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おてんば姫と世直し  作者: コラム
3/15

03

ベレージとミルキーが抱き合いながら吠えていると、キルミスと入れ替わりとばかりに小柄な女が小屋に入ってきた。


キルミスの言伝でも頼まれた小間使いかと思ったベレージが、入ってきた女に声をかけようとすると、彼女は羽織っていたフードと外套を脱ぐ。


「ミルキー久しぶり! それで、あなたがキルミスが言ってた道案内をしてくれる人だね」


金髪碧眼にドレス姿。


長い髪を縦ロールにしているこの女のことを、ベレージは知っていた。


いや、このピースティンバー王国に住む人間ならば誰でも知っている。


この突然現れた縦ロール女は、この国のお姫さま――エリザベス·ピースティンバーだ。


ベレージは、キルミスから特に何も言われていなかったので、いきなり小屋に来た姫を見て開いた口が塞がらなくなっていた。


一方でミルキーのほうは、とことこと彼女に向かって歩き出し、抱き上げられている。


「元気そうだね、ミルキー。うんうん、ボクも会えて嬉しいよ」


「エ、エリザベス姫ッ! 初めましてオレ、いやワタクシはベレージと言いますぅ。ご、ご機嫌麗しゅうございます。本日はお日柄も良く……」


素っ頓狂な声を出し、知る限りの丁寧な言葉を発したベレージに、姫はムゥッと不機嫌そうな顔を向けていた。


何か不味ったかと慌てるベレージに向かって、彼女は人差し指を立てて、それを突きつける。


「そういうの無し! ボクは今から旅の武闘家リズピースだよ! だから普通に話してね」


呆気に取られているベレージを放って、エリザベス姫――いや、リズピースは小屋の中を漁り始めた。


それから何かを見つけた彼女が手に持っていたのはハサミだった。


お姫さまがハサミで何をするつもりだと、小首を傾げるベレージの目の前で、リズピースはその長い縦ロールの髪をバッサリと切り落とす。


「な、なななにをしてんだよ、いきなりぃぃぃッ!?」


「えッ? だって旅の邪魔になるじゃん。それにさ。前から嫌いだったんだよね、この髪型。グルグルがうっとうしかったし」


リズピースはチョキンチョキンと自分の長い髪を切っていく。


床に落ちた金色の髪が、まるで牧場にある藁のように積み上げられていった。


それを見ていたミルキーは慌ててベレージに向かって鳴き始めたが、彼は戸惑いながらも答える。


「いやまあ、止めてなくても大丈夫だろ……。自分でやってることだし。それに、たしかに変装するなら短いほうがいィィィ――ッ!?」


「ベレージ、言い忘れてたことがあったんだけど……って、えぇッ!? なんで姫さまがここにッ!?」


ベレージは小屋に戻ってきたキルミスを見て、心臓が止まりかけた。


キルミスのほうというと、縦ロールを切り落としているリズピースの姿を見て、まるで灰のように真っ白になっている。


二人とも互いにしばらく沈黙していると、キルミスの顔が次第に険しくなっていった。


そんな彼女を見たベレージは後退りをし、ミルキーが恐怖のあまり彼の足にしがみついて震えていた。


「ちょっとベレージ。これは一体どういうことなのかしら?」


「なんでもないよ、キルミス。ただ髪を切ってるだけだって」


落ちた髪を拾いながらベレージに訊ねたキルミス。


リズピースは自分のしていることをキルミスに答えたが、彼女の視線は、真っ直ぐにベレージのほうへと向けられている。


凄まじい憎悪を含んだ瞳で、ベレージのことを睨み殺すかの勢いでだ。


「そうですか……。ワタシはこの男と少しお話があるので、姫さまはここにいてくださいませ。あと、そのお(ぐし)は後で整えさせてもらいますよ」


キルミスはそう言いながら、拾った髪を力いっぱい握りしめる。


あまりに力を込めているせいか、彼女の手の平から血が流れ出し、金色の髪を赤く染めていく。


それどころか歯を食いしばったのか、キルミスの口からは血がダラダラと垂れていた。


「では、行きましょうか。ちょうどあちらに、拷問で使っている小屋がありますので。もちろん道具もそろってます」


「ちょっと待てってキルミスッ! なんか誤解しているようだが、オレは姫さまに髪を切れなんて強要した覚えはないぞ! これは姫さまが勝手にやったことで――」


「ワタシ、言いましたよね? 姫さまに何かあったらあなたを、いやあなたとミルキーを殺すと」


「だから落ち着けって! なあ、たかが髪の毛じゃねぇかよ。姫さまだって短いほうが好きみたいだし。ここは穏便に……うわぁッ!?」


キルミスは無言でベレージとミルキーの首根っこを掴むと、彼を引きずり、ペンギンを小脇に抱えながら小屋を出ていく。


「なッ!? やめろって!? 離せよキルミス! 姫さまが髪を切ったくらいで殺されたくねぇぇぇッ!」


「なにを言ってるのですか? あなたたちを殺すはずがないでしょう? 少し伝え方が悪かったと反省して、また改めて説明しておこうと思っただけです」


「ヤダ! 痛い説明なんてヤダッ! 誰か助けてくれぇぇぇッ!」


喚き散らすベレージとは違い、ミルキーのほうはすっかりと大人しくなっていた。


その姿は、まるでギロチンにかけられる前の修道女のように覚悟を決めた顔をしている。


「なにをあんなに騒いでるんだろ? ま、いっか。今のうちに着替えちゃおっと」


これからベレージとミルキーがどうなるかなどつゆ知らず、エリザベス姫改めてリズピースは、ドレスを勢いよく脱ぐのだった。

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