第3話 ホーンラビットと女剣士
レベルが上がってもスライムの経験値2、職業経験値2という数字は変わらなかった。ウルフを狩るよりも安全で時間効率もこっちの方が良い。だからなるべくスライムが出て欲しいんだが……。
「『ホーンラビット』ねぇ……」
また知らないモンスターだ。名前の通りツノの生えたウサギだ。名前は緑なので安全に狩ることが出来るだろう。なら躊躇う必要はないか。ほんとに鑑定様々だ。
「行くぞ」
俺が意気込んで踏み込んだ瞬間、ホーンラビットは言葉通り脱兎の如く逃げ出した。脱兎が逃げ走る兎って意味だから意味が被るけどまさにその通りなのだからそう表現する他あるまい。
頑張れば追いつけないことはなさそうだが、名前が緑のモンスターがそんなに経験値が高いとは思えない。
ないよね? もしかしてはぐれなんちゃらみたいなやつだったりするのか?
…………。
「うぉぉぉぉ!!!」
逃がすかぁぁぁ!!! 経験値だけでも置いていけ!!!
「きゅっ!?」
もう追ってこないかな? みたいな顔して油断していたホーンラビットが慌てて逃げ始める。
「クソ、本格的に林に入られた!」
さっきまではポツポツと木が生えていた程度であったが、今は数メートルおきに木が生い茂っていて全速力で走るのが難しい。木の根だったり切り株だったりがどうしてもバランスを取りにくくする。
諦めるしかないか、そう思った瞬間に前を走るホーンラビットに異変が起こった。なんと走って逃げている最中、木の根に足を引っ掛けたのである。それだけに留まらず、ホーンラビットはそのまま切り株に頭をぶつけて気絶したのだ。
「守株みたいなことが起こったな」
何はともあれラッキーだった。ありがたく糧になって貰う。ホーンラビットは瀕死だったのか小突いただけで倒せた。
【剣士レベルが2に上がりました】
お、剣士のレベルが上がった。まともに剣? を使ったのは1回だけなのに。ステータスを確認したら全部の項目で数値が1上がっていた。どうやら職業のレベルを上げてもステータスになるらしい。とはいえ、剣士レベル3まではあと126必要みたいだ。
「マジか! 30も貰えてる!」
その勢いのまま期待して経験値の方も確認したらまさかの0だった。そういうケースもあるのか。どうやらモンスターによっては貰える経験値と職業経験値が同じ値ではないこともあるらしい。逆に経験値が多くもらえて職業経験値があまり貰えないケースもあるんだろう。
スライム狩りに出発しようと意気込んだところ、死体となったホーンラビットの角がポロッと取れていることに気がついた。
「とりあえずこの角は持っておこうかな」
もしかするとさっきのウルフも毛皮とか剥ぎとるのが正解だったか。いや、何が必要かもよく分からないし荷物にもなるから今日はやめておこう。それに血の匂いに寄ってくるモンスターもいるかもしれない。とりあえずどこかの街に行ったら解体とかも学ばなきゃだな。
「街……?」
そういえば俺って無一文じゃないか? 一応サイフは持ってるけど日本のお金ここじゃ使えなくね?
「まぁ、なんとかなるか」
最悪持ってるものをどっかで売るって手もあるし、1日2日くらいは凌げるだろう。その間にお金の稼ぎ方を学べばいい。こんな街道にモンスターが跋扈する世界だ。街に行けばモンスター討伐の専門機関のようなものもあるだろう。
うーん、いずれにせよ街に行かないと作戦も立てられないな。
「とりあえず街を探さないとだな」
とりあえず最初にスライムを倒していた街道に戻ってみる。東西に伸びている道をどちらにしようかなで進むのはリスキーなので、なんとか確実な方法で街に行きたい。
「お、剣士らしき人」
敵に捕らえられたら『くっ……殺せ!』とか言いそうな女剣士発見。見た感じ年はそんなに離れていなさそうだ。とりあえず『くっころ』さんって呼ばせてもらおう。というか本当にアーマーってあんな感じなんだな。でも腕とか太ももとかモロ出しで防御力低そうだけどどういう理屈なの?
あの人について行ったら街にいけるか?
いや、もしかしたら街から出て移動中なだけかもしれないし聞いた方が確実か。
「すみませーん!」
言葉が通じるのか少し不安だったけど、これまで出てきたモンスターの名前でいける気がした。くっころさんは俺の存在に気付いてはくれたが、残念というか当然というか、あからさまに警戒された。
「何だ……?」
ありがたいことに話は聞いてくれそうだ。でも腰の獲物に手をかけながら話をするのはやめて頂きたい。ぶっちゃけ怖い、内心話しかけたことを後悔してる。
「あー、ここから1番近い街ってどこですか?」
とりあえずいきなり斬りかかってこないだけ優しい人だと思い込もう。そして道を聞いたらさっさと逃げよう。
くっころさんは俺のことを胡乱なやつだという目で見ている。まぁここはどこですか? って聞いているようなもんだからな。そりゃ逆の立場なら俺でも怪しいって思うわ。
「ここからだとこの道に沿って20分くらい歩けばアルフの街があるが……」
「20分ね。ありがとう助かったよ」
さ、目的は達成したしさっさと逃げよ。
「待て」
「…………何でしょう?」
うげぇぇ!! 止められたんだけど!
「何故街の場所も分からんのにこんな場所にいる? それに丸腰じゃないか。他の街の冒険者というわけでもなさそうだな」
お、おう。丸腰だが? しかし冒険者か。良いことを聞いた。おそらくそこが俺にとっての就職斡旋所だ。
「冒険者?」
「何だそんなことも知らんのか? さては相当な田舎の出身か? しかし、この辺りにそんな村あったか?」
こちとら大都会東京の出身なんだが? なんならこの世界より公共交通機関もしっかりしてるし高層ビルも乱立しとるわい!
「まぁいい。死なれても寝覚めが悪いからな。街まで連れて行ってやる」
あれ? 優しい人だったわ。くっころさんとか言ってすまんね。
「それは助かるけど、いいのか? どこかに向かってるところだったんだろ?」
「いいさ。依頼はまた明日にする。流石にこんな時間から1人でやるもんじゃなかった。お前のおかげで頭が冷えたよ」
「???」
なんかよく分からんが道中の護衛をしてくれるらしい。いや、スライムは俺に寄越せ。




