第5話 冒険者ギルド
冒険者ギルドのイメージで荒くれ者の溜まり場のようなものを想像していたが、中に入ってみたら半分正解くらいだった。思っていたよりは荒れていない。筋骨隆々の男共が腕相撲をして騒いでいるくらいでいきなり絡まれるなんてことはないらしい。
受付に並びながら周囲を観察する。
パッとみた感じの男女比は8対2という感じだろうか。円形のテーブルに座って話し合いをしている人も確認出来る。同じパーティとかそういうやつだろうか?
そういえばミーナはあんなところに1人だったけどパーティを組んでいないのか?
俺は当面の間はソロで活動するつもりだ。まずはひたすらスライム狩り、ウルフが一撃で安全に倒せるようになればウルフ狩り、ホーンラビットを見かけたら倒して角と肉を持ち帰る。可能な限りこれで生活する。
「次の方〜」
っと、俺の番が来たみたいだ。
「初めての方ですね。担当いたしますアリサです。よろしくお願いします」
「あ、どうも。これはご丁寧に」
うーん、綺麗な人だな。ふと隣の受付嬢を見るとこの人もやはり顔がいい。アナウンサーのように美人で教養のある女性が採用される職場なのだろうか。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「あー、ギルドカードを作りたい……いや、その前に買取をして欲しいんですけど」
そういえばお金ないんだった。自意識過剰かもしれないけどどちらからでも良いのでは? という視線を感じた気がした。
「ホーンラビットの角ですね。それならば1つ2000ゴールドで買い取らせていただきます」
「あ、あとこの外装もいいですか?」
気に入っていたジャケットだったが、初期資金のために仕方がない。冒険者ギルドで売れることはミーナさんに確認済みだ。
「ちょっと失礼しますね……。このような生地のものは取り扱ったことがないもので。あ、凄いしっかりしてますね……」
アリサさんは一通りジャケットを触るとうーんと唸った。
「申し訳ありません。この品物は相場が不明なのであくまで私の見立てになってしまいます。30000ゴールドでいかがでしょうか。もちろん他の店舗で交渉すればこれよりも高い値をつけるところもあると思われますが……」
30000!? ポリエステルが!? 6000円くらいのジャケットだぞ!? いやまぁ1ゴールドの価値を知らないからなんとも言えないんだけど。
「ちなみになんですけど、宿って1泊いくらくらいするか分かります?」
「宿ですか? この建物の向かいにありますギルドが運営している宿ならば1泊2000ゴールドになります。といっても、本当に寝るためだけの部屋になりますが……」
カプセルホテルのようなものだろうか。けど、15泊できるなら充分じゃないか? 1日1羽ホーンラビットを狩れば角と肉でひとまずの生活は確保できそうだ。
「分かりました。30000ゴールドで外装も売ります」
「かしこまりました。では合わせて32000ゴールドですね。これからギルドカードを作られるのでしたらギルドカードにまとめて入れておきますか?」
ん? 何だその機能は。ギルドカードには電子マネー的なやつが備わってるのか? 現金を持ち歩くよりもその方が良さそうだ。
「じゃあそれでお願いします」
「かしこまりました。では、こちらがギルドカード発行のための書類になりますので、こちらの項目ご記入ください」
なんかクレジットカードを作るときの審査をされているみたいだ。収入とか職業とかの項目はないし名前と年齢を書く項目しかないけど。あ、ありがたいことに項目は全部日本語でした。
「はい、テンマ様ですね。こちらがテンマ様のギルドカードになります。ギルドカードの発行料と差し引きいたしまして、31000ゴールド入金しておきましたのでご確認ください」
そう言って表にも裏にも何も書いていない一枚のカードを渡される。いや、ほんとに何も書いてないんだが?
そう思っていたら表面に文字が浮かびあがって残高31000と表示された。これが魔法か。出来れば最初はこんな実用的なやつではなくもっと厨二心くすぐられるやつが見たかった。いや、これはこれで厨二心に来るけど。
「テンマ様はこれから冒険者として活動をしていかれますか?」
「はい、そのつもりです」
「でしたら、ランクについてご説明しますね。こちらの掲示板をご覧ください」
アリサさんが指し示したのはアリサさんの後ろにあるボード。AからGまでアルファベットが書いてあってその下に紙が貼られている。なるほど、どうやら依頼はランク分けされていて、好きに依頼を受けていいというわけではないらしい。
「依頼は大まかに難易度ごとに振り分けられています。まず登録したてのテンマ様のランクはGになります。依頼は自分のランクか、もしくはそれよりも1つ下の依頼しか受けられないという規則になっています」
「ランクを上げるにはどうすればいいんですか?」
「はい。冒険者は依頼をこなすことで貢献度が貯まります。逆に、依頼が期日までに達成出来ない、依頼者の依頼内容と反した行為が見られた場合には貢献度の減点。悪質な場合には罰金やランクの降格、さらに酷いときにはギルドからの追放、冒険者資格の剥奪もありますのでご注意ください」
どうやら依頼に関することはかなり厳しく取り締まっているみたいだ。まぁ当面はレベリングに勤しむから関係ないけど、本格的に依頼をするようになったらズルはしないようにしよう。
「そういえば、ウルフやスライムの討伐依頼は常にあるってミーナに聞いたんですけど」
「ミーナさんのお知り合いでしたか。はい、常設依頼ですね。こちらはランクに関係なく誰でも受けることが可能です。代わりに貢献度にはなりませんのでご注意ください」
そう言うとアリサさんはスライム討伐の依頼書を取り出す。
「依頼を受注すると、ギルドカードには依頼受注からの討伐数が表示されます。試しにこの依頼を受注してみましょう」
アリサさんに言われるがままに依頼を受けると、ギルドカードに『スライム 0/10』と表示された。
「スライムは10体討伐で100ゴールドになります。20体討伐で200ゴールド、30体なら300ゴールドと超過した分もお支払いしますので、10体倒す度に受注し直す必要はありません」
それはありがたい。なんせこれからはスライム狩りに勤しむんだからな。っと、もしかしたらウルフもワンパンできるようになるかもしれないから先に受注しておこう。
「何か依頼を受けていきますか?」
「あー、とりあえずGランクのやつでウルフとかスライムに関係してるやつがあれば……」
「はい、ございますよ。こちらもスライム10体の討伐になります。常設依頼の内容と被っていますが、問題ありません。この依頼については冒険者ギルドが出しているものなので期日は定められていませんが、素材の納品依頼などでは期日が決められていたり、素材の保存状態などが定められていることもございますので注意してくださいね」
おぉ、そういう面倒くさいのは受けないようにしよう。レベル上げに関係しないからね。みんなそんな面倒な依頼を受けないだろうと思ったが、アリサさん曰く貢献度をたくさん貰えてランク上げにはいいらしい。よく出来ているな。
「ちなみに、Aランクの依頼ってどんなのがあるんです?」
「気になりますか?」
そう言ってアリサさんが適当に一枚紙を取ってくれる。見せてもらえるというのなら拝見させてもらおう。
「レッドドラゴンの鱗の納品依頼ですか……」
さっぱり分からないがドラゴンというからには強いのだろう。
「これって達成されるんですか?」
「多分されないと思います。私がここに勤め始めた頃にはすでにありましたね。これはAランクパーティが数組所属している王都のギルドに出すような案件ですよ。ここみたいな田舎のギルドにはAランクパーティはおろか、たった1組Bランクパーティがあるだけです。もっとも、そのBランクパーティも方向性の違いで先日解散してしまいましたが」
そうなのか……都会ではないだろうとは思っていたけど田舎なのか。ミーナのやつ俺のこと田舎者って言ってたくせに、お前も田舎者じゃねぇか!
「みなさん強くなったら王都に行ってしまわれるんですよ。仕方ないんですけどね」
ふーん、上京みたいなものか……。いつかは王都とやらにも行ってみたいな。まずはレベリングをするから当分は先になるだろうが、ある程度強くなったら色んな街に行くのもいいかもしれない。
そのためにはスライム狩りだ。狩って、狩って狩りまくるぞ。
「じゃ、スライム狩ってきます」
「え、もう夜になりますので門が閉まっちゃいますよ」
異世界攻略初日、見事なまでに俺の出鼻は挫かれた。