001.出会い
ラーメン好きによるラーメンの物語です(?)
ズズズズルンっ、ズズズズぅ…。
トゥルンっと口の中に入っていくのはコシのある太麺。麺がスープを吸い、味が染み付いた麺は口の中いっぱいに幸せを運ぶ。
メンマにチャーシュー、海苔。この順番で口に運ぶのは俺のルーティーン。どれもラーメンには欠かせないものだと思っている。
熱々のスープをレンゲで掬い、これもまた口に運ぶ。食材が食堂を通り、胃へと流れ込んでいく。
ラーメンを食べた。俺がしたのはそれだけ、けれど今の俺は一番幸せだ。
大きい家に住み、結婚し子供を育てる。別に大きい家がいらないわけでも、結婚願望がないわけでもない。ただ、どれも濁って見えて、俺の幸せはこの一杯のラーメン、ただそれだけのこと。
午後10時半。今日は金曜日、多くの社会人や学生は明日から休みとのこともありウッキウキなのだろう。
明日は俺だって休み。帰りに同僚と飲みに行ったり、帰って風呂も入らず寝たりして、絵に書いた様なサラリーマン。
ではなく俺は独りでラーメンを食べる。これが俺のルーティーンなのだ。これなくして土日を迎えるなどあってはならない。
「ご馳走様でした」
「いつもありがとね」
白髪がちらほら見えてきている店主の西川さん。軽く言葉を交わすだけとはいえ、何度もここのラーメンを食べに来ている常連客の俺とは言葉いらずの間柄。(今日は交わしたけども。)
ラーメンを食べ終え、ゆっくりと立ち上がり、カウンターに700円を置く。
いつも通り美味しかった。豚骨ラーメンのコッテリ、けれどしつこくない。このラーメンが俺には丁度いいのだ。
ガラガラとドアを開けて店を出る。お腹いっぱいになった俺の足取りは少し重いけれど幸せいっぱいで重いのだろう。
「思いが詰まって重いんだよな〜♪」
つまらないことを呟きながら帰路に着く。どんな辛いことだって悩みだってラーメンが解決してくれる。
俺とラーメンの間柄はそんなものだ。
ゆっくりと一歩一歩、歩いていく。家が歩いて帰れる場所にあるのでダイエットも兼ねて歩く。ラーメンは幸せを運ぶが、勿論カロリーもともに付いてくる。
午後11時を回った頃、辺りは真っ暗。少し大きい声を出せば街中に響くであろう静けさ。
ぞっとするような落ち着くような。そんな気分にさせてくる。
夜は好きだ。ちょっと格好良くなった気がしてウキウキする。20代後半に差し掛かろうとするおじさんが何を言っているのか。
玄関を開け、靴を脱いで荷物を置いたらベランダへ行く。外を眺めながら吸うたばこは格別なんだ。特にラーメンを食べた後というのがまたいい。
ラーメンじゃないとこの味わいはない。この味はラーメンとベランダにしか出せない。
「ふぅ...」
「明日は...なにすっかな...」
誰かが聞いているわけではないが少し大きめの独り言。彼女もいなければやりたいこともない。趣味はないこともないが、ゲームをするだけ。
週末のラーメンだけが生き甲斐なんだ。
「明日はお休みですかっ?」
少し考えたんだ。ここは俺の家で一人暮らし。合鍵は誰にも渡していないし渡す予定もないので作ってもいない。なら誰なんだ、この声の主は!
こんな考えてる暇は無い。もし俺の幻聴じゃなく、本当に声がしているのなら強盗に入られたのか。空き巣がいるところに帰ってしまったのか。
いくら考えたって分からない。声先は俺の背中の更に後ろ。確かめたいが怖くて振り向けない。
「ねえ、聞いてますぅ〜?」
追い討ちをかけるように話しかけくる彼女。
彼女、声主は女なのか?待て、冷静に考えろ。
引き続きご愛読お願いします。