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第41話 クラン

「この辺りは王国よりも鉄製の武具が安いな」


「鉄鋼業が栄えていますから。同じ値段なら間違いなく帝国の方が高品質のものを購入出来ると思いますよ」


 今俺たちがいるのは王国ではなく帝国の冒険者ギルドだ。馬車で街道を南下し、王国から脱出した俺たちはサザーランド帝国領に足を踏み入れていた。


 トワを連れてミーナ達と合流した時点で俺たちにはいくつかの選択肢があった。

 1つは東、俺が最初に降り立ったアルフの町から東に数時間の位置にビオポートという港町がある。そこから国外脱出も考えたのだが、海の向こうの情報は乏しく、また海上での安全確保が確実とは言えないためこれは見送った。

 2つ目の選択肢は王国内でアルフなどのどこかの町に潜伏するというもの。仮にトワが指名手配されていたとしても写真も通信機器も無いこの世界ならば問題なく潜伏は可能だと思われる。ただこの方法だと上級職に転職できないというデメリットがあった。トワは元より、俺たちもまだまだ職業レベルを上げる必要があるためこれも見送った。

 これらの条件をクリア出来るのがサザーランド帝国だったというわけだ。


「なるほど。しかし帝国といっても冒険者ギルドもあれば言葉も通じる、これと言った不便はないな」


 隣国ということもあって建築様式や食生活といった文化も似ている。ありがたいことに冒険者ギルドのシステムも同じなので、Aランク冒険者として活動することが出来た。ちなみに王国よりも帝国の方が冒険者のレベルが高い。というのも、帝都を更に南下したところには峻険な山脈が東西に走っているのだが、そこは山腹辺りからAランク相当のモンスターが目撃されるという魔の山脈だそうだ。麓ではBランクのモンスターのスタンピードが発生することもあり、それに対処する冒険者は必然的に高レベルになるというわけだ。それ故に良くも悪くも実力主義が蔓延っている。


 トワのレベル上げを考えるとEランク辺りが効率が良さそうだったので俺たちはEランクの依頼を掲示板で吟味する。

 自分のランクよりも2つ以上下の依頼を受けるのはルールに反するが、トワのランクが最低のFなのでそれに付き添ってなら参加が可能だ。


「いや、お前らまで付き添う必要はないからな?」


「「え?」」


 ついてくるつもりだったのか……。Eランクの依頼にAランクが3人もいたら過剰戦力なんてもんじゃないだろ。


「お、可愛い子はっけーん。ねぇねぇ俺たちとパーティ組まね?」

「近くで見るとやべぇ美人じゃん」

「ちょうど3対3だし、これって運命的な?」


 そういえばここがこういうところだっていうのを忘れてだわ。やっぱり男1女3のパーティというのが目立つのだろうか。Eランクの若造が美人を侍らせてるように見えるもんな。でもなんで俺ばっかりこういう目に遭うんだ。


「めんどくせぇなぁ……」


「お前はこういうのに絡まれるのが趣味なのか?」


 趣味なわけあるか。というか毎回絡まれるのはだいたいお前らのせいなんだが?


「あー、悪いこと言わないからさっさと消えた方がいいよ。あんたらそんなに強くなさそうだし」


「うぇ〜い言われてんよ〜俺たち」

「俺たちAランク冒険者よ」

「てっぺんなわけ。なんでも教えちゃうよ」


「Aランクねぇ……」


 初めて会った時のミーナやフィーはBランクだったが、それでもこいつらより隙が無かったように思える。あぁ、Aランクという地位のせいで自分が無敵だと勘違いしているのか。


「そんなわけで男はいらね〜!」


 そう言うと男はいきなり殴りかかってきた。しかしこうなる可能性を考えていた俺は拳を振り上げた時点で『銭投げ』を発動。親指で弾いたコインに反応できなかった男は7メートルほど吹き飛んで受身も取らずに壁に衝突した。銭投げで防具が全損している。


「やりすぎたか?」 


 まさか全く反応出来ないとは思わなかった。Aランク冒険者って言うから結構ガチ目にやっちゃったよ。死んでないよな、流石に殺すのはまずいと思うから生きててくれ。


「いい勉強になったのではないですか?」


「うむ。調子に乗ると痛い目を見ると分かっただろう? それともお前ら2人で仲間の仇討ちでもするか?」


「私らはそれでも全然いいけどね〜」


 あかん、うちの女子が好戦的すぎる。とはいえ今後こういうのに絡まれないために力を示しておくというのはありかもしれない。なのでやるならやるで一向に構わなかったが、先ほどの一撃で男たちの戦意は完全に喪失したみたいだった。


「いややばいでしょって話だよね!」

「ちょ、マジパネーション! さっさと逃げんべ!」


 まぁAランク冒険者を追い払ったという実績が広まれば俺たちにちょっかいをかけるやつもいなくなるだろう。しかし新しい街に行くたびにこうなるというのは面倒だな。何か絡まれない方法があればいいんだが……。


「いやぁ〜あの3人を実力でねじ伏せるなんて凄いね。どう? 君たちうちのクランに入らない?」


 先ほどの惨状を見てなお俺たちに話かける者がいた。その男は有名人なのか、俺たちが勧誘されると先ほどの騒動から日和見を決めていた野次馬たちがどよめいた。


「あぁ、最近来たばっかで僕のことも分からないか。僕はクロード。『月と太陽』というクランのリーダーをしているんだけど……聞いたことないかな?」


 クランというのは同じ目的を持つ冒険者同士の寄合のようなものだ。依頼を受ける時にクランのメンバーに声をかければ誰かが来てくれるという互助組織としての使い方も出来る。この月と太陽というクランは帝都の中でも腕利きが集まったクランらしい。


「今僕たちのクランはAランクが15人、Bランクが23人、そしてCランクが12人と実力者が集まっているんだ。騎士、白魔術師、マスターシーフみたいなサポート職も優秀なのが集まってるから満足できると思うよ」


 ほお、そりゃ一目置かれるわけだ。たしかに実力派のクランに入れば絡んでくる連中も減るかもしれないな。けどこういう組織に組み込まれれば他人のペースに合わせる必要が出てくる。時にはみんなと別々に行動することになる可能性もあるだろう。そんな環境じゃトワのレベル上げなんて言ってられないしクランに入るという選択肢はないな。


「悪いがやりたいことがある」


「そうか。じゃ気が変わったら月と太陽のクランハウスに来てくれ」


 おぉ、もっとしつこく勧誘してくるかと思ったけどすんなりと引いたな。大手だと人の目や評判も気にしなくちゃいけないから当然か。辺りにいた連中からあいつら帝都一のクランの勧誘を断りやがったみたいな声が聞こえてくるけどそんなにおかしいのだろうか。集団行動したくないじゃん? 


「でもクランか……ありだな」


 月と太陽のようなクランに所属すると組織のしがらみが発生してしまう。しかしそんな制限がかからない方法もある。それは俺たちだけのクランを作ってしまうことだ。それも月と太陽のような人に舐められないクランだ。


「よし、クラン作るか」


「またお前は突拍子もないことを……」


 ミーナに呆れた顔で言われたと思ったら2人も言わないだけで表情は似たようなものだった。いい案だと思ったんだけどな。

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