第29話 金稼ぎ
情報を集めていくうちにミーナが奴隷落ちしたというのが間違いないということが判明した。また、調べていくうちにそれがとある貴族と冒険者の策謀である事も分かった。
なんでも、この街にはミーナの元パーティメンバーだった男たちがいて、彼らはBランク冒険者6人で構成されたパーティを組んでいたそうだ。先日40階層を突破して今50階層を攻略している最中というところで、後からやってきたミーナたちが破竹の勢いで攻略してきたことに焦りを感じて犯行に及んだそうだ。
そして、その計画の本筋を立てたものが裏にいるという情報も手に入った。
「ゲーチス・ライトねぇ……」
なんとここでも王国貴族であるゲーチスが絡んでいるそうだ。王都まで名前を轟かす麗しき冒険者を手に入れたいと思ったゲーチスが元パーティメンバーと憲兵を買収してミーナを奴隷落ちさせるということに成功したのである。
ちなみに、これらの情報がどうして出回ったかと言うと、ミーナが捕まった状況が明らかに不自然だったために私刑にあったミーナの元パーティメンバーがゲロったからである。
「ゲーチスってあの孤児院にちょっかいかけてたやつだよな……孤児院の子供を諦めたと思ったらこんなことをしでかすとはな」
諦めたからこそ代わりが欲しくなったのか。あれ、てことは半分俺のせいじゃね? 違法購入を諦めて正規に奴隷を購入することにしたというところか。
ちなみにミーナは1週間後に競売にかけられるそうだ。ミーナのネームバリューに加えて若い女性ということから相当な値が付くことが予想されている。
「ことの顛末はおおよそ理解できた」
ここで男たちがゲーチスの策略だと証言したところでそれは証拠にはならない。ここでネックになってくるのが、競売という誰しもが購入の機会がある平等に見える形式だ。これにより正当に奴隷になったミーナを正当に購入したという演出になる。
しかしそれはつまり誰にでもチャンスがあるとも言える。
「なら、俺がミーナを買えばいい」
そうと決まれば俺がやるべきことはこの1週間であり得ないくらい金を稼ぐことだ。ちょっと、いや割と無茶な強行軍になるかもしれないけどミーナには恩があるからな。ここが俺の人生の切所、今が男を見せる時というやつだろう。
そんなわけで今日は21階層から一気に行く。目指すは50階層だ。
たしかコロコさんが50層のボスであるマンティコアというモンスターが1000万ゴールドほどで売れると言っていたはずだ。10回周回すりゃ1億だ。1億で足りるか……? いや、足りなそうならもっと回ればいいだけだ。
ただ、Aランク冒険者が6人で挑むようなモンスターをそう簡単に周回出来るだろうか……。
「無理なら31階から40階層を100周でも200周でもすりゃいいだけだな」
40階層のボスも80万ゴールドにはなりそうだ。道を覚えれば1周1時間もかからないだろう。爆速で回れれば全然余裕だ。
「っし、行くか」
そうして俺は21階層に転移した。
「『ヘイスト』」
もう一つバトルマスターの良いところは移動速度が商人の時とは段違いなところだ。全速力で移動しながらすれ違う敵を問答無用のワンパンで沈める様は側から見たら紛うことなき変態だろう。
「何だ今の!?」
「新手のモンスターか!?」
他のパーティが頑張って狩りをしているところを通過する。マナー違反かもしれないがモンスターの経験値は美味しくいただいた。
「さてボス部屋だ」
ほぼノンストップで駆けていったら40分くらいでボス部屋まで到達した。30階層のボスは『アラクネ』という全長5メートルほどの大きな蜘蛛のモンスターだった。
「どんどん強そうな見た目になってきたな」
しかし鑑定で名前は緑色で表記されている。余裕で倒せるみたいだ。アラクネは出会い頭に遠距離から糸を吐いてきた。
「スラッシュ」
糸を斬るのと同時に斬撃をお見舞いする。しかしアラクネは素早い動きで斬撃をかわした。並の冒険者ならこの速度と糸を使った立体的な動きに悩まされるだろう。だが、俺は違う。
「遅い!」
アラクネの素早さは体感だが俺の半分以下程度だろう。逃げるよりも早く接近できる。
「連続切り!」
会心エフェクトが出て大ダメージが入った。その勢いのまま更にもう1発お見舞いするとアラクネは倒れた。
【レベルが100に上がりました。バトルマスターのレベルが4に上がりました。ダメージ+4%を獲得しました】
おお、いつの間にかレベル100だよ。バトルマスターもレベル4まで上がったし順調だ。
テンマ(18):レベル100
体力:364
攻撃:620
防御:562
魔力:187
器用さ:165
精神力:210
素早さ:638
職業:『バトルマスター』レベル4
パッシブ:『攻撃+105』『防御+105』『素早さ+105』『会心時ダメージ+50%』『ダメージ+10%』
俺の強さがどんなものかは分からないが、少なくともミーナはレベル70程度のはずだ。フィーと2人がかりとはいえ、たしかフィーの職業はマスターシーフ、道中の罠無効がメインでボス戦ではそこまでの火力にはなっていないと思われる。
「次に進む前に一旦換金するか」
アイテムボックスがアラクネだけでほとんど占有されてしまったのでひとまず売りに行かなきゃならない。
魔法陣を使って地上に戻る。素材の買取場所は付近の広場にあるので便利だ。
「アラクネですね。それに火属性魔法を使わないで倒したんですね。状態が良いので30万ゴールドになります」
「そんなことまで分かるんだな」
なんでもアラクネは火属性の魔法が弱点らしいのだが、そうやって倒すと糸を出す器官が壊れていることが多く、防具などに加工するための素材が減るという話だった。どうやらモンスターを売るときは状態というのも気にしないといけないみたいだ。
「お金はどうしますか?」
「10万ゴールドは手持ちであとはギルドカードに」
俺がそういうと受付の女性は訝しげな目をしていた。え? 俺なんか変なこと言った?
「あの、他のパーティメンバーの方はいらっしゃらないんですか?」
「えっ?」
「えっ?」
えっ? って言われても……俺しかいないものは連れてこようがないじゃん。
「Bランク……Bランク……? あ、すみません。てっきりポーターさんかと」
またか、俺もそろそろまともな装備デビューした方がいいのかもしれない。
「アラクネは個人で討伐されたということでしょうか?」
「あぁ」
「Cランク冒険者が6人で倒すようなアラクネを……お名前だけ控えさせて頂きますね」
あれぇ!? まだ疑惑の目を向けられてる!? Bランク冒険者の肩書きが効かない。
そりゃそうか。この街にはBランク冒険者どころかAランク冒険者だっているんだ。アルフではBランク冒険者すげぇって扱いだけど、ここだとBランク冒険者? ふーんなかなかやるね程度にもなるだろう。
今は甘んじてその評価を受け入れよう。ちょっとこの人の度肝を抜きたくなってきたなぁ。




