後編
「うおおぉぉ!」
ヒロが雄たけびをあげながら振り下ろした剣が四天王の体を引き裂いた。少し避けられてしまったけど、十分な致命傷を与えられた一撃だ。
「ま、まさかこの俺が!?クソっ!やはりあの時女だけじゃなく全員ぶっ殺しておけば…」
「そうだ…俺達を生かしておいたのは間違いだったな!インの仇…今こそ討つ!」
「いけ!ヒロ!」
「ヒロー!」
「身体能力強化!」
先ほどの攻撃で負傷した四天王は明らかに動きが悪くなっていた。必死に避けたり防御をしているけど、補助魔法を受けたヒロの攻撃は確実に四天王の体力を削っていく。
「とどめだ!」
「ぐああぁぁ!?」
ヒロの剣が四天王の腹に突き刺さる。奇しくも…四天王が私に致命傷を負わせた場所と同じ場所だ。四天王は苦悶の顔で腹に刺さった剣を引き抜こうとしたけど、力尽きたのか手をだらんと下げて地面に崩れ落ちる。
「はぁ…はぁ…」
「ヒロ!」
「やったね!」
「お疲れ様…ヒロ」
息を切らせて立ち尽くすヒロに皆が駆け寄っていく。四天王の攻撃を受けきって、皆を守った戦士のファイ。的確な魔法攻撃で確実に体力を削ったマジ。そして…回復や補助魔法でPTを支えた賢者のシンノ。とどめを刺したのは勇者のヒロだけど、四天王を倒せたのは全員が力を尽くした結果だ。私は…ほとんど見ている事しか出来なかった。
「イン…幼馴染の僧侶だったっけ?きっと天国で見ていてくれているハズよ」
シンノ。彼女は私が四天王に殺された後、私の穴を埋める形で仲間になってくれた。元は私と同じ僧侶だったけど、旅の途中で賢者へと転職してさらにPTに貢献してくれる事になる。
「あの時は歯が立たなかったけど、俺達でやったんだ!」
「イン…私達強くなったんだよ」
「ああ…俺達の勝ちだ。イン…見ててくれたか?」
皆口々に私への報告をしてくれている。もうずっと前の事なのに、忘れずにいてくれただけで嬉しくないハズが無い。
「ありがとう皆…」
けど…私は、こうして皆に付いて旅をするのに、疲れ切ってしまっていた。
「もう、私が居なくても…ううん、もうとっくの前からそうだったもんね」
神様のバグによって運命から外れてしまってから、私は少しでも皆の役に立てるようにと頑張ってきた。例え気づかれる事が無くても少しでも傷を治したり、長期滞在する町では個別に稼いでお金やアイテムを工面したりもした。そしてそれらは本当に…皆に一切気づかれない上に大して意味が無い事だった。
「ただの…わがままだったもんね」
私は運命から外れるという事を甘く見過ぎていた。無視されるのではなく気づかれない…認知されないというのがどういう事なのか、まるで分っていなかったんだ。
「…結局、何も出来なかったなぁ」
傷を治しても、傷が初めから無かったように思われる。レベルが上がっても強い魔法を習得できない。多少のお金やアイテムの支援は、それが必要だとは感じられない。私が一緒だと宿代が高くついてるのに、それに対して疑問を抱かない。重要な場面ほど、あらゆる人から気づかれない。シンノが賢者に転職してから、私が回復魔法を使う機会が劇的に下がった。ヒロとシンノの距離が…最近すごく近くなってきた。
「まぁ…仕方ないよね」
皆は四天王の死体とこの部屋を探り、有用なアイテムを吟味し始めていた。その雰囲気は久々に見るくらい晴れ晴れとしたもので、私の仇を討ったというのが皆の中で良い区切りとなったんだろう。時たま私を思い出して悲しい気持ちになる事も、これからは減っていってくれると思う。
「シンノ…ヒロを、皆をお願いね」
特に落ち込んでいたヒロを献身的に慰めてくれたのはシンノだった。彼女が居なければヒロはここまで立ち直る事はなかっただろう。賢者として魔法の強さも腕も私とは段違いだし、彼女が仲間になってくれて本当に良かった。
もうヒロ達に対する心残りは無い。自分用に用意した転移アイテムを使って、あの時の村に行こう。小さな村だからこそ世界の運命とあまり関係が無く、私もただの僧侶として生きていけると神様は言っていたハズだ。これからはただの村人として、ヒロ達の活躍が届く事を心待ちにして生きて行こう。
「ばいばい…」
皆に手を振りながら転移アイテムを使う。ぼやける視界の中で…一瞬だけシンノと目があったような気がした。
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「やっと居なくなった…か」
「シンノ?なにがだ?」
「ううん、四天王の事。インの事は皆から聞いていたし、遂に仇を取れたって思うとね!」
「ああ…本当にな。でもこうして皆で仇を討てたのも、シンノが仲間になってくれたおかげだよ。ありがとう」
「今更何言ってるのよ。私だって賢者になる事が出来たし、なにより世界平和の為にヒロ達と一緒に戦う事が出来るだけで嬉しいんだから」
「そう言ってくれると嬉しいよ。次はいよいよ最後の四天王だ、もう少しで世界に平和を取り戻せる!」
「うん!私達なら絶対に大丈夫!」
「…シンノ。魔王を倒して平和になったら、聞いて欲しい事があるんだ」
「なに?今じゃダメなの?」
「あぁ~…うん、こういうのはやっぱり落ち着いてからじゃないと…」
「おーい!ヒロ来てくれ!」
「わかった!…という訳で、続きはまた今度な」
「はーい…待っているからね、勇者様…クスッ」
ちょっと不穏な感じで終了。
このまま追放ものっぽく続けても良かったのですが、勢いと思い付きの産物なのでこのへんで。