第75話 サムライ 対人戦の極意
ご飯を食べて満足したのか、団長はアロエに稽古をつけてやると庭に飛び出していった。アロエは騎士団でもアイドル的存在になっているし、なんだかんだ上手くやっているみたいだ。
「アロエは凄いな。どんどんと自分の世界を広げている」
団長との稽古もどこか楽しそうだ。アロエが楽しそうにしているからかサクラ団長も楽しそうにしている。アロエはそんなことは考えていないだろうが、アロエと一緒にいると心理的な安心感があるんだ。
アロエは自分と一緒にいてもこの人は楽しくないのでは? という不安を感じさせない。
「あの子は性格が良いですから。それでいて人一倍努力家で、みんな応援したくなるんですよ」
「努力家なのはトワもだろ?」
というか、みんなもっとサボればいいんだよ? なんでみんな庭に来て鍛錬し始めるの? でもまさかトワまで対人戦を覚えたいだなんて言うとは思わなかったよ。
「ふむ……トワ嬢には居合術が良いかもしれないな」
俺とトワの立ち合いを見ていたサクラ団長がトワにアドバイスをする。
「居合術というと、団長が使われているその技ですか?」
「あぁ。居合の本質は抜き打ちや出会い頭に如何に速く抜いて相手を制圧するか、というところにあるんだが、この速く抜くというところが魔法職のトワと相性がいい」
魔法職の永遠の課題に、接近戦を挑まれた時にどうするか、というものがある。トワはもしもの時のために帯剣をしているのだが、『抜いて、構えて、斬る』という工程を踏むとどうしても対応が遅いことがある。サクラ団長が言うには、居合術のような抜剣・抜刀術は『抜きながら斬る』などして工程を減らすことが可能ということだった。
「なるほど……でも抜きながら斬るのはタイミングが合わないと出来ませんよね?」
「そうだな。だから私の場合は『空蝉』で間合いを調整している」
出た。団長の意味分からない技。本来はただ重心移動無しで1歩分だけ前後左右のどこにでも動ける技だそうだ。ただ、サクラ団長のそれは動きが鋭すぎるが故に残像を作り出す域にまで達しているらしい。
「それはスキルなのか?」
「あぁ、『空蝉』は『サムライ』のスキルだ。私なりのアレンジを加えているがな」
ほーん。スキルをアレンジ。そんなことが可能なのか。というかそれより聞き覚えのない職業が飛び出したんだが?
「『サムライ』?」
「そうか。知らないのも無理はない。サムライは『刀を使って100人に勝つ』と解放される上級職だ」
解放条件が特殊なタイプの職業か。でも刀なんてどこにいけば手に入るんだよ。団長の故郷では刀がメジャーなのかもしれないが、こっちの鍛冶屋では剣やメイスしか売っていない。
「申し訳ないが私もこれ一本しか持っていないからな……」
「じゃあそれが壊れたら不味くないか?」
こっちでは刀を修理できる職人もいないだろう。しかし刀を使わないとサムライという職業の特性を活かせないか。
「その心配はない。この刀には『破壊耐性』のスキルがついているから壊れない」
「破壊耐性スキルなんてあるのか。テンマの天敵だな」
「ん? なぜそこでテンマ殿が?」
「それはね〜」
おいこらミーナ、フィー。確かに俺は絡まれる度に武器や防具を壊してきて『装備壊し』なんて呼ばれてたけど。でもあれは穏便に済ませた結果だからな? 懇切丁寧に説明するな。
「狙って装備を破壊して無力化する技術か……是非うちの連中に教えて頂きたいものだ」
真面目に取り合うなよ……というかそんなことはどうでもいいんだよ。今はサムライについてだ。
「それはまた今度やるとしてだ。刀を使って100勝のことなんだけどさ。それってシステムに刀って認識されれば何でもいいんじゃないか?」
「それはどういうことだ?」
「つまりだな」
俺はアイテムボックスからダンジョンで倒したモンスターの素材を取り出してそれを刀っぽく加工する。これは63層のストゥルムウスの角かな? と言っても湾曲に合わせて研磨するだけだが。
「ほら、これで刀に見えなくもない」
こっちの世界に来た初日にウルフと対峙した時、木の棒を拾ったらスキルを習得できた。つまりただの木の棒でも木剣扱いになったということではないだろうか?
「とりあえず100人相手すれば分かるか」
といってもどこにそんな人がいるかだなぁ。
「おい、辻斬りはやめてくれよ……? 騎士団が出なきゃいけなくなるからな」
しねぇよ、第一辻斬りは対人戦って言えるのか? ってそうだ! ちょうどいい軍団がいるじゃん!
「じゃあ団長、騎士団の連中借りていいか?」
「いいわけあるか! 100人抜きなんかされたら騎士団辞めるやつ出てくるわ!」
ちぇ……なら路地裏に行ってならず者に絡まれてきますか。
結果として自作した刀もどきでも『サムライ』を解放することに成功した。俺の前で制服に着替えた団長が頭を抱えている。
「で、裏の組織を一つ壊滅させてきたというわけか?」
「おお。なんか次々と湧いてきてな」
まず俺に絡んできた3人の男がいた。そのうちの2人を軽く気絶させてやると最後の1人が20人近く仲間を呼んでくれた。10人程度痛めつけたら蜘蛛の子を散らすように去っていってしまったので、そのうちの1人をバレないように追跡して拠点まで案内してもらった。あとはそこで適当に暴れていたら100人抜きが達成していた。
そんなこんなで騎士団に通報して事後処理をお願いしたというわけだ。
「私は役職上テンマ殿に危ないことをするなと叱責をしなければならないんだが?」
「危ない要素なんて無かったぞ? 別に強い人とかいなかったし」
「そこで伸びている男は強盗殺人の罪で指名手配中のA級冒険者崩れだ。【対人戦の極意】持ちで騎士団も手を焼いていたんだがな……」
おお、そんなやつがいたのか……たしかにそんなやつに狙われたら一般人はひとたまりもないかもしれない。他の構成員と大差なかったから気が付かなかった。
「そういえば俺も途中で【対人戦の極意】って称号が手に入ってたな」
「ん!? お前あれ持ってなかったのか!?」
え? 何その反応? 何かおかしいことあったか? そもそも【対人戦の極意】ってなんだ? とりあえずステータスから確認してみよう。
【対人戦の極意】……1000人の相手を打ち負かした証。対人戦の際、全てのステータスが50パーセント上昇する。
なんか凄い称号手に入ってた。そうか、団長がレベルの割にやたら強かったのはこういうカラクリがあったのか。
「これはかなり有益な称号だな。他の奴らにも取らせないと」
「おいおい……これはしばらくは書類と睨めっこだな……」
およそ1週間で帝都を拠点とする20の犯罪シンジケートが壊滅した。俺たちのこの行動が帝国議会を震撼させたらしいのだが、それを俺たちが知ったのはかなり後のことだった。




