第27話 ダンジョン
トワと孤児院を訪問してから3日が経った。トワの狙いが上手くはまったのか、この3日で孤児院を訪れたものはいなかった。
「トワのおかげだな」
俺も支援をすると言った以上は支援を継続するつもりだ。というか、ここでやめたらトワの信頼を裏切ることになる。不義理を働いて顔向け出来ないなんてダサい男にはなりたくない。しかし全財産が300万ゴールドもないというのに毎月70万ゴールド支援すると言ってしまったからな。というわけで俺がすべきは金策だ。
「ダンジョン都市に行かれるんですか?」
金策はコロコさんから聞いたダンジョンに行ってみようと思う。なのでコロコさんとはしばらくお別れだ。
「そういえば、最近ダンジョンにたった2人で挑戦している女性冒険者が40階層を突破したとか。今ダンジョン都市『ディメンジョン』はそのお二人の話題でもちきりみたいですよ」
「へぇ〜」
たしかAランクの冒険者パーティで50階層とかだっけ? たった2人で40階層は話題になるということは凄いんだろう。
「40階層というと、Bランクの冒険者6人パーティで挑むようなレベルですからね。間違いなくAランク、それもトップに匹敵する実力者です。当ギルドでも期待の超新星として注目していますよ」
おお、そう聞くと凄いな。そんな人がこれまで無名だったって考えると世の中には有名じゃないってだけで凄い人が隠れてるのかもしれないな。
「ミーナさんとフィーネさんってお名前ですよ」
訂正、知ってる人だった。
ダンジョン都市ディメンション。経済、産業の中心がダンジョンという異質な街だ。街の至る所にある鍛冶屋からカンカンと金属を叩く音が聞こえてくる。その金属もまたダンジョンから産出された素材であり、これがダンジョン都市における経済の循環であった。
「冒険者が多いな」
当たり前だけどディメンションはダンジョンに挑戦する冒険者ばっかりだった。まずは冒険者ギルドに入ると、アルフや王都のものとはまた違った様相を呈していた。
「おー、素材収集系が多いな」
AランクからEランクの依頼掲示板を見ると、モンスターの素材を収集するという依頼で埋め尽くされていた。素材集めかぁ……そういえばコロコさんがアイテムボックスがどうこうって言ってた気がするな。
となると、まずは商人のレベルをあげるのが先決かもしれない。商人レベルが30になるとアイテムボックス(小)というスキルが使えるようになるので素材運びの人を雇う必要がなくなる。というかまた魔法は後回しか。まぁ仕方ない。
「早速教会で転職するか」
早く魔法も使いたいしちゃっちゃとレベルをあげちゃいますかね。
ダンジョンに入る条件は冒険者ランクがE以上であるというこの一点につきる。ダンジョン入り口では素材やアイテムを買取や回復アイテムなどを取り扱う雑貨屋があり、その周囲ではパーティの募集や勧誘、あるいはパーティに入りたいという野良冒険者がたむろしていた。
「君、ランクはなんだい?」
周りをジロジロと見ていたから初心者だと思われたのだろう。同年代と思われる男に話しかけられた。パーティメンバーを募集しているという話だった。
「僕たちDランクのパーティなんだけど、良かったらどう?」
その男の背後には同じくパーティメンバーと思われる男女がいた。見た目から、剣士、戦士、シーフ、魔法使いだろうか。
「シーフもいるから罠に関しても問題ないよ。どうだい?」
「お誘いはありがたいがやめておくよ。今はパーティは考えていないんだ」
別に彼らのランクが低いからとかそういうわけではない。Aランクのパーティに勧誘されても俺は断った。俺がソロで行くというと戦士の男はちょっと待てと静止の声を上げた。
「パーティに入らないって、もしかしてソロで行く気か? お前それはマジでやめとけ。最近ミーナさんやフィーネさんの影響で少人数で挑戦するやつらが増えたって聞くけど、そういう奴らはみんな帰ってきてないって聞くぜ?」
戦士の言葉に他のパーティメンバーも首肯する。どうやらミーナ達の模倣犯じゃないが、それで名前を売ろうとして失敗するケースが頻発しているらしい。
「10階層で帰るから大丈夫だ」
「10階層のボスのミノタウロスは僕たちは何回も倒しているから知っているけど、とても初心者が1人で倒せるようなボスじゃないよ」
「ダンジョンを甘く見過ぎ……」
うーん、シーフの女の子から厳しいお言葉を頂いてしまった。確かに中に入ったこともない奴が大丈夫なんて言ってたらそう思われても仕方がないな。
「ご忠告どうも。無理だと思ったら引き返すよ。罠探知の心得はあるしな」
まぁ10階層くらいなら商人でもいけるだろう。
ダンジョンの入り口には魔法陣のようなものが設置されている。なんでも過去に潜った階層まで飛べるらしい。何故こんなものがあるのか、そもそもダンジョンとは何なのか、ダンジョンについてはまだまだ解明されていないことばかりらしい。
倒したボスが次の挑戦者が来るときには復活していることや、ボス部屋にダンジョンの入り口と繋がる転移魔法陣という人智を超越したものがあることから神が創造したものだと認識されている。
これが何階層まで続いているのか、はたまた無限に続いているのか、踏破した者がいないためそれは分からない。わかっているのは、進めば進むほど出現するモンスターが強くなるということ、ただそれだけだ。
「1階層はスライムに、なんか虫の幼虫みたいなやつか」
遭遇したことは無かったが1階層で出るモンスターだ。『ミニワーム』というモンスターらしい。スライム級に弱いモンスターなので詳しい説明は割愛する。
うーん、1時間足らずでボス部屋まで来てしまった。まぁ強いモンスターもいないしこんなもんだろう。遭遇したモンスターを全部倒したというのに商人のレベルも2しか上がっていない。
「これがミノタウロスかぁ……」
3メートルくらいの背丈の牛人間だった。大きな斧を手にしていて見た目からして攻撃力は高そうだが……。
「剛体」
まともに食らったのにダメージは10だ。俺からすれば全く大したことはないのだが、職業を商人にしているとはいえ剛体を使ってこのダメージ。たしかに初心者が1人で戦うのは無謀か。
なんだかんだ攻撃も2回耐えられたし、Eランク冒険者が6人で挑むのが割と妥当な線かもしれない。
「ミノタウロス撃破っと。転移魔法陣はこれか」
ミノタウロスを倒すとボス部屋の扉が開いて下の階層へと続く階段が現れた。その隣にはここにあるぞと言わんばかりに輝く魔法陣があった。
【入り口に戻りますか?】
戻ると念じてみるとダンジョンの入り口にいた。これは凄い。
「おや、帰ってきたんですね」
俺が入り口の近くをウロウロしてるとさっき話しかけてきたパーティがまた話しかけてきた。
「さっき私たちと別れてからまだ1時間、途中で引き返してきた……?」
「ミノタウロスに行く前に引き返して正解ですよ。魔法防御力の低いミノタウロスは戦士がヘイトを稼いで後ろから魔法使いが殴るのが鉄板ですから」
あぁ、トレントみたいな感じでミノタウロスの戦い方って確立されてんのね。まぁ確かに防御力の高い戦士以外で接近戦を挑むのは危うい気はする。
「いや、ミノタウロスなら倒してきたぞ?」
「うそ、この短時間で!?」
「にわかに信じられませんね……」
何が信じられないのだろうか。別にそんなに強いモンスターってわけでもないのになぁ。まぁ別に信じないなら信じないでいいけどね。
さーて明日は11階層から次々行きたいけど、どうしたもんかなぁ……。
 




