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おてんば姫と世直し  作者: コラム
6/15

06

結局リズピースを止めることは叶わず、ベレージたちは兵士の言う人物と会うことになった。


城下町の外れに連れられ、そこにあった大きな屋敷に入るように言われる。


城からは離れているが、おそらくはそれなりに地位の高い貴族の家だろう。


ベレージは、リズピースの素性がバレないか心配したが、彼女は変装もしているし顔も隠しているから大丈夫だと言って聞かなかった。


兵士は中には入らずに、門の前で足を止めた。


彼の他にも数人の見張りがいることから、かなり侵入者を警戒していることがわかる。


「妙な感じだな。ピースティンバー王国はそんなに治安も悪くないだろうによ」


「うん。さっきの倒した人たちも見た目は普通だったしね。ベレージのほうが人相悪いし、なにより目が死んでるし」


リズピースが辛苦なことを言うと、ミルキーも同意しているのか羽を振って鳴いていた。


「お前ら……今日がオレと初対面のはずだよな?」


顔を歪めているベレージを置いて、リズピースとミルキーは屋敷の中へと歩を進める。


中には召使いの女がおり、彼女の案内でリズピースたちを探しているという人物の部屋に向かった。


移動中の廊下にあった装飾品も置き物も、平民は当然、貴族でも手に入れることが難しそうな品物ばかりだった。


外観も立派だったが、屋敷内も大したものだと思いながら、ベレージはまた違和感を覚える。


ピースティンバー王国に住む貴族の多くは清貧な暮らしを好む。


それは王であるリズピースの父が質素にしているというのもあって、必要のない贅沢はしない国民性なのだ。


つまり無駄な金品を購入しないということでもある。


そうだというのに、この屋敷の主人はまるで見せびらかすように飾っている。


「まあ、個人で稼いでる分には変じゃねぇか。趣味の問題だし。キスミスも頼んでいた特注の馬車は自腹だって言ってたしな」


国には多くの人間が住んでいる。


気にするようなことではないとベレージが思っていると、案内をしていた召使いの女がとある部屋の前で足を止め、中に声をかけていた。


「入ってもらいなさい」


中から声が聞こえると、召使いの女が頭を下げてきて、ベレージたちは中へ入ることに。


部屋の中には廊下よりも立派な絨毯が敷かれ、壁にはこれまた豪華な額縁に入った男性の肖像が飾ってあった。


そして、ベレージたちの前では、無駄に大きなテーブルと異様に背もたれが長い椅子に腰かける男の姿が目に入る。


短く刈り込んだブラウンヘアに、綺麗にそろった顎ヒゲを生やしている身なりの良い男だ。


「初めまして、私はライオネル·ドラグヌスと言います。あなたたちが盗賊の一味を捕まえてくれた方々ですね」


ニッコリと微笑み、椅子から立ち上がったドラグヌスという男は、この中での年長者というのもあってか、ベレージに握手を求めてきた。


ベレージはこういうことに慣れていないため、引きつった笑みを浮かべながら手を握り返す。


それから先ほど案内をしてくれた女召使いが部屋に現れ、紅茶と茶菓子を持ってきた。


ドラグヌスが座ってゆっくり話そうと声をかけ、ベレージたちは言われるがままテーブルに着く。


「我が商人組合の英雄であるあなた方のお名前を、ぜひお聞きしたい」


「オレはベレージって言います。こっちのはリズピース。白いのがミルキーです」


「ふむ。失礼ですが。そちらの鳥さんはともかく、お二人に姓はないので?」


「えッ? ああ、はい……。オレらはその……しがない旅人なので、今は次の町へ行くための支度で、ちょっとこの国にいるだけなんですよ」


適当に話し合わせるベレージの横では、ドラグヌスの会話相手を彼に任し、リズピースが出された紅茶とお菓子に夢中になっている。


一方でミルキーのほうはというと、リズピースと同じくお菓子をパクパク食べながらも、彼女が口元を覆っていた布を外しているので冷や汗を掻いていた。


ドラグヌスは他人と会話するのが好きなのか。


ベレージたちが身分が低いと知っても態度を変えることはなかった。


聞いてもいないことをベラベラと喋り続け、ときにベレージたちを褒めては、自分が男爵であることや、ピースティンバー王国の商人組合の相談役をしていることを自慢する。


「へ、へえ……ドラグヌスさんは男爵でしたか。しかも町の相談役とは……。ハハハ……」


貴族というのはこうも話好きなのか。


ベレージは乾いた笑みを浮かべながら、いい加減に帰りたくなってきていた。


そんな彼の気持ちなど知らず、リズピースはいつの間にか椅子の背を預けて寝息を立てている。


顔こそ布で隠しているからまだいいが、現状、男爵を前に身分の低い者がしてはいけない態度だ。


慌てたミルキーは冷や汗でびっしょりと濡れた体を動かし、ドラグヌスに気づかれないように起こそうと、彼女を揺すりながらもまだお菓子を食べ続けていた。


彼女たちのことを気にしていなかったベレージも、ミルキーが動いたことでようやくリズピースが寝ていることに気がつく。


「おい、なに寝てんだよ!? ドラグヌスさんが話してんだろうが! ミルキーもいつまで菓子食ってんだよ! 気づいたんなら早く起こせって!」


「ハハハ。いいんですよ、ベレージ殿。そんなことよりも、そろそろ今日来てもらった本題に入ってもよろしいかな?」


その一言から、ドラグヌスの雰囲気が変わる。


先ほどまでの温和な表情が厳しいものになり、真っ直ぐにベレージのことを見つめ始めた。

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