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11話 八つ当たり

読んでいただけると大変嬉しいです。


「バッカみてぇ。何してんの?」


 ローレンは、へんちくりんな格好をした小さな女の子と目が合ったと思った。それで少しほっとした。約束の時間よりかなり遅れて来たというにに、誰1人待ちわびた様子もなく夢中になって遊んでいたからだ。大きな声を出したせいで、今は皆の目が注目している。

 ふん、と鼻を鳴らした。注目を当然のようにして1歩踏み出すと、靴の下で土に混じった細かな石の粒が音をたてた。草が生えていないところは茶色い埃っぽい土が剥き出しになっているのだ。 ローレンが向かうのは中央で、中央の切り株はローレンの特等席だった。ローレンが座れば自然と皆が寄ってきて、平民とは違うローレンの日常の話や、見聞きした話、今読んでいる本の内容など、いろいろな話を聞きたがる。


(今日は何の話をしてやろうかな··)


 と、目線を外したばかりの女の子の顔が、視界の左の方で赤っぽく染まったような気がした。


(え?)


 ローレンは思わず2度見した。トマトみたいに真っ赤になった顔が、みるみるクシャクシャに崩れていく。大きな瞳は大粒の涙を押し出すようにじわじわと細くなり、潰れ、こぼれ落ちた涙は頬を伝い、しかもぼろぼろと続けて流れ続けた。女の子の、小さいと思ってた口は瞬く間に大きく広がり、周りの空気を一気に吸い込んだかと思うと、次の瞬間には耳を押さえたくなるような悲鳴に近い声が辺りを震わせた。ブランコのロープを掴んでいた手はぎゅっとなって白くなっている。


「ろ、ローレン···」


 その場の全員がローレンを見た。ただ、基地の中心を挟んでルラ達と反対側の木のところで小屋の補強と増築をして遊んでいたハンスだけは慌てて切り株を飛び越えルラの元に駆け寄った。


「ルラ、ルラ、ええと、どうしよう···、ええと、な、泣かないで。」


 だけどルラは突然溢れ出た感情を抑えきれるわけもなく、いっそう大声で泣いた。こんなに感情を剥き出しにして泣くのは、初めてだった。

 ハンスには泣いてる子をあやした経験はなく、ただルラの前であたふたとするだけだ。


「···今日はもう、連れて帰ったら?」


 おそるおそる、デイジーが言った。気まずいけれど、思いきって言ったのだ。デイジーにも妹がいて、時々癇癪を起こした。その度に母がデイジーに構うのを止めてなだめたり、母が忙しい時にはデイジーに押し付けられたりしていたので、正直泣く子にはうんざりだった。


「え、ええ、そうね。ハンス、もうお家に連れて帰ってあげた方が良さそうだわ。」


 戸惑っていたアンリが我に返って言い、


「あっ、でもハンス、おばさまが心配するかもしれないから、今日ルラが楽しく過ごしたことは伝えたほうがいいと思うの。」


 と、慌てて付け加えた。さっきまでは上手くやっていたのに、というもどかしい気持ちでいっぱいだ。


「う、うん。分かった。」

 

 ハンスは嘘をついた。心の内では、母にルラのことを話すのは今ではないと、心に決めている。


 その場で棒立ちになっていたローレンは、『自分の悪かったのか?』と、一時心をざわつかせはしたが、すぐに『いや、僕は悪くない。』と思い直した。肩に派手な布を巻き 髪のへんなところにへんな格好でリボンをつけ 腰には大きな羽根つけていたら誰だってバカみたいだと思うだろう。それを正直に口に出したまでだ。


 責める目付きの皆の目に腹が立ち、ハンスを思い切り睨み付けた。


「あ、あ、ご、ごめんローレン、ルラはちょっと機嫌が良くなかったみたいなんだ。」


 ハンスは不機嫌なローレンに気付き、謝った。そのとたん、皆の雰囲気も変わった。『ローレンが余計な事を言ったから··』から、『何でそんなに大げさに泣いてるの··』といった感じだ。


 ハンスは最低に惨めな気持ちになった。せっかくのピクニックが台無しで、大泣きしているルラのことをみんなは良く思っていないかもしれないし、ルラの方だって、こんなことになってハンスのことを嫌いになっているかもしれない。


 ローレンは泣きたいのを我慢して片手にバスケットを持ち、もう一方の手でルラの手を引き、秘密基地を後にした。

大泣きしているルラは、手を引いてやらないとちゃんと歩けないからだ。でも、


(あ、あれ、本物のお兄さんみたいだ。)


 と、途中でふと気付き、むずむずと誇らしくなった。




▫▫▫▫▫



「どしたの?こんなへんな格好して?」


 両手を頭の後ろに回し空中であぐらをかき、まるでハンモックで横になったみたいな格好をしていたトゥックは目を丸くした。


「もうっ、言わないでよっ!トゥックなんか大っ嫌い!みんなどっか行っちゃえばいいのにっっ!!」


 小屋の前でハンスをどうにか追い払ったルラが、ドスドスと足を踏み鳴らして中に入ってきたところだ。右手で髪にくっついたリボンをむしり取り投げ捨て、左手では肩の布を剥ぎ取って床に叩きつけ─それはヒラヒラと落ちただけだったけど─ついでに踏みつけて、腰の羽根を引っこ抜いた。


「んあ?今どき箒鳥?」


 ふぁさっ、と放り出された羽根は、思わずトゥックがキャッチした。


「こんなの、こんなの、大っ嫌い!ワーッッッ!!」


 ルラはトゥックに突進した。


(あ、これは··突き飛ばされる)


 空中に留まっておいたら何てことないのだが、トゥックはキャッチした羽根をポイ、と捨て、律儀に突き飛ばされる為に床に降りた。と言っても、素直に突き飛ばされるつもりはなく、サッと身体のサイズは調整する。


──ドスンッ。ボスッ。···ボスッ、ボスッ··


 体当たりだけでは気がすまなかったらしい。ルラの完全な八つ当たりを全身に受け止め、トゥックは両腕を広げたまま、ただじっと立っていた。



ありがとうございます。

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