第61話 快進撃
次の日から俺たちはダンジョンにひたすら潜ることにした。まだみんな51階層なのでそこからボスラッシュを開始する。
51階層から60階層まで各階層5分足らずで突破していく。いや、火力役が3人いるとかなりハイペースで回れるなぁ。
ダンジョンに潜って1時間ほど経ったので休憩にする。この調子で70階層くらいまで行きたいな。
「あ、ちょっと教会に行ってきてもいいですか?」
なんて敬虔な教徒なんだ、なんてことではなくトワは『僧侶』のレベルが30になったからと転職しに行きたいんだそうだ。むしろそれは行かなきゃダメだ。お祈りより大事。
「せっかくだし私も基本職埋めやろうかなぁ」
「ふむ……私もやれるならやったほうがいいと思うのだが……」
え、火力役がいなくなるんだけど……。まさか俺1人にやれと言うことか? うーん、それだと周回速度がかなり落ちそうだけどなぁ。
「ね、おねがい」
「私からも頼む」
「よし分かった」
しゃーない。3人分とはいかなくても2人分くらいは頑張るかぁ!
「テンマ様……いつか悪い女に引っかからないようにしてくださいね」
「だな……」
「うん、女に甘いと言うかチョロいというか……」
なんで!? 俺別に知らない女の人には甘くないよ!? 身内のお願いを叶えるのはいいことじゃん。
「大丈夫です。そうならないようにテンマ様のことはわたし達が未来永劫管r……お支えいたしますので」
なんか物凄く物騒なワードが聞こえた気がするけど言い間違いだよな? トワさんあなたクールな顔してとんでもないこと考えてない?
「なんか、トワがいれば安心な気がするな……」
「うん……むしろ今後はテンマ君にちょっかいかけてくる女の人の方を心配しなきゃいけないかも」
お前らトワのことをなんだと思ってるんだ、って言いたかったけど否定できない。とりあえずやり過ぎるなということだけは定期的に伝えておこう。
職業チェンジして攻略速度は落ちたが特に大きな問題もなく63階層に到着する。ちなみに62階層の攻略を昨日終えたばかりの祝福の鐘は装備メンテナンスをしているため63階層の攻略にはまだ踏み切っていない。なので今俺たちの前を突風を巻き起こしながら飛び回っている飛竜型のモンスターの情報は一切出回っていなかった。
「『ストゥルムウス』ねぇ」
鑑定の結果モンスターの名前が判明した。まるで嵐の化身みたいなモンスターだ。正直空を飛んでいるのがデフォルトになると鬱陶しい。
「『銭投げ』」
多少の遠距離にもなる銭投げで対応する。しかし羽撃たいて起こる風だけでその威力はかなり減衰させているのか全く効いているように見えない。
「どうするテンマ? 作戦を立ててから行くか?」
転移結晶を使って一旦離脱するのはまぁありかもしれない。けどもゴリ押し出来そうな気もしないでもないんだよな。例えばストゥルムウスが攻撃してくるタイミング。ストゥルムウスの周囲の空気の壁が薄くなっているのが分かる。
「いや、戦い方を変える」
相手の攻撃のタイミングでカウンターを合わせる方法も浮かんだが、どうしても待ち時間が生じてしまって効率が悪い。なのでなんとかこちらから攻めていきたいんだが、とりあえず思いついたことを試してみるか。
「『インフェルノ』」
俺が使える中で1番威力の高い火属性魔法だ。その魔法はストゥルムウスに当たる直前で明らかに大きく膨れ上がった。
「効いてる!」
「何が起こったんだ?」
簡単な話だ。厚い空気の壁があるのなら逆にそれを利用してやればいい。魔法は世界の物理法則を無視して生み出されているくせに明確にイメージをして使えば今みたいに物理法則に従う。
「ストゥルムウスに関しては火属性魔法をメインに使ってもいいな」
とはいえ今は魔力の職業補正が無いので火力がそこまでな感じがする。
「それならわたしも加勢できます! 『インフェルノ』!」
同じく黒魔道士レベル30達成済みのトワから支援の攻撃が入る。トワは物理職ではなく魔法職から進めているので魔法関連のステータスはミーナやフィーよりも上だ。これなら案外早く終わるかもしれないな。
「ふれっ! ふれっ! テンマ! ふれっ! ふれっ! とーわ……うぅ、これ恥ずかしいな……」
視界の隅でミーナが恥じらいながら応援してくれている。もっと近くで見せてほしい。ちなみにミーナは別に遊んでいるわけではなく『遊び人』の『応援ダンス』というスキルだ。なので真剣に応援してくれている。効果は対象の全ステータスがほんのちょっと上がるというものなんだけど、俺のステータスはめちゃくちゃ上がった気がする。
「ギャアアアアアアア!!!」
ストゥルムウスが吼える。火属性攻撃がそれほど嫌だったのか、天空から俺に向かって猛スピードで突進してくる。だが、俺の方に来るというのならそれは飛んで火に入る夏の虫というやつだ。
「『次元斬』」
物理攻撃は職業補正がバチバチに効いている。俺の剣は空気の壁を完全に無効化しストゥルムウスの翼を破壊した。
「ひゅ〜、流石だねぇ」
「うむ……惚れ惚れするほど見事な剣技だ」
そんなこと言われてるともっと良いところを見せたくなるだろ。こいつらはなんでこんな俺を煽てるのが上手いんだ?
「ではテンマ様、あの堕ちた駄龍に止めを」
おまけにトワはラストアタックを俺にと恭しく頭を下げている。お前ら俺を気持ちよくさせて何が目的だ? とりあえず何でも言うこと聞いてやるぞ。可哀想だがストゥルムウスは俺が気持ちよくなるための生贄になった。
 




