第53話 徳を積む
フィーの提案でとりあえずトワの髪型を変えることにした。
「どうでしょうか?」
「おお、髪だけでも印象は変わるな」
今までストレートのロングヘアをそのまま下ろしていたのだが、これをオールバックポニーテールにするという大胆な作戦でいった。今までは少女っぽさが残っていたがこうすると美人が際立ちたしかに別人のように見える。
「こんなの小顔じゃないと出来ないよ……」
「美の化身だな……」
「私、同い年なのに……」
これはこれで逆に目立つが変装としてはありだろう。残りの女性陣はみんなして項垂れていたが、この3人も顔面偏差値高めなので側から見たらとんだ茶番だ。
王都に来たのは数ヶ月ぶりなのでまずは現状を把握する必要がある。となると、外で情報収集するべきか……。
「あ、外に行くならなるべく中央通りや大通りを使うようにしてくださいね」
外に行こうと思ったところでリルルちゃんから忠告される。聞けば、最近になって貧困街が出来始めたという。
「市民街に住む人から住民税を取るようになったことが原因です。住居のある者に一律で課される税です」
「一律? はぁ……そんな制度成り立たないに決まってるじゃないですか」
貧しい人からも裕福な人からも同じだけを取るといえば平等ではあるが、貧しい人からすればそれが死活問題になることもある。なのでこうした徴税から逃れるために家を持たない者が集まりスラム街が形成されたそうだ。健康で文化的な最低限度の生活なんて保障されていない。あれは富裕層から死ぬほど集めた富を再分配するから出来るわけで、この富裕層が楽な世界で弱者に生存権なんてあるわけがない。
「そういうこともあって最近だと口減らしに捨てられる孤児も増えているそうです」
可哀想な話だな。というか孤児で思い出したけど教会の孤児院の支援もしなきゃだったな。毎月お金を入れると約束したのに全然出来てないよ。
「とりあえず街の様子を見に行くか」
孤児院はその時に寄ればいいだろう。
後回しにするとまた忘れそうなので最初に孤児院に行くことにした。ミーナとフィーはトワに久しぶりの王都を満喫させてやりたいとトワについて護衛をしてくれている。
「シスターはいるかな?」
「あ、案内します」
孤児院へ行くとシスターさんではなく12歳くらいの女の子が出てきた。あ、この子は前にもいた子だな。たしか変態貴族に買われそうになってた子だ。名前は……忘れたな。
中の様子を見るとそこまで貧困というわけでもなさそうだ。なんとかやりくりしているのだろう。男の子たちがはしゃぎ回っている声が聞こえてくる。
「怪盗エース様の参上だぁぁぁ!!!」
「えっ!?」
一瞬ビクッとしたがどうやら俺のことじゃなかったみたいだ。男の子たちが勇者ごっこならぬ怪盗エースごっこをしていたところだった。君たち、大人しく勇者ごっこにしなさい。
「こら! 怪盗エースごっこはダメっていつも言ってるでしょ!」
先導してくれていた女の子が怪盗エースごっこをしていた男の子たちを叱る。怪盗エースごっこはダメなのか!? 別にそこまで怒らなくてもいいと思うぞ!?
「す、すみません。子供がしたことですのでお目溢ししていただけると……」
「え? そんなに悪いことなの?」
所詮子供のごっこ遊びだろう。怪盗エースを主人公にした芝居だってあるのにそんなめくじらを立てるようなことか?
「い、今は怪盗エースの話をすると衛兵が飛んできます。怪盗エースは国家に仇なす大罪人ということになってますから……」
めくじらを立ててるのは国家でした。まぁ国民からは大喝采だったけど第一王子と第二王子からしたら面白くないもんな。それで怪盗エースを主人公にした芝居や演劇が禁じられていると。この子はちゃんと理解していて偉いな。
「シスター、お客さんです」
「あ! あなたは……!」
シスタークリスティーナには凄いびっくりされた。半年ほど前から姿を見せなくなった支援者の男は彼女の中ではとっくに死んでいたのかもしれない。
「すまん、王都を離れていたんだ。この数ヶ月大丈夫だったか?」
「はい。トワイライト様が支援を継続してくださっているおかげでなんとか」
え? トワの支援継続されてんの? トワが国元を離れてるのに?
「そのあたりは宰相様が上手くやってくれているみたいです」
「そ、そうだったのか」
トワ、ちゃんと引き継ぎしてたのか……。それに比べて俺はなんて行き当たりばったりな、情けなさで涙が出そうだ。
「ですが、最近は孤児も増えて従来の支援金だけではままならなくなってきています……孤児院卒の冒険者の方も支援はしてくれているのですが……」
やっぱり口減らしされた子が行き着く先はここだったか。人数を受け入れているのに支援金が増えないんだからそりゃ回らないわな。
「私が働けたら……」
「アロエ、仮にあなたが働いたとしてもそのお金を孤児院に入れる必要はありません。あなたが稼いだお金はあなたのものです」
とりあえずこの子がアロエという名前であることが分かった。こっちの世界には就労年齢なんて規則はないので誰でも仕事をして給料を貰うことに問題はないが、孤児はなかなか勤労に従事することが出来ないというのが現実だった。
「そうだな。アロエがやるべきことは孤児院にお金を入れることじゃない。いずれは自立することだ。働いて得た給料は貯金して自立するための資金にする。それが孤児院のためだ」
自己犠牲の精神だとか無償の愛だとか、そういう言葉を無条件に美しいと褒めちぎる者もいるが、俺はそれほどくだらないものはないと思う。もちろん全てがそうってわけじゃないが、少なくとも小さい子が必死になって働いた金を取り上げる話に俺は美しい要素はいくら譲歩したところで見出せない。もしこれを手放しに讃美する奴がいたらてめぇが代わりに払えと言いたい。もちろん俺は払う。
「支援をするのは俺たち大人の仕事だ」
孤児が増えたから毎月100万ゴールドとして6ヶ月分だから600万ゴールドくらい? でもここから先毎月来れるかわからないからなぁ。うーん、もう1000万ゴールドくらい渡しちゃうか。
シスタークリスティーナは開いた口が塞がらなくなっている。いや、慣用句ではなく実際に。
「教会にお金があると分かると狼藉を働く人がいるかもしれないから暮らしぶりを大きく変えない方がいい」
コクコクコクと首を縦に振るシスター。本当に分かっているのだろうか。そう思っていたら頭の中でメッセージが流れた。
【称号『小徳』を獲得しました】
ん? なんか称号が手に入ったぞ。レベルアップやモンスターを倒す行為以外で獲得したのはこれが初めてだ。一体どういう称号なのだろうか。
『小徳』:わずかな徳を積んだ者に与えられる称号。聖属性のスキルの効果が10%上昇する。
これって中徳とか大徳とかその上もありそうだな。とりあえず孤児院に来たおかげで大切なことが分かった。
徳は金で買える。




