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第92話 時空魔道士

 『暗黒魔道士』のレベルがカンストした。敵単体に対して短期戦と限定すれば超火力を出せるのでダンジョンの51階層から69階層までのボスモンスターラッシュが美味しい狩場だった。正直もう暗黒魔道士の固有スキル『アルケー』が使えない生活というのが想像出来ない。次の最上級職をやるときは豪快にワンパンといかないだろうからちまちま狩らなきゃダメなんだろうな。


「これで剣神、純白魔道士に続いて暗黒魔道士がカンストだ」


「次は何のレベルを上げるつもりなんだ?」


 ミーナさぁ、ちょっとは余韻に浸らせてくれない? そんなサクサク作業みたいに進めたら楽しくないだろ? 転職ボードの前で何にしようかと悩むのも楽しいんだからさ。


「ん? 『時空魔道士』?」


 前まで無かったはずの職業が新しく追加されている。時空魔道士? 暗黒魔道士の『アルケー』も厨二心に来たけど時空魔道士もヤバいな。うん、これにしよう。


「時空魔道士で決定と」


「はやっ!? もうちょっと悩むとかないの!?」


 ない。俺は時空魔法とやらに興味がある。汎用スキルは……


「『テレポート』……だと……?」



 家に帰ってから俺はみんなにとんでもないスキルが手に入ってしまったと報告した。


「えっと……つまりどういうことですか……?」


「テレポートは自分が知っている場所になら一瞬で移動できるというスキルだ。そうだな……ここから馬車で数日かかる王都にもテレポートなら一瞬で移動できる」


「それは、とんでもないスキルですね……」


 戦闘には全く役に立ちそうにないけどな。ちなみにパーティメンバーも一緒に連れて行けるみたいだ。


「ふむ……それはダンジョンの中とかも行けるのか?」


「あー、やってみるか」


 場所は50階層のダイヤモンドゴーレムの部屋の前とかにするか。移動したい場所の詳しい座標を思い浮かべる。すると脳内でメッセージが流れた。


【ここに飛びますか?】


 どうやらテレポートは飛ぶと表現するらしい。これであとは飛びたいと念じるだけでいいみたいだ。


「じゃあ行くか」


 座標の設定に失敗したら石の中にいるってなるのだろうか。いや、スキルだから失敗するってことはないか。飛びます……と。


 スキルを使った瞬間、目を開けているのに景色が真っ暗になった。しかしそれも一瞬のことで、視力が戻ったら50階層のダイヤモンドゴーレム部屋の前にいた。


「ほんとにダンジョンなのか!?」

「うそ……」


 ミーナやフィーは信じられないといった様子で呆然としている。トワとアロエも似たようなものだった。


「ダンジョンから帰ることもできるんですか?」


「まぁそんな制限とか無かったから大丈夫だと思うぞ」


 次は家の中の情景を思い浮かべる。さっきまで話をしていたリビングが見えてきた。


【ここに飛びますか?】


 うん。問題なく行けそうだ。


「『テレポート』」


 また一瞬だけ視界が真っ暗になった。ぼんやりと視力が戻ってきたと思ったらちゃんとリビングに着いていた。


「ってことはこれで王都にも行けるのか。トワとアロエの里帰りがめちゃくちゃ楽になるな」


 トワもたまには王都が恋しいだろうし、アロエも孤児院には血の繋がっていない弟や妹がいる。俺も孤児院のパトロンとしてもっと顔を出さなきゃと思ってたから移動手段が出来たのは僥倖だな。


「そういえばテンマ、汎用スキルはこれで固有スキルはどうなんだ?」


「固有スキルは……『クロノスタシス』ってスキルだな」


 うーん、名前だけじゃよく分からないな。スキルの効果を見てみるか。


『クロノスタシス』……魔法スキル。対象の相手を一定時間停止させる。停止させる時間は対象の魔法抵抗力に依存する。再使用待機時間10分。


 またヤバそうなスキル来ちゃったよ……。というか時間を停止させるってなんだよ。そんなアダルティなビデオの企画じゃないんだからさ。ちなみにあれは9割は偽物だということを忘れてはいけない。ちょっと機会があったら時間停止してやってみようかな。


「おいテンマ、何か良からぬことを考えていないか?」


「な、なんのことかなぁ」


 くそ、鋭いな。警戒されている相手には効きにくいかもしれない。


「これの効果も検証していいか?」


 いきなり人で試すのは怖いからまずはモンスターにしよう。


 街の外に出ておあつらえ向きな獲物を発見する。今回犠牲になるのはホーンラビットくんだ。ホーンラビットは戦闘力が低く初心者向けのモンスターだが、警戒心が強く危険を察知したらすぐに逃げるという特徴がある。


「よし」


 ホーンラビットは草を食べていてまだ俺たちに気付いていない。あるいはまだ索敵範囲外なのかもしれない。今から実験材料になるとも知らずに呑気なものだ。


「『クロノスタシス』」


「止まった……のか?」


 地味だからよく分からない。草を食う動きは止まったように見えるが。


「『鑑定』」


 ホーンラビット レベル6

 HP 15/15

 状態 時間停止


 お、時間停止になってる。時間停止って状態異常なのか。で、あとは解除されたらどうなるのか知りたいんだけど停止する時間は魔法抵抗力に依存するんだっけ?


 ふむ……。


 …………。


 …………。


 …………。




 全く動かない! あれから10分くらいだったぞ。魔法抵抗力に依存するってもしかしてホーンラビットは魔法抵抗力が0なのか? 


「あ、動いた」


「やっとか」


 再使用待機時間が10分だから時間停止もマックスで10分か? 再び動き出したホーンラビットは何事も無かったかのように草を食べ続けている。


「あの様子だと時間が止まっていたことに気付いていないな」


「じゃあ時間停止状態で斬られたら斬られたことにも気が付かないってこと?」


 そういうことになるのか。ほんとにめちゃくちゃだなこのスキル。とはいえ魔法抵抗力がある相手にどこまで通用するかも知りたいな。


「こういう時は試し撃ちだな」



 そうして再びやってきたのはダンジョン50階層ダイヤモンドゴーレムくんの居城だ。転職するたびにサンドバッグにさせてもらっている。物理、魔法面ともに優秀なのが悪い。


「ちょっと可哀想だとは思っている」


 俺の同情の気持ちが伝わっていないのか、ダイヤモンドゴーレムは俺に向かって腕を振り下ろしてきた。


「『クロノスタシス』」


 振り下ろした腕がビタッと空中で静止する。どうやら成功したみたいだ。とりあえず何もしないでいつ解除されるか検証しよう。


 ……と思ったら10秒後くらいに動き出して腕が地面に叩きつけられた。なるほど解除されたらこうなるのか。


「すぐ解除されちゃいましたね」


 たしかにホーンラビットの10分と比べたら短いかもしれないけど、これでもぶっ壊れスキルであることは間違いない。


「まぁでも戦闘中に10秒も棒立ちしてたら終わりだけどね」


「ですね。これをしている間はまったくの無抵抗になるわけですから」


「ほんとに悪用しないでね!?」


 時間停止能力なんて悪用するためにあるんと思うんだ。フィーは絶対、絶対だよ! と念を押してくるが、それはフリだろうか。


 その日の夜は問答無用で時間停止を試した。ミーナとフィーが45秒、トワが1分だった。それとついでに時間停止中に受けた刺激は解除後に一気に押し寄せるということも発覚した。たった1分とはいえ、それが解除後の1秒に押し寄せるとなればそれだけで単純に60倍ということになる。つまり感度60倍。それはもう大変な乱れ様だった。いやぁ、眼福眼福。


「テンマ様、わたし『純白魔道士』の次は『暗黒魔道士』にすると決めました。なに、1ヶ月もあれば経験値の100万や200万程度すぐですよ」


 あ、やべ……! トワは時空魔道士になって俺にやり返すつもりだ! 魔法抵抗力を高めておかないと。


「では私は『魔弾の射手』にしよう。魔弓術師は対象の魔法抵抗力を下げるデバフスキルが使えるからな」


「じゃあ私は『スーパースター』かなぁ〜。上級職の『アイドル』に対象を魅惑するスキルがあったよね? ね? テンマくん、受けてくれるよね?」


 うん、これあかんやつや。

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