第36話 王都の異変
ミーナとフィーと行動を共にするようになってから1ヶ月が経った。元々素のレベルが高いおかげもあって初めからウォーウルフくらいのモンスターと戦えたのが非常に効率が良く、この短期間で『剣士』『戦士』『武闘家』をレベル30にすることが出来た。先に剣士が終わっていたミーナは既に商人も終わりつつある。
「まさか基本職の習得がここまで大切だったとはな」
基本職のレベルアップボーナスで貰えるステータスはバカにならない。もちろん上級職のスキルも強いのでそれも習得するのも大事だが、しばらくスライム狩りで生活するのも必要ということだ。
「駆け出しの頃を思い出すね〜」
「あぁ、ホーンラビットを抱えて日銭を稼いだものだ。大変だったが今となってはいい思い出だな」
「ミーナやフィーもそんな感じだったんだな」
俺がそう言うと2人は「いやいや一緒にするな」と強く否定してきた。何故?
「少なくとも私は受付嬢にドン引きされるほどモンスターを虐殺することは無かったな」
「なんなら私たち最初アリサちゃんに相談されたもん。ヤバい人がいるけど実害が無いのが余計怖いって」
マジか。アリサさんにそんなサイコパスみたいに思われてたとは……。
「まぁすぐに勤勉なだけだったと判明したがな。1日10時間以上もスライムを狩っているなんて誰も思わん」
「それも毎日でしょ〜? ストレス耐性ありすぎだよね〜」
まぁ単純作業は嫌いじゃないからな。それにレベルという絶対に無駄にならない形で努力が反映されるからモチベーションになる。最初は生きるために強くなるのに夢中だったというのもある。
「まぁ今の君を見れば違う意味でヤバい人だってわかるよね……」
「知らない間に『魔法使い』『狩人』『僧侶』『鍛治師』『占い師』『遊び人』と基本職を全て終わらせていたしな……」
まぁ俺は経験値が2倍になる恩恵があるからな。おかげで上級職の転職条件を全て満たすことが出来た。
「狩人のボーナスで会心率が20%上がるから2人もやった方がいいかな」
「ちょっとは休憩させてよ〜!」
「そうだぞ! 焦る必要はない!」
なんで!? 会心率20%アップだぞ!? ちなみに今の俺は会心率50%の男だ。これが100%になったら気持ちいいんだろうな。
「俺はやることがなくなったから王都に行って上級職に転職しようかな。2人とも銭投げを習得したらバトルマスターにするのもありだぞ?」
商人はレベル30でアイテムボックスのスキルを習得できるが、逆に言えばステータスは手に入らない。アイテムボックスも必須級のスキルであることは間違いないが、今すぐに習得する必要もない。
「いや、私はあと少しだから先にアイテムボックスを習得してしまおうと思う」
「うーん、そう言われると転職しにくいなぁ〜。私も先にアイテムボックスを習得しちゃおうかな」
まぁどちらも急いでいるわけじゃないからな。俺も上級職を試したいし。最上級職というのも気になる。
「そういえば剣豪とマスターシーフもレベル30で特典があるんだっけ?」
バトルマスターは『ダメージ+20%』というボーナスが習得できた。
「そうだな。剣豪は『大型モンスター特攻』というボーナスだ。ボス級モンスターに対しての攻撃力が上がるというものだ」
「マスターシーフは『暗殺』だね。モンスターに気付かれていない状態だとダメージが3倍くらいになるってやつ」
「なるほど」
どっちも良いな。剣豪の方はボスモンスターを倒すのに時短になるし、マスターシーフの方は雑魚狩りに使えるからレベル上げにもってこいだ。マスターシーフは既にレベル20まで終わってるしレベル30まで上げちゃおうかな。
いずれにせよ上級職に転職するには王都の神殿に行く必要がある。
「とりあえず王都に行こうか」
王都から1番近い村を拠点にしていただけあって、王都までは馬車で半日程度だった。ネットのない世界だ、その程度しか離れていなくても王都の最新の情報を俺たちは知らなかった。
「なんか殺伐としていないか?」
「うむ……私も何度か王都に来たことがあるが、こんなに空気が悪いのは初めてだ」
大通りを歩いている間、至る所で衛兵の姿が目にいた。厳戒態勢というやつだろうか。街も以前来た時より活気がないように感じる。
「情報が欲しいね〜……」
「そうだな……」
とはいえこんな状況では聞き込みも出来ない。安心して話し込める場所が必要だ。出来れば個室が望ましいだろう。情報が集まるところといったら酔った勢いで口が軽くなる酒場だが、街の空気というか衛兵の目がそもそも酒場で飲むという行為を許していないようなそんな感じがする。
「宿に行こう。部屋の中でならプライバシーが守られるはずだ」
「なるほど、名案だな」
俺たちは情報を求めて宿に向かった。
「いらっしゃ〜い……」
王都にいたときに利用していた宿屋に入る。看板娘のリルルちゃんはどことなく元気が無さそうだった。
「久しぶり。広めの部屋って空いてる?」
「て、ててて、テンマさん! あぁぁ足がある!」
人の顔を見るや否や幽霊を見たようなリアクションは失礼ではないだろうか。
「勝手に殺すなよ。それより街の様子が物々しい気がするが?」
「しっ! また後でお湯を持っていきますね〜」
うーん、あまり言えない話ということだろうか。リルルちゃんは宿に併設されている食堂を横目に見やりながら部屋の鍵を渡してくる。なるほど、あからさまな衛兵の姿が見えなかったので油断していたが、こちらを窺っている視線は感じる。私服警官ならぬ私服衛兵か。
「あぁ、ありがとう」
ここは大人しくした方がいいと判断して鍵を受け取る。
しばらく部屋で待っているとリルルちゃんの方から部屋にやってきてくれた。
「24時間監視するなんて現実的じゃないですよね」
監視の男は食堂の営業時間が終わる前にはいなくなっていたそうだ。
「しかしよく監視されていると気付いたな。武術に心得があるのか?」
「いやいや、私なんて素人ですよ! 実はあの人が来るのは今日で3日連続なんです。常連さんじゃないのに3日も連続で来て、それにあの人ご飯を食べてる間もあんな感じでジロジロ周りを警戒してるんですよ? そりゃ気付きますよ」
「なるほどね〜。いやぁ、良い観察眼だと思うよ〜」
フィーの言う通りだ。それにちゃんと常連の顔を覚えているというのが流石は接客業のプロだ。
「けどテンマさんも災難ですね。こんなタイミングで戻ってくることになるなんて」
「1ヶ月くらい隣の村にいたんだけどな。王都がこんな物々しい雰囲気になってるなんて知らなかったんだ。一体何があったんだ?」
王都なのにクソ田舎(失礼)のアルフよりも活気がないなんて異常だ。というか、こんな厳戒態勢だと場合によっては神殿に行けない可能性もあるな。その時は潜入すればいいか。
そんなことを考えているとリルルちゃんからその原因が語られる。
「実は……第三王女、トワイライト様が国家反逆の罪で処刑されることになりました」
どうやら俺はとんでもないタイミングで戻って来たみたいだ。




