第51話 落札
俺たちの商品は大々的にアピールしたこともあってこれを本命に来てくれている人が沢山いるみたいだった。オークションの最中、参加者は興味がない品の時には別室でドリンクを飲んだり軽い食事をしたりと休憩することが出来るので、物によっては参加者があまり席に残っていないこともあるのだが、ダイヤモンドのオークションが始まる直前になるとゾロゾロと人が戻ってきて会場の座席は満席になった。
もちろん高額落札になるのが目に見えているためオークションにそもそも参加しない人もいる。けれども、落札額がどうなるかとか誰が落札するかとか、そういう生の駆け引きが見たい人が続々と集まってきた。
そして、商業ギルドはこのダイヤモンドでさらに商売を始めた。ダイヤモンドのオークションでの落札額を予想する富籤を販売したのだ。なのでダイヤモンドの落札額はオークションに来れないような一般人にも注目されている。
ショーケースに入れられたダイヤモンドがバッグヤードから出てくると会場の熱が一気に上がった。カタログの表紙を飾った絵もなかなか上手ではあったが、こうして実際に本物を見るのとでは全然迫力が違う。
「100億ゴールドからスタートです」
スタート価格が100億ゴールドとあまりにも高いのはここから上ではなく下にいくからだ。実はこのダイヤモンド宝石だけは特別にカウントダウンオークションを採用している。ただし、このカウントダウンオークションでは特殊ルールが設けてある。100から下に向かってカウントダウンをするのだが、カウントダウンは10億ゴールド刻みで行われる。90、80、70と数を下げていき、例えば60の時点で入札者が1人なら60億ゴールドで落札とするが、60の時点で2人以上が入札の意思を見せた場合次は70億ゴールドから1億ゴールド刻みでカウントダウンが始まる。このカウントダウンでは最初に入札した者が落札者になるというルールだ。商業ギルドもなるべく高く売ろうと考えた結果だろう。
「数十億ゴールド調達したって言ってたやつが何人かいたよな?」
「そうですね。まぁ言うだけならタダの番外戦術ですので真偽は定かではありませんが」
この手のトラッシュトークはオークションでは常套手段らしい。なので話半分で聞いておくのが正解みたいだ。
「70億ゴールド! 60億ゴールド!」
どんどん価格は下がっていく。流石にまだまだ入札はない。
「50億ゴールド! 40億ゴールド!」
このあたりは事前の情報戦で出てきたくらいの数字だ。なのでここで誰かが動いて即40億ゴールドで落札というのも考えられた。しかし、そんな展開にはならなかった。誰も動かなかったのでカウントダウンは続行される。
「30億ゴールド!」
進行役の宣言に今度は数人が動いた。この時点で最低落札額は30億ゴールドを超えたので俺としては満足だ。
「では、40億ゴールドより再びカウントダウンを始めます」
ここからは1番最初に入札した者が即落札というルールになる。なるべく安く買おうという考えをしていると間違いなく失敗する。
「40億ゴールド! はい、323番の方おめでとうございます!
絶対に購入したいという気概を感じる。カウントダウンの開始と同時に1人が入札してそのまま落札となった。
「テンマ様、やりましたね」
「ああ。正直予想以上だ」
40パーセントは持っていかれるが、それでも24億ゴールドは手元に残る。1億とか2億くらいだと思っているミーナとフィーがどんな顔をするか楽しみだ。
オークションが終了して楽屋に戻ると、ファゴッドさんがホクホクした顔をしながら部屋に入ってきた。
「40億ゴールドで落札おめでとうございます。販売手数料20パーセントの8億ゴールドを商業ギルド、1パーセントの4000万ゴールドを他の出品者にお渡しいたしまして、テンマ様には24億4000万ゴールドをお渡しいたいます」
ギルドカードを出すと『2,440,000,000ゴールド入金されました』とパッと見じゃ分からないレベルのお金が入金された。
「それと、テンマ様にはVIP会員証をお渡しいたします。当ギルドの施設をご利用の際にこの会員証を見せていただければVIP部屋をご利用いただけます」
おお、1日でこんな要人扱いか。まぁ俺がもたらした利益がそれだけ大きいってことか。
「当ギルドではブティック、レストラン、カジノと様々な施設を運営しています。もちろん全ての施設でVIPの方専用の特典がございますので、どうぞお連れ様と一緒にお楽しみください。今後とも商業ギルドをご贔屓にお願いいたします」
なんか凄そうだし貰えるものは貰っておこう。トワはそういう扱いに慣れているだろうけど、ミーナとフィーはあたふたしそうでどこに行っても面白い反応が見られそうだ。
オークション会場から家に戻るとミーナがドヤ顔をしながら仁王立ちしていた。俺たちが帰るのをずっと待っていたのだろうか。
「どうしたんだ?」
「ミーナから報告があるみたいよ」
ここはあえてミーナに話しかけずにフィーに聞く。うーん、この反応を見るに何がなんでもミーナに聞かなきゃダメみたいだ。
「お兄ちゃん! いじわるしちゃだめなの! ミーナお姉ちゃんは30分以上ずっとここで待ってたの!」
「ココ! そういうことを言うんじゃない!」
「?」
ココは言っちゃだめだったの? と首を傾げている。ミーナ、お前30分も仁王立ちして待ってたのか……恥ずかしいやつだな。
「で、何を報告したいんだ?」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれた」
ミーナが再び得意げな顔になる。うーん、ドヤ顔がほどよくうざい。けど可愛いから許しちゃう。しかしミーナがアイテムボックスから取り出した物を見たらドヤ顔がうざいとか可愛いとかそんなことはどうでも良くなった。
「ん!? お前手に持ってるそれはなんだ!?」
ミーナの手に握られていたのは紛うことなき『ダイヤモンド』だった。つい先ほどオークションに出した物とサイズも形も遜色ない。
「単独討伐してきた」
「お前マジか! 何素手で触ってんだ!」
「え!? そっち!?」
フィーから突っ込まれるが何を寝ぼけたこと言ってるんだ、貴重品なんだからもっと丁寧に扱え! ちゃんと布で拭いて綺麗にしろ!
「まぁ冗談は置いといてだ」
「半分くらいは本気でしたよね」
「高価な物だからな。まぁミーナのものだからどう扱っても良いとは思うけど一応な?」
だっていざミーナが売りたいってなった時に状態が悪いからって言われて買い叩かれたら可哀想じゃん?
「ん? これはテンマの物だぞ? 私はこれを渡そうと思って待っていたんだ」
「え? あぁ、そういえばそんな話してたっけ」
ミーナを買った時の購入資金くらいにはなるだろうって話したから頑張って取ってきたのか。
「や、やっぱり足りなかったか?」
むしろミーナを16人ほど購入できるんだけどな。これをタダで受け取るのは流石に良心が痛む。
「じゃあ差額を返そうか」
「いや、これはテンマが何も言わずに受け取ってくれ」
そうか。なら受け取っておいて何か物入りの時にみんなのために使おう。
「でもさ、差額が出るってことは1億5000万ゴールドより高く売れたんだね〜。凄いなぁ」
「あぁ、24億ゴールドだ」
「い゛!?」
あ、ミーナのバカ! 驚いて手を滑らせやがった。俺もまさか落とすとは思ってなかったから24億ゴールドが自由落下していくのを止められなかった。とりあえずダイレクトに床に落ちるのを避けるために足だけは置いておこう。
しかし俺の足にダイヤモンドが当たることは無かった。その前にフィーがダイビングキャッチしたのだ。
「あっぶなぁ……」
「良く反応出来たな」
倒れているところ悪いがそのままダイヤモンドを渡してもらってアイテムボックスにしまう。
「ミーナのことだからもしかしたらって身構えてたんだよね」
「そんな不名誉な信頼嫌だ!」
ショックを受けたみたいだけど実際やらかしたから擁護出来ねぇ。けど頑張ったのは認めてあげないとな。
「まぁでも単独討伐したのは凄いと思うぞ。結構時間かかっただろ?」
「8時間……」
思った以上に頑張っていた。そりゃ報告したい気持ちも分かるわ。俺とトワがイチャイチャしてる中あのゴーレムと向き合ってたって考えるとなんか申し訳ないな。ここは少しでも罪悪感を減らそう。
「とりあえずミーナにはご褒美あげないとな。何か欲しい物とかあるか?」
「え、テンマ」
うーん、物扱い。




