第97話 下級天使
下級天使という職業は気になったが、まずは70階層を攻略したことを報告する方が先だろう。ということで転職は後回しにしてまずはラナたちに報告することにした
「あの70階層をクリアしたんですか!?」
「階層の都合でドロップアイテムとかはないけどな」
ダンジョンの入り口では自分たちがどこまで攻略したのかを記録することが出来る。これはダンジョンに備え付けられている機能らしく、これを見れば誰でも現時点で何階層まで攻略がされているかを知ることが出来る。いつもはめんどくさくてやっていなかったが、さっき俺たちは70階層攻略を記録してから帰ってきたので、ボードには【現時点での最深攻略階層 70階層】と記録されている。
「マジみたいだな。ダンジョン前の広場は一体誰がやったんだって大騒ぎだったぜ」
ライガが確認に行ったところ「あんたがやったのか!」と詰め寄られて大変だったみたいだ。なんでも否定しても信じてもらえなかったそうだ。
「『ダンジョンシーカーズ』のメンバーで今も活動してるのは一握りですからね……。アインさんやシュルドさん、ファルコンさんの存在がどれだけ大きかったか……」
ダンジョンを攻略するという目標を持ったメンバーが集まったとしても、それを率いるリーダーがいなくなれば集団は瓦解する。あるいはリーダーシップを取ろうとするものが現れたとしても、みんなからリーダーとして認められなければ結局その集団はまとまらない。
単純に3人分の戦力が無くなったことよりもリーダーシップを取れるものがいなくなったことの方が大きな損失だったと言えるかもしれない。
「まぁなんにせよ、あんたらが70階層を突破してくれて良かった。こんなに町が活気付いてるのは久しぶりじゃないか?」
窓から外を見てみると、広場には続々と屋台が搬入されていた。どうやら70階層攻略記念の祭りの準備らしい。なんならすでに酒盛りを始めているグループもチラホラと現れた。
「立役者はここにいるんだけどな」
「ここでは攻略が進むといっつもこうなんだ。そういう風習みたいなもんだよ」
まぁ盛り上がってくれるのは別にいいんだけどさ。ただ騒ぎたいだけじゃないのか?
「70階層攻略記念、特別価格。ビール1杯70ゴールド……」
「お前、よく見えるな」
『遠視』スキルの効果で遠くで出ている屋台の文字が見える。多分こんなことのために使うものではない。
「ちょっと! 私たちの功績をだしに使ってるんですけど!」
「おいテンマ! 私たちも飲みに行くぞ!」
いいじゃんそのくらい許してやれよ……。別に1杯70ゴールドでも700ゴールドでも今の俺たちからしたら一緒だろ。51階層のヘビをちょっとしばいてくればそれだけで数百万ゴールドになるんだぞ?
「テンマ、前々から思っていたがお前は金にズボラすぎる」
「うんうん、なんか成金っぽいよ」
あ、思ったよりダメージでかいや……。あんまりケチケチするのも嫌だと思ってじゃぶじゃぶお金を使ってたんだけど、そういうお金に無頓着な姿がいやらしく見えていたのかもしれない。
「よーし今日は大バーゲンだから好きなだけ飲めるぞ〜! 大バーゲンだからなぁ! 今日だけだぞ! 好きに飲んでいいのは」
「そういう露骨なのもどうかと……」
俺はいったいどうすればいいんだ……。難題すぎる。ダンジョン完全制覇するより難しいんじゃないか?
「なんというか、思っていたよりもアホなんだな……」
「あ゛?」
「は?」
「……」
「すんませんでした」
俺のことを馬鹿にされて怒ってくれるのは嬉しいけどお前ら怖ぇよ。スライムくらいだったら睨みつけるだけで殺せるんじゃないか?
屋台を堪能するついでに教会に寄っていく。新しく追加された『下級天使』についての確認だ。転職ボードの基本職の一覧に下級天使という項目が追加されている。
「下級ってことは中級とか上級にもなるってことか」
可能性としては高そうだ。とりあえず下級天使って何が出来るのだろうか。
『下級天使』……天使の力に目覚めたばかりでその潜在能力を活かしきれずにいる。攻撃が全て聖属性になる。聖属性ダメージ20パーセント上昇。回復系、支援系のスキルの効果値が20パーセント上昇。
聖属性攻撃でそれに回復が出来る。これだけだと僧侶系統って感じだな。それに加えて味方の支援が出来て20パーセント効果上乗せか、完全上位互換だな。
まぁステータスボーナスが欲しいからどんな職業でもやるんですけどね。そんなわけで下級天使に転職する。するとすぐさま脳内でアナウンスが流れた。
【スキル『飛行』を習得しました】
まーた人間卒業スキルだ。まぁミーナも天空闊歩を使って空中を二段ジャンプ三段ジャンプってしてるんだから空を飛ぶなんて今更だよな。
「ん? どうかしたのか?」
「いや、なんか『飛行』ってスキルが使えるようになった」
「えぇ〜、もしかしてそれって空を飛べちゃう的な!?」
「とりあえず使ってみてはいかがですか?」
まぁ確かにこういうのは百聞は一見にしかずか。外でどんちゃん騒ぎしてるおかげで教会には他に誰もいないし、とりあえず使ってみよう。
「『飛行』」
「ぇ……」
「なにこれ……」
「なんと……」
スキルを唱えた瞬間、俺の背中に巨大な白い翼がバァッサァァァァッ!!! と勢いよく現れた。流石に予想外過ぎる。どうやってしまうのこれ? と思ったけどスキルを解除したら消えた。
「よし、これは封印だな」
とりあえず見なかったことにして予定通りみんなで屋台を巡る。家で留守番をしているアロエたちのお土産も買ってあげないとな。
「あ、王都焼きがあるよ」
王国に所縁のある食べ物だろうか。それならお土産にもいいかもしれない。屋台に出てくるような料理なのですぐに食べないといけないようなものだが、アイテムボックスなら時間も停止するので好きなだけ持ち帰ることが出来る。モンスターの死骸やらなんやらを含めて色々なものが雑多に入っている空間に保管したものを食べたいかという心理的な問題を排除すればの話だが。うちの女性陣はその辺りは気にしない。
ミーナやフィーは腐っていないと分かりつつも「本当に腐ったりしていないのか?」というところで不安がっていたが、安心と分かるとパクパク食べた。トワとアロエは「腐ってないと書いてあるじゃないですか」と心情面では余裕のクリアだった。ココはあんな見た目だがアンデッドモンスターのリッチなのでそもそも腐ったものを食べても平気らしい。いや食べさせないけどね。
まぁそういうわけなので気兼ねなくアイテムボックスを使える。その王都焼きとやらを購入しようかな。
店主は金型に小麦粉と卵を混ぜたものを流してそこに餡子のようなものを入れて焼いている。あ、たい焼きだこれ! タイの形をしていないから今川焼か? 大判焼き? 回転焼? なんでもいいわ!
6つ購入して2つはアイテムボックスに入れる。異世界のたい焼きの味はどうだ? うん、普通だ。でもそうだな……これなら家でも出来るから色々変わり種のやつを作ったらみんな喜んでくれそうだ。
甘い系なら王道のカスタードやチョコレート、おかず系だとジャーマンポテトとか、材料的にお好み焼きみたいにしちゃっても美味しそうだな。そうだ、鋳型が作れるならたこ焼き機とかも作れるな。それでカステラもいける。おお、鉄板系はなんでも出来そうだ。三徳包丁じゃないけど、なんか色々出来る鉄板を一個持っておくと楽しいかもしれない。こういうのは鍛冶屋に頼んだらやってくれるのかな?
今回はアロエとココには留守番で寂しい思いをさせてしまっているからな。よし、アロエとココが楽しんでくれるような企画を考えておこう。




