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第99話 指名依頼

 久しぶりに俺たちは冒険者ギルドに顔を出すことにした。一定期間依頼を受けないままでいるとランクが降格するというペナルティがあるためそれの回避のためだ。

 そこまで思い入れがあるわけでもないので別に良いのだが、まぁせっかくのSランクなので維持させておくことにしたのだ。


「なんか手軽なやつはないか?」


「Sランクの依頼に手軽なやつなんかあるわけがないだろ」


 面倒なことにSランクを維持するためにはSランクの依頼を達成必要がある。難易度が高いというよりも面倒な依頼が多い。


「ダイヤモンドの納品! これとかどう!?」


 フィーが簡単そうな依頼を見つけた! と嬉しそうに報告をしてくる。たしかにこれならダイヤモンドゴーレムから取れたものをそのまま横流しすればいいので簡単かもしれない。依頼書を読んでもらう。


「むきー、ムカつくザマス! あのオークションで落札できなかったダイヤモンド。あれが頭にチラついて夜しか眠れませんわ。誰か! 20億であのダイヤよりも大きいものを持ってくるザマス!」


「なんだその怪文書は?」


「依頼文を意訳したらこうなった」


 何故意訳した? というかこの依頼ダメじゃん。俺たちはあのオークションで今後5年間は帝国内であのレベルのダイヤモンドを売り捌かないということを誓約している。これを破ったら帝国の商業ギルドを敵に回すことになるので流石にまずい。何がまずいって商業ギルドに組している商店が物を売ってくれなくなる可能性がある。


「これは却下だな」


 今の生活を捨ててまでお金が欲しいなんてことはない。他にも色々と物色しているが良い依頼は無さそうだった。しかし日を改めてもSランクの依頼なんて滅多に更新されないので何か選ぶ必要がある。


「どうしたものか」


 降格を受け入れるか、それともこのめんどくさそうなものから一つ選ぶか、悩ましい問題だ。


「Sランク冒険者の『装備壊し』さんですよね。ちょっとよろしいでしょうか」


 どうしたものかと途方にくれていると職員さんに声をかけられた。なんでもギルドマスターからの呼び出しらしく別室に行くように指示された。もしかしなくても厄介ごとの予感しかしない。


「これって行くしかないんだよな?」


「まぁ普通は行くだろうな」


 そりゃそうか。仕方ない、話だけでも聞くとしよう。



 それにしても、帝国の、それも帝都のギルドマスターが俺に一体なんの用事なのだろうか。会ったこともないのでどんな人なのかも知らないんだが。やっぱり筋肉モリモリマッチョマンなのだろうか。


 そんなことを考えながら案内された部屋に入る。予想と反して帝都のギルドマスターは戦闘員とは思えない女性だった。


「おぉ、『装備壊し』さんやね。よぉ来てくれたな〜。ほら座りや」


「それを自分から名乗ったことはないんだが……」


「二つ名なんてもんは得てしてそういうもんやろ〜」


 ダサいからやめて欲しいんだよなぁ。それが分かっているからかギルドマスターはケラケラと笑っている。良い性格してんなおい。


「改めて、ギルドマスターのユキカゼや。早速で悪いんやけど、君らがSランク冒険者の中でも指折りの実力者であることを見込んで頼みがあってな。まぁ頼みっちゅうても拒否権は無いから実質命令なんやけどな!」


「まぁ話だけなら聞いてやってもいいぞ」


「命令や言うとるやろがい!」


 ふぁー! 何が悲しくてギルドマスタープレゼンツ、クソめんどくさい依頼を強制されなきゃならんのだ。


「あんたらよう聞きや。これは帝国からギルドに出された依頼や。その内容は、ここサザーランド帝国の南方にある未踏破領域、サウザー山脈とその周辺の大森林の調査や。あそこはSランクモンスターが跋扈するまさに死の山脈ともいえる場所やけど、そのおかげもあってとんでもない量の資源が眠ってんねん。それにSランクモンスター自体も貴重な素材やからな。まぁぶっちゃけた話が軍拡のために必要なんや」


「軍拡ですか……戦争でも始めるつもりですか?」


 帝国の北方には王国がある。トワは王国の第三王女だし、アロエの出身の孤児院もある。気にならないわけがない。仮に帝国が王国に戦争を仕掛けるというのなら、俺も黙ってはいられない。しかしユキカゼの情報によると、そんなきな臭い動きはないそうだ。


「どちらかというと防衛力の強化が目的やな。というのも、半年くらい前から王国のダンジョンがとんでもない速度で攻略されとるんよ。具体的に言うと、62階層から70階層までや。君らも冒険者ならダンジョンの50階層からの難易度はだいたい分かるやろ。そしてその素材は間違いなく王国軍部にも流れとる。それが使われた装備は間違いなく現時点で世界最強と言えるやろうな。つまり、帝国もそれに対抗するための装備を作る必要があるってわけなんよ」


「あー、そうかぁ……そういうことかぁ……」


「なんや、そんな奥歯に物が挟まったみたいな言い方して」


 いや、だってねぇ……。ちょっと心当たりが多すぎるんだよな。まさか帝国の偉い人たちがそんな危機感を抱いていたとは思わなかった。


「気になる反応やけど。ま、ええわ。そんなわけで帝国軍は強いモンスターの素材を求めてるんや。かといって帝国のダンジョンはアンデッドとゴーレム、いわゆる無生物系のモンスターばっかでまともな素材が取れん。そこで目をつけたのがサウザー山脈ってわけや」


 だからと言って未踏破領域なんて候補にしようと思うなよ。未踏破領域って『あそこに行って帰ってきたものは誰もいない』みたいな曰くがあるところだぞ。お偉いさん方は他人事だと思ってベッドしてるだろ。しかし危険度に見合うだけの成功報酬は出るらしい。


「これでも成功報酬は交渉したんやで。初めは成功報酬は1000万ゴールドでなんてアホぬかしとったんやから」


 報酬で釣られると思っているのも残念なところだ。たしかに冒険者は危険な依頼の見返りに報酬を得る職業ではあるが、なにも死にたがりというわけではない。特に高ランクの冒険者にもなればリスクとリターンをしっかり考慮する。もちろんそこを見極めた上で依頼を失敗してしまうケースもあるが、それでも低ランク帯よりはそんな事故は圧倒的に少ない。


「成功報酬は1億ゴールド。装備修繕費も補償。別途素材や有用なアイテムの高額買取や! どうや! 飲ませたったでこの提案!」


「お〜、すごいすごい。じゃ、俺たちはこれで」


「おう、おおきにな〜……って待たんかい!」


 くそっ、今一瞬帰れそうな雰囲気だったのに。絶対無理だと思っておざなりにしていなかったらワンチャンあったか。


「今までのは帝国議会からの依頼、そしてここからがギルドからの依頼や。その依頼書がこれやで」


 ユキカゼは「確認してな」と1枚の紙を手渡してくる。とんでもなく悪い顔をしていたが、その内容はえげつないものだった。


「成功報酬はこっちも大盤振る舞いの1億ゴールドや。題して、帝国議会の金全部抜いてみた〜」


「これはひどい」


 正確にはお金よりも帝国議会に貸しを作るのが目的だそうだ。ユキカゼの狙いは帝国議会は持ってきた素材は責任を持って購入しなければならないという依頼の規約を逆手に取って、購入出来ないと根を上げるまで素材を持っていって規約違反にさせることだった。規約違反を問わない代わりに貸し一つという形を作ろうというわけだな。まぁやりたいことは分かるが……普通に無理だろ……。


「普通は無理かも知れへんけどな……ぶっちゃけ君らSランクモンスターでも余裕で狩れるやろ? そこいらのSランク冒険者とは格が違うのは分かってんねんで」


 一応勝算があって俺たちに頼んでいるわけだ。Sランクモンスターの素材なら高値で売れるだろうと。でもなぁ……。


「考えたこともなかったけどさ、国のお金が足りなくなることなんてあるの?」


「そうですね……。我々が日々使用しているゴールドは王国、帝国、公国、聖国、共和国で共通の通貨です。中立国である聖国の中央銀行が流通量を管理していますが、まとまった額の通貨発行には5大国の合議が必要になります。なので足りなくなったから発行して補充する、なんて力技は不可能ではありますね」


 なるほど。じゃあ今あるだけを掻っ攫っていけばいつかは空になるわけか。ちなみに国庫を空にしようと思ったら具体的にどのくらいかかるのだろうか。検討もつかないな。


「とはいえ、なにも空にする必要はありませんよ? これ以上払えないと言わせればいいのですから。そうですね……国費のうち軍事費に割り当てられているのはだいたいの国で10パーセントにも達しません。その中でも人件費や設備の維持や建築費などが多く占められると考えると、使用できるのは更にそこから10……多く見積もって20パーセントほどでしょう」


「となると国家予算の2パーセントも要らないってことか」


「おお! それなら!」


「現実的な数字になりそうだね!」


 たしかに、1パーセントって思ったら出来そうな気がしてきたな。


「ざっと計算して、4000億ゴールドといったところでしょうか」


「バカじゃん」


「解散!」


 4000億ゴールド!? それを空にしろって非現実的すぎるだろ! 何が成功報酬は大盤振る舞いで1億ゴールドだよ。これが成功した時点で4000億だぞ。その4000分の1とか端金じゃねぇか。


「で、これって命令なんだっけ?」


「こんな割に合わない依頼を強制させるとはな」


「卑劣ですね」


「少なくとも報酬にはお金以外の特典をつけるべきですよね……」


 うちの女性陣からの非難の嵐がすごい。残念でもないし当然だけどな。擁護する気にもなれん。しかしユキカゼは懲りるどころか天啓を得たと言わんばかりの表情をしていた。


「それや! 特典や! 金じゃ君らが動かんことは分かった! 何やったらええ?」


「じゃあ今後ランクダウンのペナルティを免除してくれ。定期的に依頼を受けるの面倒なんだよね」


 ユキカゼの表情は一転して「いや、うーん」と唸り始めた。俺が言ったのはそんな難しい条件じゃないが、ランクダウンのペナルティの免除なんて今後最低限の依頼も受けないって宣言だからな。なかなかすぐにyesとは言えないみたいだ。3分くらい考えてユキカゼは答えを決めた。


「決めた! その条件で頼むで!」

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