第20話 上級職の強さ
さて、もう一つの目的である『貴族街』への行き方なのだが、これも簡単に解決した。コロコさんに聞いたところ、なんでも冒険者ランクがB以上ならば門番にギルドカードを提示するだけでいつでも入れるらしい。他にも通行許可証を持っている者や、Cランク以下でも貴族街に絡んだ依頼を受ける場合には一時的に通行許可が出るそうだ。
「じゃあサクッと転職するか」
今回は上級職への転職を考えている。そのため壁の外にある教会ではなく内側にある神殿に行く必要があった。ちなみに神殿の名前は『ミルカルトル神殿』というらしい。まぁ俺からしたらただの転職屋さんなので名前なんてどうでもいいが。というわけで早速貴族街の方に向かってみた。
「止まれ、冒険者か? ギルドカードを見せろ」
コロコさんの前情報通り門の前で検問される。別にやましいこともないので素直に提示する。
「はいよ」
「通ってよし」
うーん、本当に入れた。Bランクってだけで入れるのはありがたい。まぁBランクにもなればお金を持っているでしょ? ってことなんだろうな。まさかガリウスとの決闘を受けたのがこんな形で役に立つとは思わなかった。
貴族街の通りは門の外とはえらい違いで飲食店がない。いや、多分無いことはないのだろうが一目見て分からない。一軒一軒の家のサイズも敷地の面積も大きく、大半の家には庭があった。馬車の往来も然程でなく、まさに閑静な住宅街といった感じであった。
貴族街でも外に最も近い最底辺のランクでこれだ。中心に近いところだとどうなってしまうのだろうか。王城と思しき建物もそうだが、それとは別に創作の世界でしか見たことのないようなお屋敷が数軒確認できる。貴族の中でも公爵? とかそういう偉い人の家だろうか。
ただし、ミルカルトル神殿も負けていなかった。貴族様方の信仰の力を一身に浴びたそれは御立派としか言いようのない風格が有った。
「すげぇな……」
視覚的には煌びやかで五月蝿いのに聴覚的には静謐。教会も独特な雰囲気があったが、ここは別格だ。まさに神の御座すところ、という感じだ。
「まぁ信仰しているわけじゃないんだけどね」
いつも教会に行くたびにバレたら不信心な奴めと斬り捨てられるのかなぁとかそんなくだらないことを考えてしまう。とはいえ天使だか女神だかには会ってしまったので神を信じていないわけではない。ただあれを見て信仰する気が起きないだけで。だって急に全裸になるんだぜ?
「さて、転職ボードは……」
パッとあたりを見渡しても見つからない、と思ったら転職ボードは目立たないような隅の方にあった。権威に追いやられたか。まぁ使えれば問題ないのでどうでもいいが。
「さて、上級職は……」
ボードを操作して上級職の一覧を見てみる。ズラッと表示された。
『剣豪』
『騎士』
『拳闘士』
『???』
『???』
『???』
『???』
『???』
『???』
『???』
『???』
『???』
『バトルマスター』
『???』
多い多い多い!! 基本職は10個しか無かったはずだ。いや、それでも多いけど。上級職って1つの職業に対して1つじゃないのか。どうやら転職条件を満たしていないものは『???』で表示されているみたいだが、なぜバトルマスターってやつだけいけるんだ?
「転職条件は『剣士』『戦士』『武闘家』の近接3種をレベル30にすること……こんなの俺くらいしかやってないだろ……」
バトルマスターの転職条件が厳しすぎた。レベル70を超えてようやく達成出来たんだぞ? 他の『???』もこんな感じなのだろうか。
とりあえず1番強そうなバトルマスターにしてみた。
【バトルマスターに転職しました。職業バトルマスター時のダメージ+1%を獲得しました】
なんかスキルでもステータスでもないものが貰えた。うーん、でもこれ100が101にしかならないから弱くないか? とはいえ基本職3つを合わせた上級職だ。恐ろしいことにステータスは攻撃、防御、素早さの3つに上昇補正がかかっている。
そんなわけで今のステータスを確認してみた。
テンマ(18):レベル78
体力:314
攻撃:530
防御:498
魔力:160
器用さ:146
精神力:150
素早さ:540
職業:『バトルマスター』レベル1
称号:『異世界人』『スライムの天敵』『ウルフの天敵』『剣の道を歩む者』『徒手空拳』『守りし者』
いや上級職つっよい! なんだこのステータス!? 攻撃、防御、素早さに関しては転職前後で200以上ステータスが上がっている。これ俺が倒せないモンスターっていんの?
正直ここまでステータスが伸びればワイルドボアどころかアグリーベアすら一撃で倒せる気がする。
俺が全能気分を味わっていると、神殿の扉が開いていかにも貴族ですよという服を着た肥えた男が入ってきた。それを聖服を着たこちらも肥えた男が出迎える。
「これはこれはゲーチス様! ようこそいらっしゃいました」
「ぐふふ、大司教。久しいな」
「またアレをご所望のようで」
もしかすると俺がいることに気がついていないのかもしれない。だいたい隠密レベル1のせい。可愛い女の子の悪巧みなら可愛いが太った男2人の悪巧みなんて気持ち悪いので見たくないんだが。
ゲーチスと呼ばれた男は服の袖から手のひら大の袋を取り出すとそれを大司教とやらに手渡した。リアル袖の下きたぁぁぁ!!!
「ぐっふふ……流石はゲーチス様。それで、今回はどのようなのをご所望で。また幼女で?」
「最近は幼女にも飽きてきてなぁ。あれは五月蝿くてかなわん。前のは思わず殺してしまった。もう少し分別のつく年頃のおなごで頼む」
おいちょっと待てよ。幼女? 殺した? これ割とマジでヤバい現場にいるんじゃないか?
「あぁ、それなら貧乏人どもが集う外の教会に今年で12になる生娘がいましてね。器量も発育も良い娘なんですがね、これまでほかのガキ共のまとめ役だとかなんだとか言ってなかなか手放してくれなかったんですよ。しかしいまやあの貧乏教会は孤児院を運営する金も無い状態。ゲーチス様の施しがあれば簡単に彼女を救済することが出来るんですが……」
人身売買か。奴隷が合法だからそれくらいはあるとは思っていたけど、流石にこれはアウトなやつだろう。まさか聖職者がこんな真っ黒だとはね。
しかし、どうしたものか。この国の現状を理解していないから何とも言えないが、たとえその子を助けたところで代わりに他の子が犠牲になるだけだ。これは憲兵に言うべき案件か、それとも憲兵まで真っ黒なのか?
「ぐふふ、では大司教、よろしく頼む」
「はい。では1週間ほどお待ちください」
出来れば関わらない選択肢を取りたいところだけど……聞いちゃったもんなぁ。はぁ、あまり期間は残されてはいないみたいだな。




