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第72話 【学者】

 次の日、早速アロエを「ちょっとついてきて欲しいところがある」と半ば騙すような形で学校に連れて行った。ストレートに「学校に行きたいか?」と聞いても我慢して首を縦に振らないだろうというのはみんなの共通認識だった。


「お、お兄様! ここ学校ですよ!?」


 俺が校門を気にせず入っていったのに驚いたのかアロエは立ち止まりながら静止してきた。関係者以外立ち入り禁止なわけでもないのに偉いな。


「いいから早く来な」


 アロエは歩きながらも物珍しさにキョロキョロとしている。ちなみに今は入学希望者の試験会場に向かっているのだが、アロエは周囲を気にしすぎるあまり逆に視野が狭まっていて気が付いていない。入学希望者はこちらってめちゃくちゃ動線が書いてあるのに。


「すみません。この子の試験をお願いしたいんですけど」


 事務課に到着してそうそうに手続きを進める。ここでようやくアロエが自分のことだと気がついた。


「え、私が通うんですか!?」


「そりゃアロエしかいないだろ」


 学校には俺も入学することが出来るので別にアロエしかいないことはないのだが、まぁ俺は所属する気はないからな。ちなみに学校は10歳から入学が可能で、初等部を2年、中等部を2年、高等部を2年経て卒業となるのだが、ここで卒業認定を受けたものは研究院という次の道に進むことが出来る。いわゆる大学のような研究機関なのだが、ここに所属している者は研究の合間を縫って学生教育もする。なのでこの研究院は学校の入学試験よりもさらにランクが上の試験が設けられており、それに合格するのが条件になる。


「はい、入学試験ですね。受験料は10万ゴールドになりますがよろしいですか?」


「はい。あと入学金と学費は?」


「入学金は100万ゴールド、特待生は入学金免除となっています。学費は1年間で100万ゴールドを学年が変わる節目に納付していただく形になっております」


 アロエがそんな大金もったいないのでダメですよ! と言わんばかりの目で俺を見つめてくる。口に出さないのは偉いと思う。まぁそんな目で見られてもやめないけどね。


「じゃあ今日は受験料だけでいいのか」


 10万ゴールドをポンと支払う。しかし平民を広く受け入れていると聞いていたが入学金や学費は安いものではないな。これだと平民と言ってもお金に余裕がある家庭の子しかいないだろう。そうなると価値観が合わずにクラスに馴染めるかが心配だ。


「お兄様!」


「まぁこれも経験だから」


 ずっと俺たちと一緒にいるんじゃ気疲れしてしまうだろうし、アロエは家にいると働こうとするからな。そういう建前で引き取ったとはいえ家事から解放される時間を作ってあげたい。それに教養は大事だからな。と、こうしている間にちゃちゃっと書類にサインしていく。


「はい。テンマさんとアロエちゃんですね。では、入学希望の生徒さんはこちらになります」


「よし、アロエ。頑張ってこいよ」


「そんないきなりですか!? うぅ……落ちてお兄様の名前に泥を塗るわけにもいかないので頑張ってきます……」


 そんなことを気にする必要はないけど本人のやる気に繋がるならあえて言わなくてもいいか。アロエは孤児院で暮らしていたとはいえ、孤児院で下の子供たちに勉強を教えていたくらいなので基礎学力は問題ない。普通にやって不合格ということはないだろう。


「今のうちに入学後に必要なものを揃えておくかな」


 教科書が置いてあったのでパラパラとめくってみる。もしかしてこれ紙か? これだけでも帝国が本気で教育に力を入れているのが分かる。


 初等部の内容を見ると三平方の定理や合同、相似といった馴染み深いものも記載されていた。数学は万国共通ってよく言われるけど、異世界でも通じちゃうの当たり前だけど凄いな。

 ただ、内容を見てみると知らない学問もやっぱり出てくる。職業学なんて聞いたこともない学問もあった。


「各職業のステータスの補正、習得できるスキル、レベル30到達時のボーナスって、まるで攻略本だな……」


 基本職だけとはいえそれがまとめられているのは凄い。おそらく上級職はまだまだ情報求むという状態なのだろう。それでも剣豪の『心眼』やマスターシーフの『隠密』など有名どころのスキルについては記載されている。


「ちょっと待て、『学者』?」


 総論を流し読みしていたので読み飛ばしてしまっていた。基本職の各論を見ていたら俺の知らない職業がでかでかと記載されていた。初期の段階では記載されていない隠し職業(シークレットジョブ)というやつらしい。ある要件を満たすと解放されるというものだ。


「その要件は……ダメだ。解明されていない」


 教員になると3年もすれば転職条件を満たすケースが多いようだが、中には学生であっても転職条件を満たすことがあるらしい。現在研究院に所属している第二皇女も学生うちから解放されていたそうだ。毎年数人は学生でも解放条件を満たしているので教員になること自体が転職条件ではないが、とはいえ数人程度のことなので最終的には教員になることが学者になるための近道だと書かれている。くそっ! 俺に教員になれと言うことか!?


 教員になったとして3年間も待ってられない。アロエが解放してくれたら条件のヒントが分かるかもしれない。頑張れアロエ! いや、違う。アロエには楽しんで学校生活を送って欲しい。そんな学者を解放してくるのが仕事だなんて言えない! あぁぁぁぁでも解放条件も知りたいぃぃぃ。


「そうだ。調査くらいなら任せてもいいんじゃないか?」


 なれとは言わない。けど話くらいなら聞けるんじゃないか?

 入学したら学者の解放条件を満たしている教師と話をすることも出来るだろう。色々な人からどのタイミングで学者が解放されたとかデータを集めれば手がかりが見つかるかもしれない。おぉ、それでいいじゃん。


「入学したらアロエに頼んでみるかな」


 もう試験に合格することは確信しているのでアロエ用に小さいサイズの制服と運動着を購入する。あ、1着じゃ足りないか。予備も考えると3着は買った方がいいだろう。Sサイズが3着ずつと……。


「あとMサイズを1着とLサイズを2着ずつください」


「はい?」


 制服と体操着を3着追加購入しようと思ったら職員さんに怪訝な顔をされた。理由はそんな大きな声では言えない。ミーナたちにコスプレさせてそういう目的で使うだなんて言ったら俺のせいでアロエが不合格になる可能性がある。


「ははは、子供の成長は早いですからね」


「そうですよね〜……」


 じゃあMサイズなんで1着だけなの、とか気になるところはあるだろうけどこれ以上は追求してくるんじゃない。ちゃんとお金は払うんだから。幸い、それ以上は追求されずにすんだ。俺はそれをアイテムボックスにしまう。


「お兄様?」


 あっぶねえぇぇぇ心臓止まるかと思ったあぁぁぁ!!! アロエに見られたら絶対勘付かれてたな。いや、もちろんアロエの前ではそんな如何わしいことしたりしてないよ? でもアロエは俺とミーナたちの関係を知ってるわけだし、そういうことをしてるっていうのは察してると思う。そんなこれから通う学校の制服でコスチュームプレイだなんて嫌な気分になるだろうから知られるわけにはいかない。


「お、おお、アロエ! 試験は終わったのか?」


「はい、自分なりに精一杯やりました。けどすみません。特待生は無理そうです……」


「そうか! まぁ気にするな! 受かればいいんだ受かれば!」


 さ、変にボロを出す前に帰るぞ〜。今日は頑張ったアロエのためにご馳走を用意しような〜。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンマ、過去最大の焦りシーンですねw
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