第82話 商人のプライド
しばらく話しているうちにカレンちゃんもだいぶ俺たちに慣れてきてくれたみたいだ。とはいえ、まだちょっとぎこちないというかおどおどしているというか……どことなく緊張している風にも見える。
「なら、俺からもデザート出しちゃおうかな」
せっかくだし俺が最近ハマっている某コーヒーチェーン風のフラッペでも出しちゃおうかな。緊張を取り除くにはやはり甘いものだ。さっきケーキ食べたって? 逆に考えるんだ、ケーキで少し緊張がほぐれたんだから追加で甘いものを食べればいいと。
「も〜、テンマ君〜。太っちゃうじゃん!」
「私たちを太らせてどうするつもりだ!」
一部の女性陣から野次が飛んでくる。別にどうするつもりもないが。それにお前ら痩せてるじゃん。BMI20くらいでしょ。
「みんな痩せてるから少しくらい太っても魅力的なままだって」
「テンマ様、そういう問題ではないのですよ」
「じゃあどういう問題なんだ?」
そもそもみんなの運動量ならスイーツの1つや2つで太ることないだろうし、それに太ったとしても痩せ型から多少痩せ型の体型になるくらいだろう。それのどこが問題なのだろうか、俺は極めて論理的だぞ。
「乙女心ですよ。体型の問題ではなく体重が増えたという事実が問題なんです」
乙女心ねぇ……だめだ、それは俺の苦手分野だ。しかしみんな体重を気にするなら砂糖たっぷりのコーヒーフラッペなんて飲めたものじゃないだろう。
「じゃあアロエとカレンちゃんだけにするか」
「誰も食べないとは言ってないだろう!」
「そーだそーだ!」
このポンコツ二人組め……。とりあえずみんなの分を作ればいいんだな。
俺が最近某コーヒーフラッペにハマっているのはただ美味しいからというのが理由ではない。コーヒー以外にもあるものが手に入ったからだ。それはチョコレートだ。その原料であるカカオが育つ環境はコーヒーと類似している。南方からの交易品でコーヒーだけでなくチョコレートまで入手できたのは僥倖だった。チョコレートがあればカカオがありカカオがあればココアもある。
さて、俺が用意したのは牛乳、コーヒー、クリーム、氷、チョコレート、ココアパウダー、そして砂糖。これらを混ぜあわせればあの大人気メニュー、ダークモカチップなアレが完成する。ククク、初体験のカレンちゃんの反応が楽しみだ。なにせ前世で超が付くほど大成功しているコーヒーチェーンの味だ。不味いわけがないんだよなぁ。
「これがデザートですか……」
カレンちゃんは俺の自信作に少し警戒したような素振りを見せた。一般的にこの世界のデザートと言えば、さっきカレンちゃんから貰ったようなケーキを代表に、果実を使ったパイやただ魔法で果汁を凍らせただけのシャーベットなどだ。なまじコーヒーの知識がある分、カレンちゃんからすればコーヒーなんて苦い飲み物が本当にデザートになるのかと半信半疑になるのは仕方がないだろう。
一気にたくさん飲んだら苦いかもしれないと恐る恐るストローに口をつける。一口、口に含んだ瞬間、カレンちゃんの目がかっと見開いた。驚くほど美味しかったみたいだな。さて、カレンちゃんは一体どんなリアクションを見せてくれるかなぁ。
「アロエちゃんのお兄様! この飲み物のレシピを売って頂けませんか!?」
そうだろう美味いだろう……って、へ? レシピ?
「私にはたいしたお金は動かせませんが、父を説得すればそれなりの額は用意出来ると思います。3000、いえ5000万ゴールド頑張りますのでどうかお願いします……!」
「ご、5000万!?」
到底12歳の子供に用意出来るお金ではないな。家が大きな商会だとしても、妹分の友達とそんな大金のやり取りはしたくない。
「カレンちゃんからお金は受け取れないよ」
「私も見習いとはいえ商人です。どうかお願いします」
頭を下げないでくれえ。お金は受け取れないって言ったけどあげないとは言ってないじゃんか。そういえばたしかアイテムボックスにレシピをメモした紙があったな。とりあえずこれでいいか。
「はい。これ作り方ね」
「え……えぇっ!? だ、ダメですよ! ちゃんと私がお金を用意するまで待ってください!」
どうやらタダでは貰ってくれないみたいだ。まさか怒られるとは思わなかった。これはカレンちゃんの商人としてのプライドだろう。そうだな、こんな小さい子が本気で頭を下げてるのに商人として見てあげなかったのは失礼だった。
「分かった。じゃあ事業が成功したらその時にお金を受け取ろう」
「そ、そんな……そちら側のリスクが増えるだけですよ?」
「この話が飲めないんだったら、俺はレシピを他の商会に売るよ?」
まぁ売らないけどな。だってこうでもしないと大金持ってこようとするでしょ。こんな小ちゃい子がこれで本気で商売したいって思ってんだからやらせてあげたいじゃん。
「ず、ずるいです!」
ならこれを機に覚えておくと良い。大人はずるい生き物なんだよ。
〜〜sideカレン〜〜
お兄さんにスイーツのレシピを頂いた後、アロエちゃんの部屋に案内してもらいました。
「いいんでしょうか……こんなの頂いてしまって」
「お兄様が良いって言ってるからいいと思うよ?」
むぅ……アロエちゃんはこのレシピの価値が分かっていないみたい。帝国のスイーツ文化に革命を起こすかもしれないのに。
「でもこんなタダ同然の出資なんて……子供だからって甘やかされている気がします……。それにこのレシピを他の商会に売ると脅してくるなんて」
「お兄様は優しいから」
「優しすぎますよ」
私が半人前じゃなかったら対等に見てくれたのでしょうか……。でもどうしてでしょうか、悔しいと思う反面嬉しいと思ってる自分がいます。
「アロエちゃんのお兄さん、かっこ良かったなぁ」
「え!? もしかしてカレンちゃんもお兄様のこと好きになっちゃったの!?」
「えっ!?」
別に好きとかそういう話じゃ。そもそもまだ好きとかよく分かんないし。というかアロエちゃん……『も』ってことはアロエちゃんは好きなんだ……。凄いなぁ……。
「あ、アロエちゃんは大人だね……」
「ううん、まだまだ子供だよ。だってお兄様、私に手を出す素振りが全くないんだもん」
「ふぇぇ……!!?」
て、手を出すって!? 手を出すってあれだよね……男の人と女の人がするえっちなことのことだよね……。そ、そんなの早すぎるよ〜! で、でも帝国は12歳から結婚が出来るしこのくらい普通なのかな……。隣の王国も12歳で結婚できるって聞いたことあるし、もしかして私が子供すぎるだけ? こんなので動揺してたら芋女って思われちゃうよ〜。
「ねぇ、どうしたらいいと思う?」
わ、わかんないよー! 男の人と関わったことないもん! で、でもダサい芋女って思われたくないし……。
「き、既成事実を作っちゃうとか!」
「カレンちゃん! 凄い! そうだよね! お兄様の性格を考えたら責任を取ってくれるもんね!」
あぁぁぁぁ!!! ごめんお兄さん!!! 私取り返しがつかないこと言っちゃった気がするううううう!!!




