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第47話 商業ギルド

 ダイヤモンドゴーレムからドロップしたダイヤモンドを持って商業ギルドを訪ねる。冒険者ギルドと違って待合は広くない。たむろする人も臨時パーティを募集しているような人もいないのでまぁ当然か。更に受付をした後は個室に移動だった。ここに来る者のほとんどが商談なので当然と言えば当然だ。


 俺とトワは8畳ほどの綺麗な部屋に連れてこられた。ソファとテーブル、あとは観葉植物が部屋の隅に置いてあるだけの簡素な部屋だ。俺たちはちょっと質の良さそうなソファに受付嬢とテーブル越しに向かい合って座る。


「担当のエルザと申します。本日はどういったご用件でしょうか?」


「ギルド主催のオークションに出品したいのですが」


 商業ギルドが定期的にオークションを開催しているというのは帝国で暮らしている間に知った。各商会でもオークションを開催することはあるが、どうしてもギルドが主催するオークションよりこじんまりとなってしまう。また、オークションを開催出来ないような規模の商会にも一攫千金の機会になるのでここぞとばかりに出品が殺到する。


「オークション……ですか」


 受付嬢は俺たちを値踏みするように見る。商業ギルドはオークションで得た売上の一部を手数料として受け取るので下手に安物の商品で枠を潰してしまうのを良しとしない。オークションの時間も限られるので1度の出品は20商品までと決めているのだ。


「失礼ですが、出品なさる品物はお手持ちでしょうか。一度こちらで拝見させていただくのがルールとなっております」


 価値がないものはこの時点で弾かれる。また、美術品などは本人が本物と思ってるだけの偽物というケースもあるため真贋鑑定も必要になる。贋作をオークションにかけたともなれば商業ギルドの評価は地に落ちるので、ここは各部門の専門家を呼んでの対応となるみたいだ。


「これなんですけど」


 俺としても探られて困る腹はないので躊躇せずにダイヤモンドゴーレムからドロップしたダイヤモンドをアイテムボックスから取り出す。


「だ、ダイヤモンド!? それもこんな大きな……!?」


 普段から贅沢品に見慣れている者が目を丸くするあたり相当価値があるんだろう。先ほどの値踏みをするような視線と変わって今度は何者だという目を向けられる。


「もちろん本物ですよ」


 まぁ商人ならばそのくらい見れば分かるとは思うが、一応釘を刺しておく。そもそも調べられても痛い腹もないし、こう言っておけば一応調べるとなった時に後から「ね? 本物って言ったでしょ?」と心理的に優位になる。


「ダイヤモンドはレッドドラゴンの巣から採掘するのが一般的だと思うのですが、あなた方はレッドドラゴンの巣を探索出来るほどの冒険者と懇意であるということですか……」


 この世界でのダイヤモンドは火山に棲息しているレッドドラゴンの巣から取ってくるというのが主で、一攫千金を夢見てそのまま帰らぬ人となる冒険者パーティが毎年のように出るらしい。仮に、レッドドラゴンの巣にたどり着いてもそもそもダイヤモンドが取れないこともある。逆に実力のあるパーティはそんな不確実な物にリスクを追わないため市場にはそこまでダイヤモンドは流通していない。

 なので、見方によっては俺たちが持ってきた物は実力者を雇って隈なく探索させて取らせてきたようにも見える。まぁ違うんだけどね。でもここはにっこりと微笑んで誤魔化しておく。これがダンジョン産だと知られれば安定供給出来るというのがバレてしまう。こういう贅沢品が高価な理由なんて単純明快、それは希少価値が高いからだ。「これは世界最大のダイヤモンド結晶ですよ」という謳い文句か、「あぁ、こんなん安定供給できますよ」という謳い文句かであれば誰だって前者のものを買いたいだろう。商業ギルドとしても前者のキャッチコピーで売りたいだろうから後々になってポンポンと出てきたらギルドの信頼はガタ落ちだ。

 まぁ俺はこの国を滅ぼしたいわけじゃないのでポンポン納品するつもりはないが……。


「それで、わたしたちの出品は認めていただけるのですか?」


「わ、わたくし共もこのような商品を取り扱うのは初めてでして……申し訳ありませんがわたしの裁量の範囲を逸脱しております。ギルドマスターを呼んで参りますので少々お待ち頂いてもよろしいでしょうか」


「分かりました」


 エルザさんは許可をするや否や慌てて出て行った。部屋に残された俺とトワはただ待つだけではない。受付嬢の反応からこのダイヤモンドの価値がどれほどかを予想する。


「トワはどう思う?」


「過去に前例が無いということでしたので……10億ゴールドが最低ラインになると思います」


「10億か……トワが言うならそうなんだろうな」


 過去に同じようなものがあればある程度の価値を頭の中で概算出来るが、空前の物ともなればそれは難しい。トワが知ってる限りでは俺たちが持っているダイヤモンドよりも一回り小さいサイズのものが3億ゴールドで落札されていたそうだ。ミーナとフィーが1000万で驚くものだからかなり抑えて言ってたんだな。本当はドロップした時点で10億ゴールドくらいを元から想定していたのかもしれない。


「テンマ様はこれをなるべく高く売ろうとお考えなのですよね?」


「上手くいくかは分からないけどね」


 作戦なんてそんな大層なものでもない。それなりに売れるだけでも充分すぎるので失敗してもいいし。俺の考えを話そうとしたところで部屋の外に人の気配を感じたので話を切り上げる。まぁトワならば上手くやってくれるだろう。


 ドアのノック音に返事をすると先ほどのエルザさんと一緒にギルドマスターと思われる初老の男が入室してくる。冒険者ギルドのギルドマスターは大抵屈強な男だったりするのだが、商業ギルドはそういうわけではないらしい。そりゃそうか。


「当ギルドのマスターを務めておりますサルバドール・ファゴッドと申します。この度はオークション出品のご検討ありがとうございます」


 この帝都内で商いをしている者は須く商業ギルドに加入している。つまりこの男が帝国の商業を管理していると言っても過言ではない。俺たちみたいな若者にも腰が低いのは客の方が立場が上という商人としての姿勢だろうか。あるいは俺たちがつけあがるかどうかで客として相応しいか篩にかけるためかもしれない。


「ふーむ、そちらが今回出品なさるダイヤモンドですか……少し見させてもらってもよろしいですか?」


「どうぞ」


 それでは失礼して、とファゴッドさんはルーペを手にしてダイヤモンドを見る。「ほほ〜」とか「これはこれは」とか一人で言ってるまでは良かったが、どんどんエスカレートしていって最後には「うぉほぉぉぉ!」とニヤケ面浮かべながら小さく奇声を上げていた。


「失礼。あまりの素晴らしさに興奮してしまいました」


「あ、あぁ……ちゃんと本物だったろ?」


「??? 本物なのは初めから分かっていましたよ? ただ私が見たかっただけですので」


 あ、分かった。こいつやべぇやつだ。この一帯の商人のトップだもんな。そりゃ一癖も二癖もあるわな。


「そうか。満足できたみたいで何よりだ」


 さっきのが衝撃的すぎていつの間にか素で喋っちゃってたよ。隣にいるトワに服の裾を軽く引っ張られるまで気が付かなかった。というか、さっきのアレを見て表情一つ崩れないのは流石はトワだよ。王女様ってすげぇ……。


「では、わたしたちの出品を認めてくださるのですか?」


「はい。ただ、今後5年間は当ギルドが関与するイベントに今回かそれ以上のダイヤモンドは持ち込み不可とさせて頂く、という条件を飲んでいただきたいのです。これは他の商会にも徹底させます。まぁ宝石を出品する際の暗黙のルールと思っていただければよろしいかと。勿論これより小さい物であればいくらでも持ち込んで頂いて構いません」


 5年間の持ち込み禁止か。商会全体を守るためのシステムだと言われれば仕方がないな。


「わかりました。質問なのですが、今回我々が出品するこのダイヤモンドを大々的に広告をするということは可能でしょうか」


「オークションに出品されるものは全てカタログを作るなどして広告は致しますが、それ以上の広告をお求めになると言うことでしょうか」


「そういうことです」


「なるほど……」


 ファゴッドさんは手を顎に当てて思案する。


「あまり1つの商品に肩入れをするというのは他の出品者と不公平になるので難しいですね」


「でしたら広告料をお支払いします。オークションでは落札額の10パーセントを販売手数料として商業ギルドが受け取りますよね?」


 正直なんだこの法外な手数料って思ったけど、ネットで不特定多数がポチポチするだけで参加できるってわけじゃないからな。中小の商会からすればコネクションのない貴族や資産家に対して販売代行してくれると考えたら有難い話だろう。


「その手数料を20パーセント差し上げます。それと他の出品者にも1パーセントずつ配布するという形でどうでしょう」 


「そんなことをしたら利益が……」


 頭の中で算盤を弾いているのだろうか。まぁ仮に広告をしなかった場合の落札額を10億ゴールドとすれば、手数料の1割で俺たちの手元に残るお金は9億ゴールドとなる。さっき俺が出した条件であれば、ギルドに手数料20パーセント。出品者が20名で20パーセントの合計40パーセント。落札額が15億ゴールドを超えると俺の出した条件の方が利益になるのだ。


「たしかにこれならば他の商会も文句は言わないでしょう。しかし、利益が少なくなる可能性もありますよ?」


 広告をしない場合の落札額が20億ゴールドだった場合には30億ゴールドまで伸びないとやるだけ損だからな。まぁでも20億ゴールドまで行くならその時点で最低10億ゴールドって予想よりも上だからいいよ。


「それはご祝儀代だと思ってくれればいいです。俺たちも商会と敵対したいわけではありませんから」


「分かりました。ではその条件でいきましょう。広告の方法については我々にお任せください」


 これはプロであるギルドに一任したほうがいいだろう。購買欲をそそられる広告なんて俺には無理だからな。

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