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第98話 sideアロエ

 今日はお兄様たちとは別行動の日です。


「じゃあ行ってきます。悪い人には気をつけるんだぞ」


「はい、お兄様たちもお気をつけて」


 お兄様たちは王国のダンジョンの70階層に挑戦してくるそうです。なんでも70階層は最上級職が解放されていないと危ないそうで、残念ながら最上級職が解放されていない私はお留守番です。そんな危険なところなんて! と思いましたけどお兄様たちならあまり心配はいらないですね。


「よし、じゃあ行くぞ。『テレポート』


 お兄様たちは一瞬でいなくなってしまいました。何回見ても不思議ですね。


「行っちゃったの〜」


「行っちゃいましたね〜」


 そんなわけで今日はココちゃんとお留守番です。ココちゃんがいるので寂しくはありません。けど、いつもココちゃんは1人なんですよね。


「ココちゃんは普段1人の時に何してるの?」


「ん〜。お掃除とか、お庭の手入れとか」


 いつもお家が綺麗なのはココちゃんのおかげです。ありがたや〜。


「そうだ! 今日は私も一緒にお掃除するよ!」


 今日のアロエは一味違いますよ〜! お掃除大作戦です!



 まずはミーナさんの部屋から行きましょう。


「お邪魔しまーす」


 まぁいないのはわかっていますが……。実はみなさんお部屋がシンプルで最低限のベッドとクローゼットくらいしかないんですよね。お掃除のしがいがないというか……。


「あれ? ベッドの下に何か……」


 よいしょ、っと……なんだろこれ? 本……? なんでそんな貴重なものが?


「あ、それミーナお姉ちゃんの日記帳だよ」


 日記帳……? ってそれなら流石に中を見るのはダメですよね! 元に戻しておきましょう。ん? なんでココちゃんは日記帳って知っているんでしょうか。


「ココそれ読んだことあるよ?」


「えぇ!?」


 気になるうううう。あぁぁ……私の中の悪魔がココちゃんも見たことあるならいいじゃんと囁いてくるぅ……。


「ごめんなさい!」


 ちょっとだけですから! 少し読んだら片付けますから!


『方向性の違いからパーティが解散になった。私とフィーはもっとアルフの街で実力をつけてから王都に行くべきだと言ったが、あいつらは一刻も早く王都で旗を上げたいらしい。たしかに私たちはアルフで唯一のBランク冒険者だ。天狗になる気持ちも分かるが、しかし王都にはBランクの冒険者なんて掃いて捨てるほどいる。そんな甘くはないはずだ』


 ほぇ〜……ミーナさんにもBランク冒険者の時代があったんですね〜。へぇ〜……。


『パーティが解散してしまったので今日は1人で依頼を受けたのだが、その道中でテンマという変な男に出会った。なんでも近くの町までの行き方が分からないそうだ。かれこれ5年ほど冒険者をやっていたが、そんな奴に会うのは初めてだった。聞けば、武器はおろか金すら持っていないというではないか。やれやれ、これでどうやって生きていくと言うんだ? 死なれても寝覚めが悪いのでアルフの街まで送ってやった。いつか恩返しをしてくれるらしいが、期待しないで待っておこう』


 み、ミーナさんとお兄様の出会い!? き、気になりすぎるよぉぉぉ!!! こんなの読むの止まんないよぉ!

 次、次!


『先日会ったテンマという無一文の男と再会した。なんだかんだ元気そう生きていたのは嬉しいが、やはりこいつは変な男だ。足にスライムを履いているのも驚いたが、まさかそれが『ヘイストスライム』を倒してドロップした装備だと言うではないか。全くのど素人がヘイストスライムを狩るなんて……そのアイテムの効果もとんでもないものだった。そんな貴重なアイテムの効果をペラペラと話して、信用してくれるのは嬉しいがなんて不用心な男なんだ』


 あぁ……お兄様はこの頃からいつも通りめちゃくちゃなお兄様だったんですね。いつから一緒のパーティで活動するようになったのでしょうか……。その辺りあんまり詳しくは知らないんですよね。えっと、ちょっと最近のここら辺のページを……。


『昨日のテンマは激しかった……』


 うわぁぁぁ!!! らめぇぇぇ!!! 元の場所に戻しておきましょう……。



 ……激しいの、私耐えられるかな……。


「き、気を取り直してフィーネさんの部屋です」


「ん? もう終わったよ〜?」


 日記を読んでいる間にココちゃんが終わらせてしまっていました……偉いよぉ……。いけません、このままでは私はただの悪い子になってしまいます。次で名誉挽回しましょう。と思ったらトワさんの部屋はスルーされてしまいました。


「あれ? トワさんの部屋は?」


「トワお姉ちゃんはいつもお布団とか綺麗に直してるからやることないよ?」


 さ、さすがはトワさんです……。あの人に隙はないのでしょうか……。


 最後はお兄様の部屋に行きましょう。お兄様のお部屋はみんなの部屋よりもちょっと大きいです。キングサイズのベッドが置いてあります。


「あ、お兄様脱ぎっぱなし」


 むぅ、だらしないです。こうやって脱ぎっぱなしにするとお洗濯したあとに洗濯物が出てくるんですよね。洗濯物カゴに入れないと……。


「くんくん……うへへ」


 はっ! 私は一体何を!? 違うんですこれはただ確認しただけで……って私は誰に言い訳してるの。さて、今度こそ仕事をしないと、シーツを整えて……。


「ん、んん……?」


 ベッドが大きいので1人でやるのは大変ですね。まずは足の方から整えてっと……。このちょうど良い位置で固定しておきましょう。それから頭の方へ……。


「わわっ!」


 ベッドの端の方を踏んだら思ったより沈み込んで顔からダイブしてしまいました。ふぅ……枕が柔らかくて助かりました。


「おっきいベッド気持ちいいなぁ……」


 それにこうしてるとお兄様の匂いが……。




「ア……エちゃん……アロエちゃん起きるの!」


「はっ!」


 しまった! 思いっきり寝ちゃってた! ココちゃんに起こしてもらわなかったらずっと寝てたかも。


「アロエちゃん涎出てるの」


「あぅ……お恥ずかしい」


 お兄様の枕が涎まみれに……これはお洗濯しなきゃですね……。太陽の位置は、あれ、もしかして私2時間近く寝てた?


「お洗濯はどうでもいいの! お外に不審者がいるの!」


「えっ!?」


 一大事じゃないですか! 呑気に寝てる場合じゃないですよ! 


 窓からお外を見てみると、脳内で警鐘が鳴りました。これが鳴ったということは『看破』スキルが発動したということです。確かに黒ずくめの怪しい男が2人お屋敷の門の前でウロウロとしています。む〜、今の段階ではただ怪しいだけの人なので手は出せませんね……。


「ちょっと見てきます」


「あ、ココも行くの〜!」


 こちらも留守を任された身。お家を守る使命を果たしてみせましょう!



 裏手側から外に出て正面に回ります。うーん、まだいますね……。あ、門を乗り越えてきました! 小走りで玄関の方に向かってきます! お兄様のお屋敷を狙ってくるなんて許せません! 後悔させてやります!


「『フリーズ』」


 玄関前の階段を魔法で凍らせます。


「うわっ!」

「おいっ!?」


 こんなポカポカ陽気の日の足元なんて警戒しているわけもなく、先に走っていた男が1段目でツルンと転びました。


「痛ってぇ……くそっ、なんで凍ってんだ!」

「やっぱりここおかしいぞ。噂通りの幽霊屋敷なんじゃないか?」

「そんなわけあるかよ、実際にガキと女が住んでんだぞ?」

「じゃあこれをどう説明すんだよ……」

「わかんねぇけどよぉ……。たしかここに住んでるガキどもは冒険者だったはずだ。おおかた、今朝方にでも黒魔道士が魔法スキルの練習でもしてたんじゃねぇのか?」


 なるほど、そういう風に解釈しましたか。どうやらこの程度じゃ諦めないみたいです。男たちは今度は転ばないように階段をゆっくりと登っていってドアに手を掛けました。しかしそのドアには鍵が掛かっています。


「『解錠』」


 解錠はシーフの基本的なスキルですが、簡素な鍵ならこれでも開いてしまいます。解錠に抵抗のある魔法錠もありますが、器用さ次第では時間をかければそれも開けられるそうです。1時間以上はかかるそうですが。


「『ディスペル』」


 スキルを打ち消すスキルです。何時間やってもそのドアは開きませんよ。


「あれ? 急に手応えが……」

「どういうことだ?」

「分かんねえ……」

「くそっ、おい変われっ!」


 察しの良い人なら妨害スキルに気がつきそうなものですが、躍起になっているあたり気付いていないみたいですね。


「次ココが行ってくるの〜!」


「あ、ちょっと!」


 ココちゃんがいつものルンルン気分で行ってしまいました。もー、遊んでるわけじゃないんだよ! 


「たしかに手応え感じねぇな……」

「だろ? こんなこと今まであったか?」

「チッ、ガキと女だけの楽な仕事じゃ無かったのかよ」


 男の人たちは解錠に夢中になっていて背後にいるココちゃんの存在に気づいていません。ふわふわ浮いているので足音もしないですからね。というかココちゃん日光大丈夫なのかな、リッチもアンデッド系のモンスターだから例外なく日光に弱いはずなんだけど。


「ねぇおじさんたち何してるの?」


「……!?」

「っ、なんだ子供か……」


 男の人たちは見られたことに一瞬慌てていましたが、露骨に安心した表情を浮かべました。ココちゃんは見た目だけならただの子供ですからね。脅威じゃないと思ったんでしょう。しかしその数秒後には腰を抜かせて情けない声を上げることになりました。


「ちょ、ちょっと待て……」

「あ、あ、あ……浮いてる……! 浮いてる!」


「もう一度だけ言うの。おじさんたち何してるの?」


 ココちゃんの質問に対しての答えは返ってきません。男たちはココちゃんを無視して持っていたカバンから何か瓶のようなものを取り出しました。


「いけない!」


 私の思い違いでなければいいのですが、あれは『聖水』の可能性が高そうです。孤児院にいた頃にシスターさんが持っていたのを見たことがあります。アンデッド系統のモンスターに大ダメージを与えることができる強力なアイテムです。


「お守りで買っといて良かったぜ!」


「きゃぁ!」


 男はそれをココちゃんに向かってまき散らしました。ココちゃんはそれをモロに被ってしまいます。聖水を直で浴びて無事なアンデッドモンスターなんて存在しません。


「ココちゃん! 大丈夫!?」


「もぉ〜! びしょびしょだよー!」


 あれ? 全然大丈夫そうです……。私の早とちり? もしかして聖水じゃなかった? ちょっと鑑定してみましょう。


『聖水』


 正真正銘の聖水でした。あれぇ……?


「馬鹿な……! 教会で買った正真正銘の聖水だぞ!?」

「リッチにだって効果があるってのに!」


 そうですよね。教会に買いにきた冒険者さんがリッチを倒しに行くと言っていたのを聞いたことがあります。なので情報としては間違っていないはずなのですが……。


「ココにそれ効かないよ?」


「え?」


「ココ、ちょっと前までハイリッチってやつだったもん」


 ハイリッチ……? リッチじゃないってことですか? たしかにモンスターには、同じスライムでも『ヘイストスライム』や『ロックスライム』といった亜種や、オークでは『ハイオーク』や『オークジェネラル』と言った格が存在しますが……。流石にAランク相当と称されるリッチよりも上の位があるなんて聞いたことがないです。


「ちょっと待ってココちゃん。今ちょっと前までって言った?」


「うん? うん、ちょっと前までだよ! なんか今はディヴィニティリッチってやつみたい」


 あー、はい。よく分からないです。つまりリッチよりも上にハイリッチがあって、ココちゃんはさらにその上のディヴィニティリッチってやつに進化したってこと?


「「う、うわぁぁぁぁ!!!」」


「あ、逃げたの!」


「逃しません! 『バインド』!」


 ふぅ……不審者2名、無事確保いたしました! 抵抗する気も無さそうですし、騎士団の人を呼んできましょう。




 お掃除を終わらせたらお兄様たちが帰ってきました。


「留守番させてごめんな。何かあったか?」


「いえ、何もなかったですよ」


 泥棒さんたちのことなんて報告するまでもないですね。この程度のことでいちいちお兄様たちのお耳を汚すわけにはいかないです。このくらい自己解決できないと心配をかけてしまいますから、それでお兄様たちが好きなことを出来なくなってしまうのは嫌ですからね。

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