5.ランクあげあげpart2
「はい、お疲れ様。あ、ミーちゃん。クッキー食べる?」
「食べます」
「ミーシャって受付嬢と仲良いんだね」
「甘やかされてる」
「はい、どうぞ。お友達と食べてね」
「ありがとうございます」
「知り合い?」
「小さい頃からお世話になってる人です」
「もぐもぐ」
「とりあえず、座ろうか」
☆☆☆
「早いとこランクを上げて、討伐隊に志願したいわけだけど、最低でもパーティーランクをC、できればBにあげておきたい。ここまではいい?」
「うまうま」
「私はもう少しでAランクに昇格できるので問題はありません。2日もあれば十分です」
「じゃあ、手伝って」
「しょうがないですね」
「僕は一人?」
「一緒にゾンビ狩りましょう」
「がん、ばる」
「二つあげないといけないんだけど」
「冥王孔が効率いいですよ」
「あそこ、疲れる・・・」
「僕一応リーダーなんだけどー?」
「ついてこればいいじゃないですか」
「え、いいの?」
いつの間にか、クッキーは無くなっていた。
サラだけが食べていたのを、ここに明言しておく。
◇◇◇◇
冥王孔。
アレンが剣を振るい、十数体のアンデッドが倒れる。
サラはレイスを仕留めている。
ミーシャは二人の武器に浄化の付与を施すと、戦棍でリッチーをいじめ始めた。リッチーが可哀想になるくらい一方的だ。
「ここじゃなきゃダメなの?」
「そっちじゃなくてリッチーとかを狙ってください!終わりませんよ!」
「進めないよ!」
まったく、たるんでいる。壁や天井を走れば最低限の消耗でたどり着けるというのに。
血液に魔力を乗せる『脈動』、それに治癒の属性を乗せることで自由自在に動き回り、傷も即座に癒える。まさしく完成された長期戦の構え。ミーシャが長い年月をかけて培った戦い方である。
ひょっとすると、脈動が使えないのだろうか?過去には剣士の技術だったとされているものの、ある人物が広め、今では必修技能となっている。前衛だけでなく後衛、補助職なども覚えることを義務付けられており、使えないというのはかなり問題がある。
(まさか、魔力量が極端に少ない?)
これは、稀にだが起こることで、魔力量が少ない代わりにある分野に関しては常人以上に才覚を発揮する、というものだ。完全に魔力がないものは長い歴史の中でも一人しか例がないという。
アレンは魔力を感じ取ることはできるので、ないわけではないだろうが──
「この魔剣に魔力吸われるから出力が出せないんだよ」
心を読んだのか、ミーシャの疑問に答えるアレン。
見れば刀身の倍ほどの距離まで斬撃が届いている。
なるほど、あれならば相当の消費だろう。
ならばサラが一箇所にとどまるのは・・・・・
「矢、魔力込めてる」
ということらしい。
ミーシャがリッチー、アレンがゾンビ、スケルソン、サラがレイスと援護。かなり一方的に戦いは進んでいた。しかし、ここはまだ入り口。第一階層ですらもない。
「ついた。ここが第一階層です」
ここにはひたすらに数がいる。先ほどまでとは比べ物にならない。ゾンビは傷口ができたらアウトのため、できるだけ距離をとって戦っている。ミーシャが大規模浄化魔法で片付けることもできるが、それはこの先にとっておくこととなっている。
「伏せて!」
アレンが叫ぶ。
何か来たのか、と思い伏せれば、頭上を不可視の刃が通過する。アレンが魔剣を振るったらしい。この短時間でかなり魔力を使ったようだが、魔力回復ポーションは大量に持ってきているために大盤振る舞いだ。
一同は同じ方法で次々と階層を踏破していった。が、第四階層にてその勢いは止まる。
「吾輩にそんなものは通じんよ」
ヴァンパイアが出現したのだ。
ヴァンパイアは高位の魔力障壁をもつ夜の覇者。上位個体は蝙蝠になったり血を操ったりと多芸だ。目の前にいるのはその上位個体ではないようだが、それでも強い。
最上位の感知スキルの使い手が言うには、この迷宮は二十階層とボス部屋、宝物庫があるらしく、下へ下へと進むほど敵が強くなる。第四階層でつまづいていては先が思いやられる。
「征け、我が眷属たちよ」
下位のヴァンパイアとグールが波となって押し寄せる。
「おぉぉ!」
しかし、伸びる魔剣の前では無力に等しい。
アレンの一撃で大半が倒れる。しかし、何体かは立ち上がり始めている。
「今の僕たちじゃ叶わない!撤退しよう!」
アレンの提案は現実的といえた。しかし、万策尽きたわけではない。
「あとで魔力ポーションください。 「え?何を──」 『聖天』!」
足元にミーシャを中心とした魔法陣が出現し、白く眩く輝き始める。地面から光の粒子が全ての生物に付着し、覆っていく。
光が収まった頃には、ヴァンパイアは影も形もなくなっていた。