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異世界突入

OH…文章力終わってるぅ…

―――まだ私は死んでいない。





唯野は目を覚ました。しかし、身を置いていたのは何時もの敷布団ではなく、西洋風のベッドだった。私は確かにあの時斬られて死んだ筈だ、と動揺していた。本当に生き延びているのならば直ぐに知らさなければ、と時代遅れだと言われても使い続けたガラケーを探そうと体中を(まさぐ)った。そこまで大きくもない部屋の中を隅々まで探してみたが、それでも見つからなかった。


それどころか電子機器が一切見当たらない。もしやいつの間にか何処かに連れ去られていたのか、と唯野は戦慄したが、窓や扉を確かめた所鍵は掛かっていなかったので監禁という線は消えた。


窓の外の景色は美しかった。外国ののどかな農村を完璧に再現したかのような景色が広がり、夜空には星が幾数も輝いていた。永田町では確実に見ることのできないその美しさに唯野は、もしや此処が天国ではないかと感じていた。



…もう気負わなくて済むのか。誰かの為に隠れて動くことも、国民から蔑まれる事も無くなったのか。


不思議と気分は高揚した。異様に軽くなった体もそうだし、一気に何十歳も若返った気分だ。腰痛も無く、不用意に咳き込む事も無い。



私は景色に満足し、窓を閉めた。まだ夜であることも鑑み、外に出てみるのは明日にしようと―――



「これは…誰だ」



自分が閉めた窓に映るっていたのは1人の少年だった。首元までに伸びた薄い灰色の髪に、それを照らすように輝く黄金(こがね)色の瞳。顔は中性的で、場合によっては女に間違えられそうな優しげな顔をしていた。


手を動かしたり、体をくねらせたりしてみると鏡の中の少年も同じ様な動きをしている。驚いている私の感情も同じ様に表されていた。


こんな非科学的な事があってたまるか、と私は全力でベッドに逃げ込んだ。これは趣味の悪い夢だ。これが覚めたら天国の中か病室のベッドの上に違いないと目を閉じる。


しかし、その願いも虚しく陽が昇る時間まで私は眠りに就く事が出来なかった。不思議な程に高揚している心臓は、私の願いを天に届けてはくれなかった。


晴れ晴れしい陽の光に部屋は照らされ、芸術的な光のコントラストを生み出していた。流石に一睡も出来なかったのはこの体に堪えたようで、窓に写った顔には少し隈が出来ていた。


「〜〜くぁ…」


不機嫌そうな顔の癖に可愛らしい欠伸をするのだな、と昔いじられた欠伸もその顔に応じた物になっている。


服装は寝間着のようで、正しく昔話で見たことがある農民の格好だった。靴はベッドの横に置いてあったのでそれを履き、ドアを開けて廊下へ進んだ。もう一つ部屋があるようで開けてみたが、大量の本が並べてある事以外は特に変わった事は無かった。きっと書斎なのだろう。


多分二階であるこの場所に部屋は二つだけ。奥に階段があったので今度はそれを下った。


降りてみると、そこには広めのリビングの様な空間が広がっていた。しかし、そのどれもに埃が被っている。どうやら長年使われていないようだった。椅子は机の上に上げられ、その机も部屋の端に寄せられている。壁には所々ヒビが入っていたりしていて、もうこの部屋を使う事は無いと暗に示していた。


私はこんな所で目覚めさせられて、一体何をすれば良いのか分からないまま外に出た。昨日の夜に見た景色の中の風車や家畜小屋などは使用されておらず、中にも何一つ無かった。畑も雑草が生え切っており、作物が育てられている様子は無かった。


「本当に何なんだ…誰か居ないのか?」


辺りを見回してみても、そこに見えるのは草や花、木が中途半端に生えている平野ばかりだった。誰かを探すことは一旦諦め、家に戻ることにした。



もう一度二階の寝室らしき場所や書斎っぽい所を探索し、有用そうな物を一箇所に纏めた。



誰かの顔が刻まれた銅色の硬貨が20枚、地図が一枚、鍔が無い短剣が一丁しか無い。




地図にはこの場所であろう所にご丁寧に赤い点が付いていて、端に『風車側が北』と書いてあった。そして中央の都市らしき絵の場所の謎の文字の上に日本語で、『聖都』と殴り書きがされている。



周りを円で乱暴に囲まれている事からも、つまりは此処に向かえという事なのだろうか。SPも付けずに動いて良いのかなんて事も頭をよぎったが、そもそもにこの顔を見て首相と信じてくれる人は居ないだろうな、と考えた。



短剣を腰に差し、硬貨をポケットに入れて地図を手に取る。自身の様子に変わりは無いが、不思議と楽しい気分だった。



地図通りに行くのならば『聖都』の場所は風車と真逆の南を示していた。取り敢えずはその方向に向かおうと思う。




道中は酷く静かだった。風とそれに靡く草の音だけが耳の中に響く時間が五時間程続き、足は少し疲れて来た。しかし、それらしい物は既に遠くの場所に見え始めている。城壁らしいものは長い距離に渡って続いており、遠目でも大きい都市であることが分かった。


入り口が何処にあるか分からなかったが、道なりに進んで行くと門の様な場所に着いたので安心した。


しかし門の中に入ろうとすると、衛兵の様な者に道を塞がれる。


「あんちゃん、身分を証明する物が無いとその腰に差してある武器は持ってけないぞ。ついでに身分提示義務違反で20デヴィスと指紋もチクッと取ることになる。」


衛兵は日本語を話している。装備と顔はどう考えても外国人なのに流暢に喋るなぁ。と感心していたが、事は重大なようだった。今、私は何も持っていない。つまりは罰金を払わなければならないのだ。


「あぁ…な、無いですね…」


「そうか、ならちょっとこっちに来てくれ」


衛兵に連れられ、野ざらしの机が置いてある場所に連れて行かれる。


椅子に座らせられ、衛兵が質問を始めた。


「渡航歴は?」


「無いです。多分ここが初めて来る場所だと思います」


「犯罪を犯したことは?」


「ありません」


賄賂ならあるけどな、と内心思ったが此処は日本では無いと思うので言わなかった。


「じゃあ最後に…冒険者志望か?」


「は、…え?」


冒険者とは何だろう。聞いたこともない言葉だった。ここで俗世への触れなさが出てしまうとは思わなかっ…






―――そういえば、最近年の離れた弟(49)が『最近異世界転生モノにハマっている』と言っていた。



魔法と剣が入り乱れる空想の世界。大体の主人公は馬鹿みたいに強くて、その多くが女性に好かれるらしい。当時はあり得ないと一蹴したが、その可能性がここになって出て来るとは思わなかった。



やはり天国では無かったのか、という少しの残念さはあったが…異世界が本当にあるのなら、選ぶ選択肢は只一つ。




「おーい、聞いてるか?」


「あぁ…勿論。私は冒険者になる」



この世界で、今度は唯野の名前を英雄として轟かせる。



だが衛兵はその言葉を聞いてすこし気怠そうな顔になった。


「そうか…手続きが面倒になるな。ちょっと待っててくれ、すぐ戻る」


衛兵はそのまま何処かに行ってしまった。何か拙い事でも知らない内に言ってしまったのか。これでも失言には最大限の配慮をしていたつもりだったのだが。



―――数分後、衛兵は二枚の紙とインクを浸けるタイプの万年筆のような、そうでないような筆記用具を持って来た。


紙にはそれぞれ元来の言語であろう文字の上に日本語で『紹介状』『身分確定書』と書いてある。下の様々な欄も同様になっていた。


「身分確定書を先に書いて貰う。これは回収するぞ…で、必要なのは名前と指紋の二つだけだ。指紋はこのインクを指に付けて使ってくれ。」


身分確定書には名前を書く欄と指紋を押し付ける欄の五つあった。言われた通りに私は名前を書き、渡されたインクに指を付けて指紋を押し付けた。


「良し、これで良い。名前は『タダノヲキチ』か…変わった名前だな。極東人でもこんな名前の奴は見たことが無い」


「そうですか…」


「まあ良い、次は紹介状だ。これは冒険者登録をするために必要な大事な書類だからな。絶対に無くすなよ。」


そうして私の前に置かれた紹介状には先程と同じ欄と、またもや指紋を押し付ける欄があった。それに加えて剣の流派を書く欄や、魔法が使えるか否かの欄もある。


「はい、書けましたよ」


「おお、以外に早いな冒険者になる奴は文字を書くのが苦手だったり、書けなかったりすることも有るんだ」


「昔は良く文字を書くことがありましたので」


「ほぉ…それにしても良く書けてる久しぶりに読みやすい字を見たよ」



その後は罰金である20デヴィスを支払いそれで検問を通っても良いと言われたので、紹介状を片手に私は門をくぐった。あの銅貨一枚の価値が10デヴィスだったのは良いことだ。






―――その町並みは規則的な美しさを持っている。


石造りの建物を背に売店が立ち並び、店によって本当に様々な種類の物が売られている。雑貨に果物、肉に弁当、謎の薬に防具や剣、おもちゃを売っているところもあれば“玩具(オモチャ)”を売っている所もあった。


衛兵はこのまま直進していったらギルドがあると言っていた。奥には既にそれらしき大きな建物が見える。

進んでいくごとにその建物の大きさがとんでもない事が分かった。周りの建物の高さはゆうに越えているし、何より装飾の量が段違いだった。私としてはもう少し大雑把な造りの物を想像していたが…


「……」



唯野がその時目撃したのは…至る所に冒険者がひしめき合い、談笑をしたり酒を飲んでいたりする姿だった。中には猥談をしている者も居たが聞き耳は敢えて立てなかった。床や内装は綺麗にされているが、人の多さと質のせいで結構台無しになっているように唯野には見えた。



「…いや、やはり予想通りか」


唯野は気付かれないように人の間をすり抜け、またもや『受付』と殴り書きされている看板の場所に向かった。



受付には尖った耳の女性が居た。これぐらいは私でも分かる、『えるふ』と言う奴だ。弟から嫌という程その良さについて語られた事があった。


…やはり不思議な耳の形をしている。


「御用は何でしょうか?」


えるふの女性は如何にも営業スマイルといった感じで話しかけて来た。


「あの…冒険者登録をしたいんですけど」


「冒険者登録ですね…紹介状はお持ちに?」


「ああ、持ってます。」


「では、それを預からせて頂きます。…少々お待ち下さい」


典型的な行政のやり方みたいだなぁと感じたのは私だけだろうか。何かこう…もう少し人情に厚い感じを予想していたのだが…現実はそうも行かないらしい。


「…はい、これで冒険者登録は終了です。…冒険者についての説明は受けましたか?」


「…いえ?」


「そうですか。じゃあ少し此方で話しましょう」


私はエルフの女性に連れられ、テーブルを挟んで向かい合わせに座った。


「それでは冒険者についてのお話をさせて頂きます」



「まず、冒険者制度という物があり―――」


「クラス分けはファースト、セカンド、サードと―――」


「クエストを受注したり、ダンジョンに潜るには―――」


「まだ武器を購入していない方は―――」



「―――という訳なのですが、分かりましたでしょうか」



いけない、数回意識が飛んでいた。まさか此処でも国会と同じ思いをするとは…


「えぇ…とっても良く…」


「眠かったのなら言っても良かったのですよ?」


「いえいえ…」


えるふの女性は不思議そうな顔をした。


「…貴方のような卑屈な冒険者は久しぶりに見ました。砕けた話し方の方が冒険者としては都合が良いですよ?」


「はい…?つまりはタメ口の方が良いと…?」


「まあ簡単に言えば。駆け出し冒険者は舐められないようにしなければいけませんから」


そう言ってえるふの女性は去って行った。全く耳に入らなかった冒険者についての説明は、貸して貰った『駆け出し冒険者の手引書』を読んでどうにかした。



手引書によると、冒険者となる最初のステップに於いて、【グループ】と呼ばれる集団のどれかに入らないといけないらしい。ダンジョンに入るには基本的にその【グループ】に入っている事が必須条件であり、グループに入っていないままダンジョンに入ろうとすると罰金が課せられるらしい。


それは基本的にクエストボードと呼ばれる所にあると手引書には書いてあった。幸いそれはすぐ見つかったが、肝心のグループの募集が何処にも無い。冒険者の登録費等は掛からなかったし、手引書もえるふの女性の私物らしいので実質お金を失ったのは、最初の衛兵に取られた分だけだ。



「しかし、つくづく運が無い。流石に今日の宿さえ取れなかったらまたあの家に逆戻りか…」



意外と距離があったのであそこに帰るのは避けたい所存である。





まあ考えても仕方が無いので、取り敢えずギルドを出てから考えるとしようとしたのだが…













「なあ、あんたは【グループ】に入りたいのかぁ?入る所が無いのならワレの所に入れてやっても良いぞぉ?」



―――妙に鼻につく声で仁王立ちする少女に私は呼び止められた。

《作者はなろうからログアウトしました》

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