始まりの音
主人公天童マキナ(16)JKは、工学者の両親の影響で最先端のテクノロジーの開発試験する人工島に住んでいる。ここでは、AIやロボット等も最先端の技術が身近に溢れている。テクノロジーが好きなマキナにとっては、最高の環境だ。
人工島には、いくつの公共施設があり、生活するには、何も支障がない、むしろ、ハイテクノロジーのおかげで、快適に過す事ができている。その日までは、人工島で、穏やかないつもと変わらない日々を送っていた。
ー20XX年ー
「カッコー、カッコカッコーッ」
黄色い閑古鳥ロボットが宙を舞い、何度も円を描きながら、主人の真上で鳴きわめいている。
「う〜ん、もう止めてー!」
その声に反応して、閑古鳥ロボットが鳴きやみ、静かにベッドの縁に足を止め羽根を降ろして。今度は声色を変えて呼びかけてくる。
「マキナ、朝ですよ!起きてください」
「う~ん、あと5分~」
マキナは布団を抱き枕にした状態で、目をつぶったまま、怪訝そうな顔で叫ぶ。
これがこの物語の主人公、天童マキナ、17歳JKの毎朝の光景だ。
「朝ご飯、できてますよ!」
「・・ちょっと、ノエル!パパの真似して起こさないでよ!」
「バレてしまいましたカ」
閑古鳥ロボットは残念そうに顔を下に傾けた。
「そっくりだけど、機械の声ってなんかわかるんだから!」
「ナるほど、人類は誠に流石でございマスネ」
(クソ〜!姑息な真似を〜!今の会話で完全に目が覚めたわ・・)
マキナは起き上がり、質問を重ねる。
「で、本当に朝ご飯できてるの?」
「ハイ!お父上からメールがきておりマス」
「(朝ご飯作っておいたから、食べて行ってね。パパより)との事デス」
閑古鳥ロボットは父親のメールを声に出して読み上げた。
「わかった!時間教えて!」
「現在、7時30分です。あと30分で準備してください。今のトコロ、いつも通りデス」
「今日の授業ハ…」
閑古鳥ロボットを操作しているのは、ノエルといいクラウドAIだ。通信移動可能な範囲で、主人の許可があり、AI対応であればスマホや閑古鳥ロボットだけではなく、何にでも移動できる。スケジュール管理をしてくれ、常にAIが秘書の役割を果たしてくれる。
マキナが眠気まなこで、リビングの椅子にこしかけると、ベンギン型のお手伝いロボット『ロザリー』がすかさず料理を温め、テーブルに朝ごはんとナイフとフォークをおいた。
「パパお得意のエッグベネディクトだ・・おいしそう」
(パパって、ロザリーとかデリバリーとか使えばいいのに、なるべく朝ご飯作るようにしてくれてマメだよね。離婚した事まだ気にしてんのかな・・?)
エッグベネディクトを慣れた手付きで切り分け、口に運ぶ。
「あいかわらず、ウマッ!」
父親の料理が美味しくて目が覚めるのが、お決まりと言える日課だ。
マキナが14歳の頃に両親が離婚し、父子家庭になった。父親は工学者で、クラウドAIノエルの開発メンバーの1人だ。現在も旧型ノエルは、父親がメンテナンスをしてくれている。
これまでの開発メンバー達は、新型やその他の案件に移動してしまった為、現在も旧型ノエルの担当を兼任している父親は、旧型ノエルを管理している数少ないメンバーの1人だ。
母親も旧型ノエルの開発メンバーだったが、現在は新型レイノの開発メンバーとして活動している。
マキナは両親が開発メンバーだった、旧型のAIノエルを今も使っており、旧型は古いと言われるが、今も旧型ノエルを愛用している。
マキナには2歳下の弟がいて、弟は新型レイノを使っている。両親の離婚後、マキナは父親っ子だった為父親の元に残り、弟は新型レイノの開発メンバーである母親についていった。姉弟は離れる事になるが、互いにそれぞれで両親を支える決意をした。
マキナは、工学者の両親の影響で、ハイテクノロジーの研究と開発の為に作られた人工島に住んでいる。
その人工島には住民が不自由なく暮らせる様に、様々な施設が作られ、どれも最先端のテクノロジーが起用され、研究開発の成果をリアルに感じられるようになっている。
マキナの家ももちろん最先端の技術が搭載されている為、面倒な時は洗面台に立って声をかければ、ドライヤーも洗顔も歯磨きも洗面台のロボットアームがやってくれる。ロボットアームに手際良く綺麗に仕上げてもらい、素早く終わる。
「ロザリー!着替お願いー」
人工島の自宅には、おのおの好みのお手伝いロボットがいるのが殆どだ。マキナはベンギン型お手伝いロボットに『ロザリー』と名付けている。ロザリーは雰囲気作りだろうか、作業によってはふりふりのエプロンと三角巾を付けていたりする。
ロザリーは指示された通りに身仕度を用意してくれ、小さな子供に接する母親の様に主人の準備を甲斐甲斐しく手伝ってくれる。学校は私服で良い為、マキナはクロップシャツと黒のカーゴパンツのラフなスタイル姿が多い。今日もそのスタイルだ。
マキナは、肩まで伸びた髪を簡単にひとつまみし、伸ばした紐状のヘアーロールを髪にあてると、ヘアーロールが髪に巻き付いて、一瞬でひとつ結びになる。その間に、ロザリーがボディーバッグを装着してくれる。
「よし!行くかぁ」
ノエルと通信できるスマートウォッチを腕に付け、空陸対応のスカイブレイドを足に装着し、颯爽と家から飛び出した。同時にノエルが好みの音楽をかけてくれる。
この辺りのこの時間帯は、貸し切り状態の様に思えるほど、マキナ以外は人通りも殆どなく、何も走っていない事が多い。青い空と見晴らしの良い海に面した長い一本道の道路を一目散に駆け出した。
その先の緑に囲まれた人工島に、学校がある。
幾つも人工島が円を描くように位置し、橋やトンネル、道路などで繋がり、行来できる様になっている。マキナは学校のある人工島を目指し、道路を勢い良く滑っていく。スカイブレイドなので、最初から空も飛べるが、道路を滑った方が、足の力を思いっきり活用できる為勢い良くスピードが出る。
マキナは青い空の下で、スピードを上げて風を感じるのが好きなのだ。
「今日は天気もいいし、風も気持ち良くてサイコーッ!!!」
あまりの気持ち良さに、勢い良く高くジャンプして飛びながら空中で前転した後、両手を広げ、心地良い風を受けて、風に身をあずけた後、着地する。
「今日も良い日になるッ!!」
空が青くて風が気持ち良いと、マキナは口癖の様にこの言葉を言う。何故だかわからないけど、今日はいつもとは違う高揚に、何かが始まる予感がした。