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第95話 次元の違い

 俺たちのパーティはアロエがいないので現在4人。ダンジョンでは1パーティは6人までと制限されているためちょうど2人分の枠空いている。ラナは魔法が使えるようにはなったが、これでようやく半分だ。やはりダンジョンでの戦闘中に安定して魔法が使えるようになって完璧にトラウマを克服したと言えるだろう。


「ダンジョンですか……」


 嫌なことを思い出しているのか、表情が強張っている。俺はラナがダンジョンになんて二度と行きたくないと言うのなら連れて行こうとは思わなかった。しかし、ダンジョン自体を憎んでいるとも思えなかった。


 引退して違う街に行った仲間もいたと聞いている。こうしてラナがダンジョン都市であるディメンジョンに残っているのは、ラナの中にダンジョンに対する未練のようなものがあるからだとそう感じた。


 あるいはそれはラナ自身が1番思っていたのかもしれない。ラナはぎゅっと拳を握りしめるとずっと小さく震えていたのが嘘みたいに止まった。


「いつまでもこうしてライガくんに甘えてちゃだめですよね……。私、ダンジョンに行きます!」


 よし。なら早速トラウマ退治と行きますか。


「い、いや俺としてはずっと養ってやっても……」


「はいはい、女の子の一大決心に水を差さない」


 可哀想に。男の子の一大決心は軽く流されてしまった。



 出張ギルドでパーティ登録をする。行き先はまずは安全措置をとって51階だ。


「ダンジョン……」


「ラナ、大丈夫か?」


 覚悟を決めたとしても怖いものは怖いのはまぁそりゃそうか。バンジージャンプで飛ぶ時とか、バク転をする時とか、最初は覚悟を決めても踏み出すのはやはり怖い。意外とやってみたら大したことなくて、実はその恐怖心に打ち勝つのが最大の試練だったりするケースもある。


「もし怖いのでしたら、最初は見ているだけでも構いませんよ」


「「え!?」」


 初めはダンジョンの空気を感じるところから徐々に慣らしていきましょうとトワが提案すると、ライガとラナの2人はあからさまに驚いた顔をした。普通のパーティだと一人一人に役割があるので見てるだけでいいなんてそうはいかないだろうが、まぁ俺たちは普通じゃないからな。


「でも、ヒーラーが……」


「ヒーラーはわたしがやりますので安心してください。まぁもっとも、その必要性もないとは思いますが……」


 51階層のボスであるポイズンサーペントは10メートルほどの大蛇で、状態異常攻撃を頻用してくるためヒーラーは体力だけでなく状態異常にも気を配らなければならない曲者だ。しかしその厄介な戦術とは対象的に体力は低めに設定されているので、猛毒や麻痺などの状態異常対策さえしていれば作戦もクソもないようなゴリ押しでも突破できる。51階層からのボスラッシュの最初に相応しい難易度設定のモンスターだ。


「まぁそういうことだ。2人は見ているだけでいい。トワも2人についていてやれ」


「3人で攻略するってのか!?」


「そんな、私たちが6人で1時間近くかけて倒したモンスターですよ!?」


 少人数での攻略を困難にする1番の要因は与えるダメージが減ることではない。それよりももっと重要なこととしてヘイト管理の難しさがある。普通のパーティの場合だと、騎士や高僧などの盾を持った職業のメンバーが、タンクという敵の攻撃を自分に集める役割をするのだが、少人数の場合だとその管理が難しくなる。基本的にタンクが崩れたら攻略は不可能なので、6人が3人になった場合の攻略難易度は、単純な計算で2倍とはならないということになる。


「私たちは全員が攻撃役で全員がタンク役だからね」


「そんなこと出来るのか!?」


「それは実際に見た方が早いだろう。まぁまずは俺たちの戦いを見ていてくれ」


 まだラナは決心がついていなさそうだったが、とりあえず飛び込めと俺たちは51階層へと転移した。バンジージャンプで足がすくんでいたところの背中を押してやったまでだ。


「ま、ま、まだ心の準備が」


「ラナ、もうボス部屋の中だ。気付かれるぞ」


 ファーストアタックの権利はほとんどの場合冒険者側にある。ここで役立ってくるのがマスターシーフレベル30が習得できる『暗殺』というパッシブスキルだ。これは相手に気付かれていない状態で攻撃をするとダメージが+200パーセントになるというもので、味方がヘイト管理をしてくれていれば自身は『隠密』スキルで隠れて再度200パーセントの倍率の乗った攻撃を仕掛けることができるという優れものだ。それを考慮してライガはラナを窘めたわけだ。


「じゃ、初手はミーナに任せるよん」


「うむ。任せろ」


「ちょっと待て、マスターシーフがファーストアタックを仕掛けないのか?」


 俺たちのパーティの中でマスターシーフは(本当はダークロードなのだが)誰かと言われれば全員がフィーだと思うだろう。しかし、それはただの役職であり、俺たちは全員が『暗殺』スキルを所持しているので別にマスターシーフだからといってファーストアタックをする必要性はない。なので火力役のミーナが先制攻撃をするのは俺たちの中では順当なのだ。


「行くぞ……」


「な、なんですか!?」

「おいおい、まともじゃねぇよ!」


 直径5メートルほどの禍々しい悪魔の拳のようなものがポイズンサーペントの頭上に現れる。いかに10メートルの巨大でもトグロを巻いている状態ならば……


「『天堕』」


 両手を胸の前でパンと合わせると、悪魔の拳はものすごい勢いで急降下しポイズンサーペントを上から叩き潰した。そんなアホなと言わんばかりの轟音と地鳴り、そして悲鳴とも言えるようなポイズンサーペントの叫び声が部屋に響いた。


「これもう瀕死なんじゃねぇか?」


「む、すまん。これでは練習にならんな」


 ほんとだよ。徐々に慣らしていけばいいとは言ったけどこれじゃ戦場の空気を感じる前に終わっちゃうよ。


「もうミーナ1人でいいんじゃないかな」


「そうか。では行ってくる」


 ミーナはアイテムボックスから剣を取り出すと『縮地』と『天空闊歩』を用いて3次元的な攻撃を開始する。いやぁ、空中で進行方向を変える物理法則を無視した動きが変態すぎる。


 ジャンプしながらの切り上げから空中で前転、『天空闊歩』で進行方向を変えて斜め下に急落下切り、ポイズンスパイダーの攻撃を侍のスキル『空蝉』で紙一重でかわして、天空闊歩でポイズンサーペントの胴体をなぞるように切り裂いていく。


「な、なんだあれ……ほんとに人間か?」


 その気持ち分かるわ〜。側から見てるとあんな動きしてたんだな。猛攻を仕掛けているのに危なげなく攻撃を捌いている。1人で攻撃役と盾を持たない避けタンクを実践している。


 ミーナはわずか2分足らずでポイズンサーペントの討伐を完了した。


「も、もう倒しちゃった……たった1人で……」


「強すぎる……。こんなの、俺たちがやってたことなんてただのおままごとじゃねぇか……」


 ラナとライガの2人は呆然としている。どうやら非常にショッキングな映像だったみたいだ。まぁ6人がかりで1時間かけて必死に倒したモンスターがこんなあっけなく完封されたんだからショックも受けるわな。


「これが70階層攻略に求められているレベルだ。言っただろ、2人しか死ななかったのはむしろ運が良かったって。70階層に挑んだメンバーはこのレベルまで達してたか?」


 戦闘力を数値化出来たとしたらおそらく10分の1にも満たないだろうな。そんなパーティで挑んで2人しか死ななかったのはラナが白魔道士としては優秀な部類だったからだろうな。


「さて、久しぶりのダンジョンはどうだった?」


 ラナは恐怖心を克服出来ただろうか。バンジージャンプ実際飛んでみたら意外と怖くなかった! って感じか? 見た感じだとそんな怯えている感じはなさそうだが。


「え、こんなの私の知ってるダンジョンじゃないです……」


 はいじゃあもう一周! 知ってるダンジョンに行こう!


 52階層では今度はフィーが、「そういえば、さっきマスターシーフは火力も耐久もないから攻略メンバーから外されたって言ってたっけ?」とライガに確認すると、『ダークロード』の分身するスキル『シャドウアバター』を使ってモンスターをぼっこぼこのぎったぎたにしてしまった。


 最上級職禁止じゃ! 知ってるダンジョン行くって言っただろ!


「くそー! ミーナに負けたぁ!」


 ポイズンサーペントより時間がかかってしまったとフィーは悔しがる。まぁポイズンサーペントは体力が低めに設定されているから順当だ。


「俺を、弟子にしてください!」


 ライガは戻ってきたフィーに駆け寄ると、頭を地面につけて弟子入りを志願した。30近い男が10歳近く歳の離れた女に土下座している。恥もプライドもかなぐり捨ててまで強くなることを渇望しているんだと、同じ男としてその熱が俺には伝わってきた。


「え、やだけど……」


 でもフィーには伝わらなかった……! 取りつく島もねぇ!


「50階層のマンティコアを1人で倒してからにしろ。あぁ、もちろん今のままじゃ死ぬからちゃんとレベルと職業を考えて戦え」


 まぁ弟子入りなんてされたら俺とフィーの時間が取られるからダメだよね? もうヒントはやるから勝手に強くなってくれ。

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