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第26話 王の素質

 次の日、俺は朝から王城の前でトワ(王女様と呼んだらそう呼べと言われた)を待っていた。俺みたいな田夫野人がこんなところにいるのは場違い甚だしいので早く来て欲しいのだが、約束の時間になっても現れず、10分ほど待たされた。


「すみません、お待たせしてしまいましたか?」


「今来たところだと言いたいところだが、少し待った」


 だって今来たって言ったらお前も遅刻してんじゃねーか! ってなるじゃん。そんなやり取りをしているとトワを追いかけて若い騎士風の男がやってきた。


「殿下、お考え直しください。我々親衛隊の誰かを護衛につけるならいざ知らず、こんな薄汚い冒険者風情と市井にだなんて、認めませんよ」


 え? 俺何かした? 何故かは分からないが、ものっすごく敵視されているというか、めちゃくちゃ睨まれている。


「ゼスト、テンマ様が守ってくれるので大丈夫ですよ」


「この男にですか? このみすぼらしい装備、冒険者としても三流でしょう。到底殿下をお守りできるとは思えませんが」


 俺のことを侮っているんだろうけど、喋れば喋るほど自分の立場を悪くしているって気付かないのかな? なんか馬鹿にされているというのに可哀想に思えてきてしまった。


「そうですか。では、その三流冒険者が侵入したことにも気付かなかった三流以下の親衛隊は全員解雇した方が良いかもしれませんね」


 まぁそうなるよね。トワも俺を三流じゃないって否定するんじゃなくて相手を陥れるためにその言葉を利用するんだから大したもんだよ。


「一流じゃなくてすまんねぇ」


「王家の三流騎士が失礼いたしました。もちろんわたしはテンマ様を一流の冒険者だと思っていますよ」


 ほんといい性格してるよこの人。昨日も話していて思ったけど、一癖も二癖もありそうなのに喋っていることに傾聴してしまうというか、思わず惹き込まれそうになるんだよな。ほんとにカリスマって凄い。


「いや、三流で上等だよ。まだまだ強くなれるってことだろ?」


「まぁ! ふふ、食えないお方」


 俺なんてまだ美味しい方だと思うけどね。世の中には煮ても焼いても食えないようなのがいるだろうし、なんなら少なくとも1人は知ってる。トワなんだけどさ。


「ゼスト、分かりましたか? テンマ様は文字通り別格なんです」


「殿下は我々がこの冒険者に劣っていると……!?」


「はぁ……わたしでも分かる彼我の実力差が分からないとは……。貴方も騎士団に登用された当初は鋭く研ぎ澄まされていたはずなのに……王家という蓑に囲まれ鈍になりましたか。上が王位継承権に夢中になって王都に住まう民を軽んじる愚鈍ならば、下もまた然りということでしょうか」


 全く嘆かわしいと、そう言うトワの顔に落胆の表情などはない。完全に諦めている人の目だ。トワは俺と話をする時は目を輝かせているのに、王国の話になると心底どうでもいいといった表情を見せる。


「さぁ、テンマ様。参りましょうか」


「あぁ……」


 トワに腕を引かれて歩き出す。今度は騎士の男は追ってこなかった。


 若い男女が手を繋いで並んで歩く。なんで手繋いでんの? と思うだろう、トワ曰く「わたしは人混みには慣れていないのではぐれたら死んでしまいます」ということらしい、色気なんてものはない。


「そういえばさ、何で俺が隠れてるのが分かったの?」


 教会へと向かう道すがら、俺はトワに昨日からずっと聞きたかったことを聞いた。あの時、隠密は間違いなく働いていたはずだ。気配が漏れるようなヘマをしたつもりもない。


「『看破』というスキルのおかげです。恥ずかしながら手慰み程度ですが星占術を嗜んでいまして……あ、『星占術師』は『占い師』の上級職にあたります」


 なるほど、スキルに対抗するのはスキルということか。というか、何が手慰みだよめちゃくちゃやり込んでるじゃねぇか。


「わたしは武の方はからっきしなので、いざという時は守ってくださいね」


「はいはい」


 ま、教会に行くだけでそんな危険なことなんてないだろうけどね。



「テンマさん、今日はどうされましたか?」


 教会に到着するとシスターに出迎えられる。スポンサーの俺はVIP待遇ではないがまぁそれなりに要人として扱われているみたいだ。


「いや、特別用があるってわけじゃないんだ。ただちょっと視察にね」


「は、はぁ……何のもてなしも出来ないのが心苦しいですが、どうぞゆっくりしていってください」


 昨日の今日みたいなもので急に視察なんて言われたら事情が事情なだけに何かあると思うのが自然だ。


「ところで、そちらの方は……?」


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。わたしはトワイライト・ウェリトゥス・ラ・ハウメア。テンマ様の協力者です」


「は、はは、ハウメアって、も、もしかして……」


「多分その想像しているハウメアでお間違いないかと」


 シスタークリスティーナは「あわわわわ」とわかりやすく動揺する。まぁいきなり王族が前触れもなくやって来たらビビるわな。


「な、な、なんてお方をお連れしているんですか! トワイライト様といえば『ハウメアの才女』だとか『ハウメアの麒麟児』なんて呼ばれるお方ですよ!」


「そうなのか?」


 まさか知らないんですか!? と捲し立てられる。すまん、知らん。とにかくめちゃくちゃ頭が良いってことは伝わった。


「もしかしてトワって支持率高い?」


「わたしが高いんじゃなくて上の兄達が低いと言いますか……そもそも市政を担っていたのはわたしですからね」


 マジか。トワって15歳で政治まで手掛けてんの? それで民衆を満足させてたらそりゃ才女って言われるわ。


「一般市民の中には、トワイライト様に次の王位を望む声も上がっています」


「それを望まれても、その継承権はとっくの昔に破棄しているんですけどね」


 トワは8歳の頃にその継承権争いから離脱したらしく、その当時は民衆から大層惜しまれたそうだ。トワは幼少期から才気煥発だったらしく、その時点で次期国王にと期待する声があったのだ。しかし、トワはその声があったからこそ継承権争いから離脱することを決めたという。


「命がいくつあっても足りませんから」


 このまま継承権争いに加われば、2人の兄は結託して自分を狙うだろうと、トワは齢8にしてそれを理解していたという。


「今はわたしの話はいいんです。本題なのですが、王国からも孤児院運営のための助成金を出したいと思います。そのかわり、原則として子供は15歳になるまで院で庇護するようにしてください」


 狙いは俺がしたことと一緒だが、言葉の重みが違う。それに、勘が鋭くなくてもゲーチスは王国が何かを察知していると気付くだろう。これでしばらく下手に動くことは出来ないはずだ。あとはこうして稼いだ時間で不正を暴けばいいということだった。


「分かりました……。あの、これもアロエのためですよね。まさか王女様まで動いてくださるなんて……」


 アロエというのはゲーチスに狙われている12歳の女の子のことだ。たしかに俺はその子を守るために動いていたが、俺個人の力では対した抑止力にならなかっただろう。情けない話だが結局トワの権力に頼りきりになってしまった。


「わたしはテンマ様の考えに賛同しただけですよ」


 トワは自分の権力をひけらかさないどころか俺のことをたてる。本当に15歳なのだろうか。

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