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第44話 剣神

 帝国のダンジョンの入り口は帝都内にあるため立地は良い。お金を稼ぎにくいせいで全く人気がないので入口周囲でパーティ募集などしている人を数えるのに片手で事足りる。しかし『剣豪』や『白魔道士』にとっては割と良い狩場なので、このメンバーだけで編成している変則パーティがいくつかあった。


 ちなみに帝都で金属製の武具が安価なのはゴーレムが良質な金属をドロップするためである。ちなみにゴーレムにも『アイアンゴーレム』『カッパーゴーレム』『シルバーゴーレム』『ミスリルゴーレム』……etcと色々な種類がいて、共通して物理防御力が高いという特徴がある。


「ミーナは『占い師』のレベル上げか」


「あぁ、ココットのおかげで精神力も大切だと分かったからな」


 ミーナは状態異常に強くなるべく占い師のレベルを30にする算段みたいだ。まぁ基本職はステータスのボーナスが貰えるのでメリットしかない。


「フィーはどうする?」


「私はせっかくだし剣豪にしようかな。『心眼』のレベル1くらい取っといても良さそうだし」


 剣豪はレベル10になると『心眼』という敵の防御力を一部無視できるスキルが手に入るため、ゴーレムのように防御力を武器にしているモンスターはいいサンドバッグになる。ちなみにゴーストやレイスのような物理攻撃無効のモンスターに対してはダメージが与えられない。心眼にもスキルレベルがあって、剣豪レベル10で習得できるのは当たり前だが心眼レベル1だ。剣豪のレベルが20になると心眼レベル2、剣豪レベル30になると心眼レベル3になる。効果の違いとしては、心眼レベル1は敵防御力30%カット、レベル2で50%カット、レベル3で100%カットだ。防御力の高い相手に攻撃が通らず詰むという事態を防ぐだけならレベル1でも問題無い。


「よし、じゃあ今日は30階から進んでみるか」


 正確には30階はボス部屋だから31階だけど。でも転移魔法陣はボス部屋のすぐ奥にあるから30階だ。つまり30.5階? 人と話す分には31階というより30階と言った方が語感が良い。


 31階層に転移すると、挨拶がわりに空を浮遊する黒い影がいきなり襲いかかってきた。


「レイスか」


 レイスは霊体と実体を使い分けるモンスターで、霊体時には物理攻撃無効の特性を持っている霊型アンデッドだ。ちなみにレイスよりも上位の霊型アンデッド、ココットのようなリッチや、グリム・リーパーと呼ばれるような上位アンデッドも霊体と実体を使い分ける能力を持っている。これらもアンデッドなので例に漏れず回復魔法や聖属性を弱点としている。


「『エリアヒール』」


 白魔道士レベル15で習得できるスキル『エリアヒール』は一定領域内にいる全てを対象に体力を徐々に回復するという効果がある。この領域の広さは魔力に依存するのでレベルが上がるほどアンデッド狩りが捗るようになる。


「トワのレベルもだいぶ上がったな」


「はい。つい先程レベル50になりました」


 ステータスだけならばそこら辺にいるBランク冒険者と遜色ない。1ヶ月良く頑張ったと思う。


「私たちが冒険者時代にいかにサボっていたかが分かるな……」


 トワはミーナ達が5年かかった道のりをわずか3ヶ月で踏破している。ミーナ達がサボっていたというわけではない。冒険者はランクが上がるとレベルが上がりにくい仕組みになっている。

 まず、討伐系は大型のモンスター1頭の討伐などといった単独の依頼だったり、あるいは商隊やキャラバンの護衛任務などといったそもそも戦闘の機会に乏しい依頼で数日から数週間潰れることもある。数回の依頼で1レベル上がれば良い方だろう。


 とはいえ、稼ぐのが目的ならばレベル上げが必要ないというのも確かだ。BランクやCランクの依頼でも1回達成するだけで2ヶ月以上贅沢ができる程度の報酬のものもある。俺がレベル上げに専念していた時は1日に10時間以上スライムを倒して手に入れたのが15000ゴールド程度だった。


 まともな宿、まともな食事、まともな人間らしい生活を送ると少しの貯金が出来る程度の収益。贅沢なんて出来やしない。また、贅の限りを尽くしたいような者がわざわざレベルを上げて文字通り命懸けの冒険なんてしない。


「いや〜、それでも私たちは勤勉な方だったよ? そりゃ未解放領域の探索依頼とかはやってないけどさ」


 例えば帝国南方にはスカーレット山脈という未解放領域があるのだが、そこは冒険者ギルドが立ち入ることすら禁止している。かつてはAランク冒険者に探索依頼などを出すこともあったが、死にゆく者があとを絶たないためそれも廃止された。触らぬ神に祟りなしというやつだ。


「未解放領域……今のお姉様たちなら踏破できるのではないですか?」


「おいおい、伝説にでもする気か?」


「そうだよ〜。それに前人未到の秘境とかそんなロマンに命は懸けられないかなぁ」


 スカーレット山脈はAランクモンスターが跋扈する未解放領域。まぁそんなところにわざわざ出向く必要もないわな。そこでレベル上げしたら捗りそうだけど。


「お前……まさかレベル上げに良さそうとか思ってないだろうな……」


 なぜバレたし。とはいえだ、レベルが上がりにくくなったのも確かなんだ。ちなみに今のステータスはこんな感じだ。


 テンマ(18):レベル323

 体力:2690

 攻撃:2865

 防御:2348

 魔力:1214

 器用さ:1351

 精神力:1135

 素早さ:1853

 職業:『剣神』レベル1

 レベル324までの経験値293572 

 剣神レベル2までの職業経験値100000


 レベルを1上げるだけでも大変だ。なんせダンジョンでボスモンスターを倒しても貰える経験値は数百から数千だ。ダンジョンボス級のモンスターがわんさかいるスカーレット山脈は良い狩場かもしれない。でも今の幸せを失うリスクを背負ってまでレベル上げをする気はないかな。今はみんなが強くなってくれる方が嬉しい。


「ちょっと俺も試し切りしようかな」


 相手は物理攻撃無効状態のレイス。スキルの効果を見てみると、これは試してみる価値がありそうだ。というわけでさっそく剣神になって得たスキル『次元斬』を使ってみる。


「『次元斬』」


 俺の感覚としてはただ剣を振っただけなのだが、斬った空間が陽炎のように揺らめきだした。そして、レイスが一瞬だけ虚空から姿を見せたかと思うと、その命はすでに尽きていて雲散霧消していった。


「い、今のは……?」


「まさか、物理攻撃無効を無効化したの……!?」


 これが世界の理すらも超越するというその力の一端ということだろう。


「『次元斬』はその物体を斬るのではなく空間を斬る。そこに介在する全ての事象が攻撃対象になる」


 でもこれめちゃくちゃ地味だな。剣を極めれば極めるほど小手先のテクニックではなくただの振り下ろしに辿り着くみたいなやつだろうか。


「私も剣豪レベル30……ってことは私も『剣神』になれば今のが出来るようになるということか……?」


「そうだな。ダンジョン50階層をソロで踏破するのと、隠し条件でレベルが300必要みたいだ」


「レベル300……!?」


「私たちも強くなったとはいえまだまだだな」


 俺がマンティコアをソロで倒した時のレベルがたしか200とかそのくらいだったと思う。ダンジョンの31階から40階を1日に10周以上した結果だ。ちょうど今いる階層と同じだな。そういえば40階層のボスの『ライトニングタイガー』の値崩れは直ったのだろうか。


「よし、剣神はなんとなく分かったし他の上級職のレベル上げ優先しようかな」


「ブレないなお前は……」


 ちょっと次のレベルまで途方もなさすぎるからね。それなら次は他の上級職をマスターしていって他の最上級職を解放していきたい。他の最上級職もステータスを上げる系の能力をもってるのだろうか。他の職業に転職しても持続するのがバカ強い。


「まぁでもまずはお前らのレベル上げだな」


 ミーナとフィーはレベル300が当面の目標か。みんなでダンジョンをのんびり周回していれば数ヶ月もあればいけるだろう。その間トワはレベル上げを並行しつつ『戦士』『僧侶』『武闘家』『商人』『遊び人』とその上級職を何個かって感じか。うーん、みんな目標があっていいなぁ。

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