第21話 作戦
さて、ミルカルトル神殿でヤバい取引現場を目撃してしまった俺だが、どうするべきか考えた結果、とりあえずレベル上げをすることにした。
レベル上げと言っても自己満足のレベル上げではない。
【シーフのレベルが5に上がりました】
あのあと俺は職業をバトルマスターから基本職のシーフに切り替えている。シーフはそこまで有効ではないのだが、上級職のマスターシーフになると隠密のレベルを上げることが出来る。
とりあえずいくつか方法を考えてみた。
1つ目、王城に忍び込んで偉い人に直訴する。俺みたいないかにも怪しい奴の言うことを聞くのか? という問いに対しては脅してでも聞かせればいい。
2つ目、ゲーチスの屋敷に忍び込んでゲーチスを脅す。
3つ目、大司教を……以下略。
そして4つ目はその女の子を誘拐してしまう。
これらの方法を実行するのに何が必要になるかを考えたら兎にも角にも隠密だろう。
【会心時のダメージ+5%を獲得しました】
シーフのボーナスは会心時のダメージが上がるみたいだ。強いのかこれ? でも俺が欲しいのは隠密なのでマスターシーフまでは一直線であげよう。
時間が足りなかったら最悪街に戻る時間すら惜しいので外で野宿するのもありかもしれない。最悪ね、最悪。正直お風呂には入りたいから1番近い隣町を拠点にするのが無難か。ガチガチのレベル上げなんてするつもり無かったんだけどなぁ……。
「ま、俺のエゴに付き合って貰いますか」
素のレベルが高くなったおかげで素早さも攻撃力もあるのである程度のモンスターでも簡単に倒すことが出来る。もう基本職のレベルはサクッと上がる。
【シーフのレベルが30になりました。会心時のダメージ+40%は+50%になりました】
2日足らずでレベル30を達成した。しかし目標はマスターシーフになって隠密のレベルを上げることだ。ここからはレベルアップに必要な経験値が増えて上がりにくくなる。ここから3日で隠密のレベルを上げる。とりあえず、一旦神殿で転職だ。
転職をする前に、俺は教会が運営している孤児院を見に行ってみた。時間がないとはいえターゲットの顔くらいは確認しておきたい。
「あの子か」
大司教の話によると、シスターの手が空いていない時は年長者として子供たちの世話をしているらしい。世話焼きなのか責任感があるのか、嫌そうな顔一つせずに小さい子供の面倒を見ていた。
「うぇぇぇん!! わたしのぷりんがぁぁぁ」
「あぁぁもうほら、お姉ちゃんの分をあげるから泣かないの」
年相応か、それよりも大人びている。いや、大人になるしか無かったのだろう。頑張って、我慢して、苦しんで生きたその先に不幸しか待っていないなんてそんなの可哀想すぎる。
助けてあげないとな……。
とりあえず、可能な限りを尽くしたい。やるべきはこの国の王族に直訴すること。ゲーチスと大司教の取引の証拠があればなおよしだ。そしてもう一つは正当な手段であの子を助けてあげることだ。そのために必要になってくるのは……。
「金か」
大司教は財政難であることを理由にあの子を売らせると言っていた。まぁそんな直接的ではないだろうが、子供が出来ないから養子にしたいと言っている貴族がいて、その貴族様が教会を支援してくれますよ、と……こんな感じだろう。
これに対抗する手段は少し強引にはなるが、先手を打って教会を支援し支援者として人身売買行為を禁じる、もしくは打診に来た貴族を本当に養子を欲しがっているかを査定、調査するなど厳しく取り締まる機関を作るというところか。教会には定期的な支援を約束すれば賛成してくれるだろう。
「金かぁ……」
俺の全財産は現在200万ゴールド。孤児院の規模を見るにここにいる子供は20人程度。シスターを含めた1日の食費を2万ゴールドとして1ヶ月で60万ゴールド。そのほかは教育費や雑費がもろもろかかるとして70万ゴールドほどあれば足りるか……。
ならば今の状態でも3ヶ月くらいは支援できる。とりあえず孤児院のシスターに人身売買をさせないように釘を刺しておこう。
「ちょっといいか?」
「はい、なんでしょうか?」
はじめ、シスターさんは俺のことを警戒していた。孤児院に帯剣した男なんてここが日本だったら即通報だ。孤児院じゃなくても通報だったわ。
「ここの孤児院を管理してる責任者はいるか?」
「はい。えっと運営は牧師様で管理は私、ですが……」
おお、なんか複雑だな。まぁそれならそれで都合がいい。手間が省けると言うものだ。
「あー、怪しいものじゃないんだが……」
って、怪しいやつはみんなそう言うか。しかしこの世界には身分を証明する最強カード、ギルドカードがある。俺はシスターさんにギルドカードを名刺のかわりに差し出した。
「テンマさん……? あ、申し遅れました。私はクリスティーナです」
「シスタークリスティーナ。いきなり不躾なことを聞いて申し訳ない。この孤児院が財政難だと聞いたんだが、それは間違いないだろうか。もしそうだとしたら、是非支援させて欲しい」
「まぁ、それはありがたいことですが……どうしてまたいきなり?」
ま、そりゃそう思うわな。しかしBランク冒険者と分かったからか警戒はほとんどされていない。冒険者ランクって大事だな。
「実は……」
俺はミルカルトル神殿での大司教とゲーチスのやり取りをクリスティーナに話した。その過程でどうしても殺された女の子の話をせざるを得なかった。
「まさか、ミミが……」
女の子の話を聞いたシスターは顔を覆って泣き出してしまった。この様子だと、片棒を担いでいるということは無さそうだ。落ち着くまで待って俺の作戦を話す。
「その子の名前までは分からなかったけど、次に持ちかけられる話は間違いなく真っ黒だ。そこで先手を打って『この孤児院を支援する者が現れ、代わりに子供を養子に出すことを禁じた』という大義名分を作りたい」
「な、なるほど……たしかにそれは有効ですね……」
それ以上に支援をするから子供を譲れと言われたら、そういうことなら支援してくれた人と話をしなきゃいけないから1ヶ月待ってほしいとでも言えば時間が稼げる。
「とりあえず70万ゴールド渡す。財政難でも1ヶ月はいけるだろ」
「は、はい……」
よし、これで一先ずはレベル上げに注力出来るはずだ。




