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第74話 対人戦

「テンマ……」

「テンマ君……」

「テンマ様……」

「お兄様……」


 違う。俺が言いたかったのはそんないやらしい意味ではない。なぜここまで信用されないのか。


「分かった。それで許していただけると言うのなら」


 お前もなんで抵抗しないんだよ! 俺が言いたいのはそういうことじゃねぇよ! そう聞こえる言い方した俺が悪かったけど。


「ミーナ、この人と戦ってみないか?」


「む、私か!?」


 そう。俺ではミーナに対人戦でしか得られない経験を積ませることが出来ない。フィーは本来は絡め手専門だし、トワも魔法がメインなので不適任だ。あ、俺が相手になれないのはステータスに差が開きすぎているからだ。ある程度のステータス差なら工夫次第だろうが、そんな工夫をしたところで力だけで圧殺出来るくらいには差がある。なのでミーナを成長させるには同じくらいの実力者が必要なのだ。


「貴殿もそうだが、そちらの方もかなりの実力者と見受けられる。そういうことでしたら私も勉強になりますので是非お願いしたい」


 きっと騎士団長も同じレベルの相手に飢えているんだろうな。本性は意外と好戦的なのか、早く戦いたいというオーラが抑えきれていない。


「さぁ、かかってきてくれ」


「む、武器を鞘にしまったままだぞ?」


「大丈夫。これが私の構えだ」


 構えを見るまで気が付かなかったけど、あの腰にぶら下げているのは剣じゃなくて刀だったのか。だったらまだ鞘から抜いていないのも分かる。


「居合か」


「知っているのか。私の故郷の島で使われている抜刀術なんだがな」


 あぁ、名前もその通りなのね。ここで俺がミーナに居合がどういう技かを教えてしまうのは無粋だろう。というかカッコいいな。俺も刀使ってみたいんだけど……ってそんなこと考えてる場合じゃないな。


「では、行くぞ!」


 ミーナが『縮地』で一気に詰め寄る。縮地で一気に近付いて反応する前に倒す。モンスター相手にはそれで充分通用していた。実際、団長は反応した素振りを見せず、ミーナの袈裟斬りは団長の身体に吸い込まれていった。


「『空蝉』」


「なっ……!?」


 しかしミーナの攻撃が当たったと思った瞬間、団長の姿がブレる。ミーナが斬ったのは残像で実体は構えたままの状態で1歩後ろに移動していた。おいマジか、重心の移動とか分からなかったぞ。


 普通たった1歩であっても動こうとすれば何かしらの筋肉に力が入る。縮地のような高速で移動するスキルだって踏み込む軸足に重心が乗る。その予兆がまるで感じられなかった。


「凄い技量だな」


 たった1歩後ろに下がって避けただけだが、その1歩がどれだけミーナに遠く感じるか。1歩下がって間合いから外れたのなら、1歩踏み込めば間合いに入る。それくらい当然ミーナも分かっている。


「くっ……」


 団長は1歩前に踏み込んでミーナの無防備な胴を狙う。これは剣で受けるのは間に合わないだろう。


「『雷鳴一閃』」


「『剛体』」


 上手い。居合術によって神速とも言えるほどに加速された不可避の一撃をミーナは『剛体』で被ダメージを抑えて無理矢理凌ごうとした。自分のダメージは覚悟の上で反撃の逆袈裟斬りを、と思ったら団長の刀はミーナに当たる直前で止められていた。


「む、まだいけたか……これは申し訳ないことをした」


 いやまぁそりゃ寸止めするか。殺し合いじゃないんだし。仮に峰打ちだったとしても大怪我する可能性だってある。真っ当な判断だろう。


「いや、勉強になった。世界は広いな」


 この1合2合でミーナも何か得たものがあったみたいだ。ならこれでひと勝負としても文句は無い。というか、対人戦の技術とか俺も教えて欲しいんだが? 


「もし良ければだが、たまにでいいので騎士団の訓練場に顔を出して欲しい。他の団員にも良い刺激になる」


「おいおい、そんなフラッと行っていいのか?」


「あなた方のような強者なら大歓迎だ。誰か、異論がある者は?」


 団長が団員に問いかけるが誰も声を上げない。同調圧力とか上官命令とかそういう雰囲気ではなく、声を上げないだけで本当は嫌という表情をしている者もいない。ほーん、思ったよりも好意的なんだな。


「団長、むしろ俺がリベンジするまでは来てもらわんと困りますわ」


「ドルフもか。まぁこういう奴もいるんだ。あなた達が来ることで成長出来る奴がいる。考えておいて欲しい」


「分かった。そういうことならお邪魔させてもらうよ」


 まぁ成長云々に関しては俺たちにも言えることだからな。この団長には色々と聞きたいこともあるし、たまに騎士団の訓練にお邪魔するのも悪くないだろう。レベルやステータスだけでは語れない技術がそこにはある。


「では、我々は訓練に戻るよ」


 団長はそういうと団員を引き連れて去っていった。うーん、なんか思わぬところで国の主要人物と接点を持ってしまったな。まぁ敵視されていないならいいか。俺たちを抱え込もうとまではしてないみたいだし、今後ともビジネスライクの関係でいさせてもらおう。



 なんて、そんなことを考えていたのだが。


「美味い! 美味い!」


 何故か後日、この人を自宅に招くことになった。あれは騎士団の訓練場に何度かお邪魔したときのことだ。俺は団長に米を食わせてくれと詰め寄られたのだ。何故知っている? と思ったらなんでもそれをアロエから聞いたそうだ。そこでまたなんでアロエ? と思ったが何でもアロエは休息日など空いている時に個人的に騎士団の訓練にお邪魔していたらしい。アロエさん、あなたいつ休んでるの? 


 まぁそんな経緯があって家に招待して米を食べさせてあげているというわけだ。


「というか、団長くらいにもなれば米とか買えるでしょ」


「金よりもタイミングがな……年に1度あればいい方だぞ?」


 そうだったのか。じゃあ俺はその機会を奪ってしまったんだな。


「まさか帝国でこんな美味い米が食べられるなんて思わなかった」


「団長は島国出身でしたよね? どうして帝国に来ることになったんですか?」


 あ、それは俺も気になってた。というかそんな人が帝国の騎士団長をやっている経歴が謎すぎる。


「島を出たのは5年前。まぁ元々は武者修行の旅だったんだ。初めの2年間は根無草のような生活を続けていて色々な国を回っていた。そんな時にたまたま立ち寄ったここで武闘会が開催されていてな、実力試しにと参加したその大会で私は優勝した」


「うわ、えぐぅ……」


 たしかあの大会は決勝のトーナメントから優勝者を予想する賭けがあったはずだ。ダークホースの優勝だなんて倍率はとんでもないことになってそうだな。


「その時に騎士団の特別顧問をして欲しいと頼まれたんだ。流浪の旅にも飽きてきていたのと路銀が心許なかったこともあって私はこの話を受けることにしたんだ。そして騎士団で新兵訓練や対人戦を教える生活を続けた私は翌年の、つまり去年だな、その武闘会でも優勝し、当時の騎士団長から半ば無理矢理臨時の騎士団長に任命されて今に至るというわけだ」


「その当時の騎士団長はなかなか豪胆な方ですね。まだ若い、それも他国の者に守護の要を任せるなんて」


「とんでもないだろ? 俺も武者修行の旅をしてくると言って出て行ってしまったんだ。第二皇女様は良いと言ってくれているが、それでも私みたいな余所者が騎士団長なんて役職をしているのが気に食わない貴族様もいるみたいだし、出来れば早く返上したいんだが……とはいえそれでも新兵たちを放って行くわけにもいかないし」


 騎士団長も大変なんだな……。前の騎士団長がやったみたいに「じゃあ君よろしく」ってやってもいいはずなのに。まぁ彼女の場合は責任感が強いあまりにそれが出来ないのか。難儀な性格というか、とにかく損をする性格をしていることは分かった。米を愛する同士として多少は手助けをしてあげよう。

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