第46話 50階層の門番
あれから夜は31階層から40階層を高速周回というルーティンができた。もう40階層のボスの『リビングアーマー』は何回倒したか分からない。そのおかげでトワは『黒魔道士』もマスターしてしまった。
41階層から50階層はゴーレム系統のモンスターが登場してきた。トワが黒魔道士をマスターし、フィーも心眼を習得したことでゴーレムシリーズにはみんな打点が出せるようになった。そして到達した50階層だが、50階層のボスモンスターは『ダイヤモンドゴーレム』という5メートルほどの巨体のゴーレムだった。
「今までと雰囲気違うね」
50階層ということもあって少しは厄介な相手を想像していたが、ダイヤモンドゴーレムは思った以上に厄介な能力を持っていた。
「効いてないみたいですね……」
その理由は明白だった。トワが黒魔道士のスキル『盲目』『麻痺」『混乱』といったデバフをかけようとしても全てレジストされてしまう。これはもしかして高物理防御力、高魔法抵抗力、デバフ耐性の三拍子揃った最強ゴーレムか?
「時間がかかりそうだな。一旦出て再チャレンジするか?」
俺、ミーナ、フィーは心眼スキルがあるので打点はあるが、残念なことに俺は今は白魔道士だからそこまで火力が出ない。挑戦するならミーナとフィーに頼ることになる。
「たまには私たちに活躍させてくれないか?」
ミーナは武闘家の上級職である『拳豪』だ。素早さに大きく上昇補正がかかるがそのかわりにそのほかの項目はどれも平凡だ。一部素早さが攻撃力に置き換わるスキルがあるのでそこそこ火力が出る。
「『練気』」
練気は拳豪の専用スキルで5分間全てのステータスが上昇し、更に気功術の威力を2倍にするという効果がある。お手軽な火力強化バフというやつだ。
「『流星拳』!」
「ンゴゴォ!」
大玉転がしの球くらいの大きさの青白く光り輝く気弾がミーナの右ストレートとともに放たれる。それがダイヤモンドゴーレムのでかい図体に命中すると明らかによろめき後退した。
「効いてるな」
「私もやるよ! 『クルーエルスタブ』!」
隠密スキルでダイヤモンドゴーレムの背後にまで回っていたフィーがロングソードで強襲する。クルーエルスタブは不意打ちした時にダメージが3倍になるスキルだ。また、マスターシーフはレベル30になると不意打ちでダメージが3倍になる『暗殺』というボーナススキルが習得できるので実質9倍の火力になる。暗殺者は短刀のイメージがあるので長物だとちょっと格好がつかないが、単純な計算ならミーナの流星拳よりも火力が出るはずだ。
「あれ? 効いてない?」
確実に不意打ちは成功していたというのにダイヤモンドゴーレムは全く身じろぎしなかった。これは明らかにダメージが通っていない。ダイヤモンドゴーレムは小蝿を払うように巨大な腕を振るうと直撃したフィーはとてつもない勢いで飛ばされた。
「フィーお姉様!」
このままでは壁に激突する。そう思ったのかトワが悲痛な声をあげる。けれどフィーにそんな心配は無用であった。
「大丈夫大丈夫!」
激突する直前に身体をくるっと宙返りして器用に壁に着地する。そうして壁に足をつけたと思ったら今度は前に宙返りしてようやくまともな地面に着地した。
「器用なもんだな」
「まぁこのくらいはね。けどなんで私の攻撃は通らなかったんだろ」
ただ、ダイヤモンドゴーレムと聞いて俺には一つ思いついたことがあった。
「もしかすると打撃に弱いんじゃないか?」
ミーナの流星拳は一応打撃の攻撃、フィーは斬撃の攻撃と物理攻撃でも種類が分けられる。俺の知ってるダイヤモンドはモース硬度が10とたしかに硬いのだが、これはあくまで引っかきに対しての強度であって実際はハンマーで叩くと簡単に砕けるのだ。まぁ何が言いたいかと言うと斬撃には強いけど打撃には弱いんじゃね? というのが俺の考察だ。
「なるほど、そんなカラクリがあったのか」
ちなみに融点や沸点は金や銀の3倍以上だ。流石は共有結合の塊。これまで出てきたゴーレムは剣豪だったり黒魔道士の『メガファイヤー』で攻略できたのに急にどちらも効かなくなるなんていやらしすぎる。流石は50階層の門番だ。
俺が思うに、50階層は複数職業マスターしてるのは当然だよね? って言外に教えてくれているんだと思う。王都のダンジョンにいたマンティコアはステータスが高いだけなのでまだマシだ。毒攻撃も使ってくるが基本的に白魔道士が1人いればなんとかなる。基本に忠実なパーティで対応出来る分ダイヤモンドゴーレムほどの苦戦はしないだろう。たださっきも言ったがステータスは高いのでAランクの冒険者6人でも1時間以上かかるみたいだが……。
それが俺みたいに複数の職業をマスターしていると1人でも難なく倒せるようになる。俺の場合は銭投げという金を消費するやり方だったが、時間をかければ普通に倒すことも出来ただろう。それに今は剣豪のレベルが30になっていることで『ボスモンスター特攻』というボーナスが貰えているので、同じやり方でも前よりも早く倒すことが出来る。
おそらくこのダイヤモンドゴーレムもなんらかの複数の職業をマスターすると簡単に倒せるようになっているんだろうな。『心眼』のため『剣豪』、打撃のため『拳豪』あたりはマストか。メイスやハンマーで闘う『プリースト』も候補になるな。時間をかけていいならこの2つをマスターしていれば理論的には倒せるということになる。まぁあとは安全性を高めるために『剛体』スキルを取っておくとか回復手段を持っておくとかそういう話だろう。
「お前らこれ1人で倒せるかなぁ……」
「これを1人で倒せというのか!?」
まぁ無理ならディメンジョンでマンティコアをバトルマスター銭投げ戦法を使えばいいか。1000万ゴールドもあれば倒せるから黒字だ。みんながこの戦法を取るようになるとマンティコアが市場に溢れて赤字になるんだろうけどな。
「とりあえずみんなでこいつを倒そう」
打撃メインで戦って20分くらいしてようやくダイヤモンドゴーレムの活動が停止した。
「き、強敵だったな……」
「うん……久しぶりにこんなに長時間戦闘したね……」
ミーナとフィーの2人は倒したことの喜びよりも疲労感の方が大きいらしい。まぁ2人はメイン火力役だったからな。トワもみんなの回復役で頑張ってくれた。あとでみんなを労わなきゃな。
「さてテンマ、ドロップアイテムを確認しよう」
「そうだな」
ここまでに遭遇したゴーレムは『アイアンゴーレム』だったら鉄、『カッパーゴーレム』ならば銅、『ミスリルゴーレム』ならミスリルとドロップするアイテムが名前に入っていた。ってことはだ……。
「これってダイヤモンドですか……!?」
そこにはぱっと見では何カラットか分からないような大きさの輝く石が落ちていた。いやまぁそうは言っても川辺に落ちてる程度のサイズなので、あんな巨体からなんでこれっぽっちしかドロップしないんだよと言いたい。けどダイヤモンドだもんなぁ。
「ダイヤモンドが高いってのは知ってるけどさ、私たちの生活に無縁すぎてどれだけ高いのかってわからないよね〜」
フィーは私は宝石なんて買わないからさ〜、とケラケラと笑っている。お前マジか? ダイヤモンドだぞ?
「私もそういう装飾品とは無縁だったな。こういうキラキラしたのは貴族が買うイメージだが……いくらくらいなんだ?」
「もしかして2人とも1000万ゴールドとかその程度だと思ってる?」
どうやら冒険者組は宝石の価値が分かっていないみたいだ。とりあえずマンティコアの死体よりは余裕で高いだろうな。
「1000万!?」
「こんなキラキラしただけの石が!?」
1000万でも驚くの!? 絶対そんな程度じゃ済まないって。
「貴族はプライドや見栄にはいくらでもお金を払いますからね。このサイズなら軽く1億は超えますよ」
だよな。こういう宝石って金持ち連中のステータスだもんな。大きければ大きいほど指数関数的に金額も伸びるし。
「お、お、おお、お、おく?」
あ、ミーナが壊れた。おく? おく? と繰り返すbotになってしまった。しばらくこのままにしておこう。
「1億ゴールドあったら何が出来るかなぁ……毎日お肉が食べられるなぁ」
フィーはなんだか子供みたいなこと考えていた。お肉くらいいっぱい食わせてやるから。あぁ、そういえば1億で思い出した。
「ミーナ、この石はミーナと同じ値段ということだな」
どうでも良すぎて忘れてたけど俺がミーナを落札した金額がたしか1億5000万ゴールドだったはずだ。俺は気にして無いけどミーナは若干気にしてる節があったからな。
俺が言ったことの意味はちゃんと伝わったみたいで、ミーナは放心している場合じゃないとハッと我に返った。
「今度私の力だけで取ってくる」
ミーナならば時間をかければソロでもいけるだろう。フィーも拳豪になればいけるだろうが、ぶっちゃけマンティコアを倒す方が楽だ。きっとトワにもマンティコアを推奨する。
「とりあえず誰かこれ欲しい人いる?」
「「「…………」」」
これが俺の仲間クオリティ。ダイヤモンド人気ねぇな。
「よし、売るか」
「でしたらオークションに出品するのがよろしいかと。販売手数料が取られるとは思いますが、それでも普通に売却するよりは高く売れると思われます」
「ならばどこかの商会に交渉だな。少なくとも1億5000万にはなってもらわんとな」
「ダンジョン産ってバレないようにしないとね。私たちが安定供給出来るってなったら価値が落ちちゃうよね?」
こいつら売るって言った途端饒舌になるじゃん。売る気満々かよ。しかもなるべく高く売れるように考えてるし。
「あー、じゃあトワと売りに行くわ」
「がーん」
口で言うんかい。いや何でって顔されても……だってお前ら2人とも冒険者丸出しじゃん。腹芸とか出来ないんだから待ってような。




