第28話 アイテムボックス
ダンジョン攻略2日目。今日は11階層から出来るだけ行ってやろうと思って意気込んだのだが、事件は19階層目で起こった。
「ウキキッ!」
「ありゃ……仕留め損ねたか」
一撃で倒せないモンスターが登場した。この調子だとここからは会心が出ない限りは一撃とはいかないだろう。これ以上はダンジョンで職業レベルをあげるのは効率が悪いと悟った。
「いつものところで商人レベルを上げてバトルマスターに変えてくるか……」
って、また魔法が遠ざかっていったよ。金策は大事だし仕方ないか。ま、前みたいに死ぬ気のレベル上げなんてしなくていいんだ、のんびりやろう。
「そんなわけで20階層のボスもちゃっちゃと倒しちゃいますか」
ボスモンスターは『サイクロプス』という棍棒を持った一つ目のモンスターだった。ボスにはパワー系のモンスターが多いのだろうか。それともたまたまなんだろうか。
まぁどちらにせよやることは変わらない。
「スラッシュ! スラッシュ! 連続切り! 剛体! 連続切り! はいおしまい!」
まずは遠距離で攻撃して、近づいてきたところを連続切りで攻撃、相手の攻撃を剛体で受けてそこにカウンターの連続切り。これで終わりだ。
【商人のレベルが10に上がりました】
「ボスモンスターは結構経験値が入るな。まぁ本当なら6人で討伐するようなモンスターって考えたらそうか」
これで商人レベルは10だ。よし、ダンジョンでレベル上げはやめだ。俺は帰るぞ! 王都、もとい王都近郊の森に!
ついこの間もうレベル上げしないからここからおさらばだと思ったばっかりなのになぁ……まぁ仕方がない。
「商人が弱いってのもあるか」
こればかりは非戦闘職だから仕方ない。ちなみに商人で覚えたスキルはまさかの『銭投げ』という俺の懐にダメージを与えるスキルだった。
銭形平次だとか羅漢銭だとか思いつく単語はいくつかあるけど、つまりはお金を投げてモンスターを攻撃するスキルだ。
「そして投げたお金がなぜか回収出来ない」
日本でこれをやったらお金を故意に壊したらダメみたいな法律に引っかかりそうだ。あれでしょっぴかれることあるのか?
ちなみに『銭投げ』は投げるお金の量で威力が変わるのだが、最高威力を出すためには1回1万ゴールドを投げる必要がある。高すぎぃ! そんなブルジョワスキル使ってたらお金が湯水のようになくなるので封印した。
「さて、やりますか」
数時間の狩りの結果、商人レベルが20になったので今日はここまでにすることにした。ちなみにアグリーベアが一撃で倒せないのでそこは銭投げで対応した。封印とはなんだったのか。
「絶望的に金がねえ……」
おかしい、金策を始めたというのに始める前よりお金が減っている。今日一日のトータルの収益で見ても余裕のマイナスだ。狩ったモンスターを売ればプラスになるんだろうけどね。俺はそのまま土に還しちゃうから。
「ま、ダンジョンのボスモンスターで取り返せるだろ」
30階層までのボスモンスターの素材は市場に溢れているからそこまで高値がつかないらしいが、40階層からはまぁまぁな値段になるみたいだ。冒険者の実力というか人間の強さが正規分布するとしたら平均値がそこら辺になるんだろう。
となると、40階層のボスモンスターが狩れなければ金策なんて夢の話になってしまう。まぁソロが無理ならパーティを組めばいい、いざとなったらミーナとフィーに頼むか。
「とりあえず明日には商人レベル30にしないとな」
そう言ってからペース前と同じじゃね? って気付いた。
そして翌日。
【商人のレベルが30に上がりました。スキル『アイテムボックス(小)』を習得しました】
まぁ、気付いてもやっちゃうよね。とりあえずアイテムボックスってやつを使ってみるか。
早速今しがた倒したホーンラビットの死体を入れてみる。
「おお……消えた! で、どうやって取り出すんだこれ」
出てこいと念じても出てこない。俺のホーンラビットは時空の狭間漂流の旅に出てしまった……。と思ったらアイテムボックスのスキル欄に残りの容量と入っている物のリストが表示されるようになっていた。ホーンラビット×1となっているので取り出してみる。
「あ、出てきた……」
タネも仕掛けもないところからホーンラビットを出現させる手品だ。そのあと色々試してみて分かったが、アイテムボックスに収容するのは生きている状態だと無理みたいだ。そして気になる容量だが、貨物コンテナくらいの大きさで、動物数頭くらいなら余裕で入る。とりあえず1番金になりそうなアグリーベアを3体ぶち込んだ。
「あれ? テンマさんダンジョンに行ったんじゃ……」
つい先日別れたばかりのコロコさんは何を想像したのだろうか。憐憫の目で見てきた。
「いくらテンマさんでもダンジョンは仲間がいないと厳しいですよね」
もしかして俺ディメンジョンに行ったもののパーティが組めなくて諦めて帰ってきたと思われてる? え、俺のことをそんな残念なやつだって認識してんの? 高級レストランで小一時間くらいお話すれば認識が変わるだろうか。
「コロコさん、今日はモンスターの換金もお願いしたいんですけど」
「え? 今日は手ぶらじゃないんですか?」
「アイテムボックスを教えてくれたのはコロコさんじゃないですか。素材とかはどこで買取してくれるんですか?」
「あ、こっちの解体場で査定しますよ」
この後、アグリーベア3体に囲まれたコロコさんは「ひぃっ!」と可愛い悲鳴をあげていた。
換金を終えた俺は神殿に行ってバトルマスターに職業を変える。
「今後二度と商人になることはないだろうな」
商人の上位職の『大商人』というのが解放されていたが、大商人で得られるスキルは『鑑定』らしいのですでに使える俺には転職の必要がない。
「さて、ダンジョン攻略すっか」
俺の中で現段階最強のバトルマスターなら21階層からもサクサク進めるはずだ。これで無理なら逆にそういうものなんだと諦めがつく。いずれにせよこれが最速であることに変わりはないのでそうなったとしても攻略はバトルマスターでいく。
1日をかけて俺がディメンジョンに戻ったとき、街の様子が数日前とどこか違っていた。その理由は簡単に判明した。
なんと、時の人であるミーナが奴隷落ちしたのである。




