやつに文句言っとくから、よろしく」
「仰せのままに」
迷宮の最奥、一人の男に魔導師の格好をした骸骨、ネクロマンサーが跪いていた。
☆☆☆
「ひっ!」
アレンはひたすらまっすぐ進んでいた。そして目にしたのだ。恐らく先人である、無数の死体を。
「うっ、おぇ」
悪趣味だ。何故こんな場所に、こんな人数がいる。
──カラン
「?」
──コロン
──カラカラ
──カシャン
ここは迷宮。死に最も近い場所、『冥王孔』だ。この場において、死者に安寧など、ない。
「スケルトンッ!」
魔力斬撃を飛ばし迎撃するが、一向に数が減らない。
「ポーションも数が少なくなってきた。そろそろ本気でやばいかも・・・・ガッ!?」
突如として背後から襲ってきた衝撃に振り向けば、そこにもスケルトン、スケルトン、スケルトン。
視界を埋め尽くす魔物に、アレンの心は折れ始めていた。
しかし、骨が砕ける音と一本の矢により、その心は繋ぎ止められた。
「サラ!」
「何、この状況」
「説明は後でする、手伝って!」
糸筋の道を拓き、さらに背後を任せる。
少しずつ、しかし確実に2人は進んでいた。
☆☆☆
「浄化、浄化、浄化、浄化、浄化!」
大量のゾンビとそれに伴う腐敗臭を浄化しながらミーシャもまた進んでいた。
固形タイプの魔力ポーション─通称魔力キャンディー─を口に含みながら浄化を続け、十数分が経過した頃。
「やっと出口ですか」
眼前に広がるのはここが地下とは思えぬほど広い空間と、その奥にある3つの玉座。そこに座るのは魔導師の姿をした骸骨。
「あれが、ネクロマンサー?」
魔物の王とも呼ばれる魔獣の一体にしては、どこか頼りない印象を受ける。もっとも、人類に害なす存在である以上頼ることなどないが。
『よくぞここまでたどり着いた。だが、ここまでだ』
いくつかの声が重なったような言葉。三体のネクロマンサーが立ち上がる。
『多重詠唱【顕現】』
空気中の魔力が集まり、人を形作っていく。
ハイリッチーにオールドリッチー、ヴァンパイアロードやヴァンパイアキングがその場に出現した。
「「「死者召喚」」」
「「「「血人形」」」」
リッチーたちからは見知ったアンデッドが、ヴァンパイアたちからは血でできた人間が召喚され、あっという間にこの空間を埋め尽くすほどの魔物の群れが出来上がる。
これこそがネクロマンサー最大の脅威。十分もあれば街を滅ぼせるであろう数。理解しているのとこの目で見るのでは全く違った。
『『ここで、果てよ』』
終わりが、始まる。
実は輪廻の方と繋がってる設定です。まだ向こうには出てないけどネ