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8 ピクニックへの誘い

読んで頂けると嬉しいです。

 

 ルラは4日ほど寝込んでやっと回復することができた。

 ···のは見せかけで、実際のところ熱はすぐに下がったし元気になっていたのだけど、風邪が長引けば長引くほどトゥックも乳母も心配してくれるから、ルラはわざと悪いふりをし続けていたのだ。ところがある日とうとうブラウン氏が様子を見にきて医者を呼ぶとか言い出したからルラは慌てて、もうよくなった、と起き上がったのだった。



▫▫▫▫


 コンコンコン。と戸を叩く音がした。

 病み上がりの(()()をしている)ルラはテーブルで大人しく文字の練習をしていたところだったが、音を聞くなりピョンと椅子から飛び降り駆け寄った。トゥックは既に、気配を消している。


「はい、今開けます。」


 きっとお昼ご飯だ。しばらくパン粥が主食になっていたルラはウキウキと戸を開けた。


「えへへ、乳母さん、ありがと····う、ござ···い、ます。」


 思わず尻すぼみな言い方になってしまったのは、乳母の後ろから、ハンスが顔を覗かせていたからだ。


「ごめんねぇ、びっくりしただろ。実は今日、坊っちゃんが、学校の友達とピクニックするって言うんでね、」


 乳母がハンスを振り返ると、ハンスはひょこっと前に出てきた。


「っうん、そうなんだ。ルラはそのっ、ずっと風邪ひいてて、退屈だっただろう。やっと元気になったってっ、き、聞いたから、せっかくだからっ、一緒に、どうかと思ってっ」


 頬が少し紅潮しているハンスは、興奮気味に、早口でしゃべった。


「え····。」


 だけど、思わずルラの顔は強張った。ハンスはその様子を、ただびっくりしているのだと勘違いして、もっと早口に説明を始めた。


「あのさっ、僕の友達にさっ、凄い奴がいるんだ。今年の魔法誌のさっ、『期待の子ども』コーナーに載ったくらい凄いんだ。今日っ、そいつもくるからさっ、一緒にっ、どうかと思ってっ」


 実はハンスはずっと、ルラと仲良くなりたいと思っていた。

 本当の妹は産まれた時から病気がちだったから、一緒に遊んだりした記憶はほぼない。だから、死んだ時はそれなりに悲しかったけどルラが家に来たことの方が何倍も嬉しかったのだ。なんせルラは可愛いくて、ピンクがかった金色の髪の毛はくるくるしていて、頭の上にちょこんと乗ったリボンはとてもよく似合っていた。こんな可愛い女の子が自分の妹になるだなんて。すごく、すごくワクワクした。···でも、妹になってからずいぶんと経った今でも、ルラはちっとも懐いてくれなくて、ずっとやきもきしているのだ。

 数日前にクラスメイトが魔法誌という有名な雑誌に載った時、ハンスは素晴らしいチャンスだと思った。当然ルラだって興味を示すと思ったからだ。


「で、でも、私は···」


(あ、あれ?恥ずかしいのかな?遠慮しちゃってるのかな?

あ、····少し強引なくらいじゃないと、ルラは行きたくても行きたいと言えないのかもしれない···。)


 ハンスはそう考えた。


「僕さっ、みんなにさっ、妹も来るって言っちゃったんだよね。」


「ぇえ···」


 ルラは右足を後ろに下げた。ハンスとハンスの友達と行くピクニックなんて、行きたくない。トゥックと遊んだ方が何倍も楽しい決まっていた。でも、断る方法は知らなかった。


(こんなときトゥックがいてくれたらいいのに···)


 だけどそれは考えるだけ無駄だった。トゥックは、ルラ以外の人間がいる時には絶対に姿を現さないのだ。


「え、えっと···。」


 ルラは助けを求めるように乳母を見たが、乳母はこのやり取りをとても微笑ましく見ていた。ルラに友達が出来るのはとても良いことだと信じていたし、ハンスは普段、母親に自分のことや学校のことをあまり話したがらないから、ルラを連れてピクニックに行くくらい、何も問題ないと思ったのだ。


「来るって言ったのに、ルラが来なかったら、僕、困っちゃうんだ。ね、お願い。」


「う、···は、はぃ。」


 ルラはしぶしぶ頷いた。逆にハンスは嬉しそうにパッと顔を綻ばせる。


「このまま行く?」


 ちらり、とハンスはルラの格好を頭から足まで目で辿った。


「は、はい。え、えっと、変ですか?」


 ピクニックに行くのに特別な服でもあるのかと、ルラは不安になって聞いた。


「いや、そんなことはないけど、じゃ、行こっか。」


 ハンスは、本当は、せっかく可愛い妹をみんなに紹介するのだからもっと可愛い服を着せておきたかった。でも今はこれでいっか、と思い直したのだ。

 そもそも今まで見たことがある服で特別可愛いかったのはルラが初めてここに来た時に着ていた服だからそれは当然小さくなっているはずで、ルラが持っている他の服がどんなのかハンスよく知らなかった。


(今日のピクニックでもっと仲良くなれたら、帰りは手だって繋いで帰れるかもしれない。)

 

 ハンスはそう期待を込めて、差し出しかけた手も引っ込めた。


「···はい。」


 ルラは出発する前にもう一度納屋の中を見渡したけど、やっぱりトゥックはどこにもいなくて、とぼとぼとハンスの後ろをついていった。


ありがとうございます。

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