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おてんば姫と世直し  作者: コラム
4/15

04

それから数十分後にキルミスたちは戻った。


戻ってきたベレージとミルキーに何があったのかはわからないが、二人の姿はまるで何日も食事を取っていないほどげっそりとしていた。


そんな彼らとは違い、キルミスはいつもの調子で着替えを終えていたリズピースに声をかける。


「さあ、姫さま。お(ぐし)を整えましょうね」


「なんかあったの? ベレージとミルキーが見るからに衰弱しているけど?」


「なんでもありませんよ。ささ、彼らのことは気にせずに、姫さまの身なりを完成させましょう」


リズピースは冴えない男と白ペンギンの変わりようを訊いてみたが、キルミスは強引に彼女を座らせ、その短くなった髪をハサミでそろえていく。


ようやくベレージとミルキーが復活してきた頃、リズピースの格好も出来上がった。


「よくお似合いですよ、姫さま」


「うん! いいね、この髪型。ありがとう、キルミス」


ショートパンツとロングブーツに、指の部分だけ切れているフィンガーグローブ。


さらに髪は中性的なショートカットで、やはりリズピースは、動きやすい活動的な容姿を好むようだ。


キルミスが持ってきた全身が映る鏡を見ては、何度もポーズを変えて嬉しそうにしている。


呑気なもんだなと言いたそうに椅子から立ち上がったベレージは、鏡の前にいるリズピースとキルミスに声をかけた。


「それで、旅の準備に数日かかる話だったけど。なんでそんなに日数がいるんだ?」


ベレージの言葉を聞き、リズピースも同じ反応をし、彼女もキルミスにせっつく。


離れていたミルキーも椅子からピョンと飛び降り、彼女たちに近づきながら「たしかになんで?」と言いたげに首を傾げていた。


皆の注目が集まる中、キルミスはコホンと咳払いをしてから答える。


「馬車の用意に時間がかかってましてね」


「馬車? そんなの適当な商人に頼んで、ついでに乗せてもらえばいいじゃないか。貿易が盛んなこの国なら、それこそどこへだって行けるしな。それに、乗合馬車なら今すぐにでも出れるぞ」


「ホンットあなたは何もわかってないんですねッ!」


正論を言ったつもりのベレージだったが、キルミスは彼に向かって声を張り上げた。


不機嫌そうな彼女が言うには、いくら変装していてもここら辺はピースティンバー王国の領土内。


そんなところで不特定多数の人間と関われば、それだけリズピースがエリザベス・ティンバー王女とバレてしまう確率が上がるという話だ。


キルミスの心配も当然といえる。


リズピース、いやエリザベス姫は、ピースティンバー王共々民に慕われている。


公務で城下町に顔を出すときなどで、彼女のことを見ている者も多い。


そのため、服装や髪型が違うくらいでは、すぐに見破られてしまう可能性は高い。


それでもしリズピースがエリザベス姫とバレて、そのことがピースティンバー王の耳に入ったら、キルミスとベレージは、王族を騙したという罪で、最悪処刑されるかもしれないのだ。


キルミスくらい慎重に考えたほうがいいのはたしかである。


「あと、それ以上に重要なのは、道中での寝泊まりです」


「寝泊まり? そんなもん宿屋か町に着かなかったら野宿に決まってるだろ?」


「あなたは姫さまに野宿しろと言うのですかッ!?」


また声を張り上げたキルミスに、ベレージにいい加減に慣れてきていた。


それはミルキーも同じようで、辟易とした顔でキルミスのことを見上げては、ため息をつくように鳴いている。


キルミスは、そんな態度の彼らを気にせずに話を続けた。


なんでもリズピースが旅に出るこの日のために、彼女は城下町にいる職人に頼んで、特注の馬車をお願いしているようだ。


その馬車は、まさに動く城といった強固なものらしく、さらに中には寝室、台所、風呂まで付いた夢のようなものだと言う。


馬二頭で引き、選ばれたその馬たちはかなり屈強で、魔物にも負けないほど強いようだ。


「そんなの旅じゃないよ!」


便利な馬車を用意していたと聞き、リズピースは声を荒げた。


彼女の不満そうな態度を見て、キルミスは青ざめた顔でオロオロと狼狽えている。


そんなキルミスに、リズピースは容赦なく言葉を続けた。


「野宿ぐらい覚悟の上だよ。 第一にそんな豪華な馬車使ったら、ボクが王女だってことがバレちゃうけど、いいの?」


「そ、それは旅の大富豪の娘という設定を考えていまして……。それなら従者と変わったペットとして白いペンギンを連れていても自然かと……」


リズピースの機嫌を損ねてしまったことが、余程堪えているのか。


キルミスはしっかりと練っていたであろう道中でのリズピースの素性を、上手く話せていなかった。


しかし、彼女が考えていた素性を気に入らなかったリズピースは、フンッと両腕を組んでそっぽを向く。


「もういい! 歩いてく!」


「姫さま!? それはさすがに危険です! 城の外には魔物が出るんですよ!?」


「キルミスの言うとおりだぞ」


リズピースとキルミスの会話に、ベレージが口を挟んできた。


彼はそんな気分で動くようだと、旅の途中で間違いなく死ぬとリズピースに言う。


「別に歩くのが悪いとは言わないが、いちいち感情のまま旅をするなら、今からでも遅くはない、やめておいたほうがいいな。それと、キルミスはたしかに過保護すぎるとは思うけど、姫さんのことを考えてここまでやってんだぞ。殺されるのを覚悟でよ。それなのに、ちょっとそんな言い方はないんじゃないか?」


「うぅ……。わかったよぉ。キルミス、ごめんなさい……」


素直に謝ったリズピースを見て、キルミスは涙を浮かべていた。


ベレージがそんな彼女たちを見てため息をついていたが、ミルキーは両羽を激しく振り、はしゃぎながら大きな声で鳴いていた。

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