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第49話 奴隷プレイ

 今回のオークション会場となったホールのキャパシティは1000人で、映画館のように座席がズラッと並んでいる。ちなみに王国でミーナを買った時のオークションは100人規模だったため参加者だけでいうと10倍だ。まぁ帝都と地方都市(ディメンジョン)で比べるのは酷というものか。


「123番9200! 921番9300! 310番9500がでた!」


 流石にこの人数だと声で競りをするのは難しいので各参加者にはナンバープレートとホワイトボードが配られている。各々がホワイトボードに金額を書いて掲げたのを競売人が読み上げるというものだ。

 ちなみに俺は4番のナンバープレートを受け取っているため結構前の方にいる。これ一番後ろの900番台の後半の座席まで見るのは大変だろうな。そんなふうに心配していたが、なんでも『狩人』の上級職である『弓術師』に『遠視』というスキルがあるらしい。遠くのものがよく見え、隠れステータスである命中力が上がるというものだが、オークショニアはそれを駆使してこの人数を捌いているみたいだ。


「921番1億1000万! 他はいませんか? はい921番の方1億1000万ゴールドで落札です」


「あの絵が1億ゴールドか……」


 今しがたよく分からない1枚の絵が落札された。あの絵で1億? いやまぁ石ころで億が付くのもどうかと思うけどね? 相変わらず金持ちの美的センスは分からん。


「この絵が描かれたのはおそらく100年ほど前ですね。これまでの絵画は肖像画や風景画といった現実を切り取ったものが主流だったのですが、この方の絵画は現実の世界に虚構な要素を取り入れた作風をしています。当時は目に見えたままの姿を描写しないことは絵画の理念に反すると批判されていたそうですよ」


 へぇ、じゃあ後から評価されたみたいなパターンか。だけど世界が変わると評価されるところもやっぱ違うんだな。例えば神話を題材に描いた絵画は前の世界だと当たり前だったけど、言ってしまったらそれは虚構みたいなものだ。時代によってはそれが正道だったとされているんだからこっちの世界の傾向とはまた違う気がする。いや別に前の世界でも写実的なやつで有名なのはいくらでもあるけどね。


 まぁそういう教養とは無縁な俺からすればどっちでも良くね? って感じだけど。


「次の商品はこちら、奴隷装飾品メーカー『ノーブルスレイブ』新作のアイテム、人間用の首輪だ。従来の首輪のような派手な装飾で誤魔化しただけの洗練さに欠けたデザインに終止符を打つ、着用する奴隷にも品性を求めたまさに高貴な奴隷に相応しい一品となっている」


 絵が落札された後はなんかチョーカーみたいなやつが出てきた。なんでもあれは奴隷用の首輪らしい。なんで奴隷の装飾品がそんな高級品になるのかというと、簡単な話「俺は奴隷にも金をかけれるんだぜ」という見栄だ。なので従来の首輪は宝石がじゃらじゃらとついているような品性の無いものが主流だった。


 しかしそこに目をつけたのがこのノーブルスレイブというメーカーだ。貴族の奴隷は男性であれ女性であれ愛玩用だということに着目し、容姿端麗、眉目秀麗で品位のある奴隷が主人のステータスだという企業理念のもとデザイン性に特化した奴隷用装飾品を手がけている。全体的に見ればまだまだスマートさに欠けた装飾品が主流ではあるが、その理念は徐々に浸透していっている。


 そう考えている間にも値段はどんどん上がっていく。ついにはシンプルなデザインのチョーカーの落札額が1000万ゴールドを超えていた。いくら一点物だからってそんな馬鹿な。


「5番1200!」


 ん? 5番? 俺は4番だから隣だ。隣にいるのはトワだ。ふと隣を見てみるとホワイトボードを掲げたトワの姿があった。あれ!? 入札していらっしゃる!?


「5番の方! 1200万ゴールドで落札です!」


 しかも落札しちゃったよ! いや良さげなやつがあったら買っていいとは言ったけども。当たり前だけど俺の魂のツッコミはトワには届かない。


「では行って参ります」


 ちなみに落札者はこの場で代金を支払う必要があるのだが、あれ? 俺トワにお金渡してなくね? お金を渡さないとと思って追いかけた時には購入手続きをつつがなく済ませていた。


「お金持ってたのか」


「これでも元王女ですから。あ、ここで受け取りでいいですか?」


 落札した商品は今受け取らずに後で受け取るのが一般的なのだが、トワは迷わずその場で現物を受け取る。そして何を思ったのかこんな衆目の中で躊躇わずに装着した。


「ちょ……! おま」


 どう見ても奴隷には見えないトワが奴隷用の装飾品を付けるものだから会場がざわついた。その反応を見てトワはしてやったりという顔をしている。


「みんなテンマ様がわたしの主だと思っているみたいですよ。ほら、ご覧ください悔しそうな男性陣の表情を。どうやら私は奴隷になれば相当なステータスになるみたいですね」


「お前なぁ……」


 やだこの子怖い。絶対分かってて言ってるよ。


 貴族に売るための奴隷を取り扱っているような商館では所作や立ち振る舞いの教育もされているのだろうが、しかし彼彼女らは物心つく前からそういった指導をされていたというわけではない。英才教育を受けたトワと比べてしまうと一朝一夕の付け焼き刃に見えてしまうのは仕方がない。


 事情を知らない人からすれば貴族と言われても納得するレベルの美少女だ。一部の男たちからこいつはこんな女を好きに抱いているのかと嫉妬混じりの視線を感じる。


「ふふっ、テンマ様の勝ちですね」


 その視線に何故かトワが優越感に浸っていた。あんまりトワを見せ物にしたくないので次の商品の競売が始まる前に楽屋に連行した。


 ほとぼりが冷めるというか、もう今日はずっと楽屋に引きこもってもいいかもしれないな。俺はこの騒動の原因となった首輪を見やる。まぁ趣味は悪くない。俺の視線に何を勘違いしたのか、トワが妖艶な笑みを浮かべて近づいてきた。


「そういえばこの首輪、ちゃんと鎖を付けるところがあるんですよ。テンマ様、この付属の鎖をここに通していただけますか?」


「あ、あぁ……」


 まさか人間にリードを付ける時が来るとは……これデザインしたやつ変態だけど天才だな……。俺にはそんな相手を奴隷扱いしたいという性的倒錯はない。


「では、このまま奴隷プレイとかいかがですか?」


 そう、断じて俺にそんな性癖はない。断じてないのだが結果だけ見ると奴隷プレイは最高だった。

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