第2話 異世界攻略初日
「すっげぇ快晴だ……」
落とし穴に落ちたところまでは記憶がある。どうやらそこで気を失ってしまったらしい。目が覚めて一番最初に見た景色は雲ひとつない青空だった。
「なんで街とか家じゃなくてこんな草原からスタートなんだよ……」
たしかあの天使さんはここは剣と魔法のファンタジー世界だって言っていたな。ずっと寝てたらモンスターに襲われて死んでたんじゃないか?
そういえば、あの天使さんはここに着いたらまず『ステータス』と唱えろって言ってたっけ。
「まぁいいか」
俺は他人の言葉に行動を縛られない。仮にそれが天使の言葉でもだ。あの天使さんが「おいぃぃぃぃ!!!」って叫んでいる姿が想像出来る。
「『ステータス』」
まぁ、開くんですけどね。生死に関わるし。とりあえず何でもいいから情報が少しでも欲しい。『ステータス』と唱えると目の前に俺のステータスらしきウィンドウが表示される。本当にゲームの世界に来たみたいだな。
そしてこれが俺の現時点でのステータスのようだ。
テンマ(18):レベル1
体力:20
攻撃:18
防御:15
魔力:8
器用さ:10
精神力:12
素早さ:20
職業:『剣士』 レベル1
称号:『異世界人』
テンマって名字が残るんかい! というか俺弱っ! 基準は分からないけどレベル1という時点で強くないことは察せられる。職業も『剣士』って書いてあるけど剣なんて持ってないんだが?
『剣士』のところを注視すると『剣士』についての説明が出る。ざっくり言うと、『剣士』は攻撃が上昇するかわりに魔力が下降する職業のようだ。職業には最大のレベルが決まっていて、『剣士』はレベル30で最大らしい。レベル30になると、上級職に転職できる仕組みだそうだ。
「で、この『異世界人』って称号は何なんだ?」
仮にも天使さんが付けてくれたんだ。これが何らかの特典で無ければこの世界で生きていける気がしないんだが? 例によって注視すると『異世界人』の効果を見ることが出来た。
『異世界人』……獲得した経験値、職業経験値が2倍になる。次のレベルまでに必要な経験値を確認出来るようになる。スキル『鑑定』が使用可能になる。
ほう? ほう? としか言いようがないんだが? いや、経験値2倍が常にあるのは有り難い。俺くらいの年齢のやつだときっとレベル1ってことはないだろう。ようは18歳のビハインドだ。ステータス至上主義の世界だとしたら今の俺は5歳児にも負ける可能性がある。
俺がレベル2になるには経験値が30必要みたいだ。そして職業経験値の方は100必要らしい。
うーん、なんとかしてレベルを上げたいが、その前に衣食住の問題もあるな。最悪ここで寝ることも考えないとな。
「いでぇ!」
考えこんでいて背後から迫ってきている存在に気づかなかった。何かがぶつかってきたのか俺の体力が1減っている。
「あ、スライム……?」
青いゼリー状の生物がぷるぷるしている。俺に攻撃してきたから悪いスライムだろう。というか俺はさっきの攻撃をあと19回くらったら死ぬのか? いくらでも耐えれる気がするんだが。
ふと体力を見ると19から20に戻っている。どうやら体力は自動回復するらしい。
「なら時間をかければ安全に倒せるか」
スライムにも自動回復機能があったら泥沼だけど1対1なら負けることはないと分かっただけでも儲けものだ。
「っしゃあ! いくぞー!」
俺の冒険はここから始まる!
「スライム弱っ!」
ワンパンだった。獲得経験値は2、職業経験値も2だった。てことは次のレベルまでこいつを14体倒せばいいんだな?
「よし、目指すはレベル2だ!」
30分後、とりあえず14体狩ってレベルが2に上がった。
「ステータス」
テンマ(18):レベル2
体力:22
攻撃:20
防御:17
魔力:8
器用さ:12
精神力:14
素早さ:22
職業:『剣士』 レベル1
称号:『異世界人』
ステータスは微増って感じだ。それより問題は次のレベルまでの経験値だ。
「レベル2までは60か……」
てことはスライム30匹だ。まだ余裕もあるし狩りを続けようかな。
スライム狩りを続けてそろそろレベルが3に上がるかというところでスライム以外のモンスターと遭遇した。
「狼……!?」
サイズは中型犬くらいだが、その風貌は狼そのものだった。鑑定して見て『ウルフ』という名前のモンスターであることがわかった。
ちなみに鑑定スキルの効果でモンスターのレベルが自分よりも高いと名前は赤で表示され、同程度なら黄色、低い場合は緑で表示されるようになっている。また、赤黄緑でざっくりと判明されるというわけではなく、色のスペクトルで細かい差異も出してくれる。
ウルフの名前はオレンジ色に表示されていた。俺のレベルよりも少し高いみたいだ。
「いけるか?」
といっても、もう気付かれてしまっているため逃げるにしてもなんらかのアクションが必要だろう。ただ背を向けて逃げたんじゃおそらく素早さで負けているため追いつかれてしまう。
「やるしかない」
こっちにはステータスに表示されない知恵って武器があるんだ。ちょっとのレベル差くらいなら覆せるだろう。
「グルルル……!」
やべぇ……中型犬くらいの大きさなのに攻撃的な目になるとこんな迫力があるのか……。シベリアンハスキーサイズだったらチビッてたかもしれない。
しかし、野生の動物は怯んだら付け上がる。動物と一緒にしていいかは分からないけど。
「おっしゃあ! 来いや!」
まさか異世界で狼と素手でやり合うことになるとは思わなかった。日本でも熊と格闘して勝ってるじいさんとかたまにニュースで見るけどあいつら何者だよ。
「ガウッ!」
「っと、危ねぇ!」
ウルフが足元を狙って噛み付いてきた。速い。とはいえ対応しきれない速度じゃない。足にくると分かればカウンターは入れやすかった。
「サッカーしようぜ! お前ボールな!」
「きゃうん!」
動物愛護団体発狂と言っていいレベルの蹴りをお見舞いしてやった。見た目が狼でもモンスターだからセーフだ。情けない声出して可哀相じゃねぇか。もっと獰猛であれよ。
「効いてるか……?」
怒って目が血走っているように見える。戦意喪失どころか闘志は更に増しているようだった。
「でも効いてるよな?」
何回も上手く決まるとは思えない。こちらも噛みつきや引っ掻きの1回でアウトというわけではないだろうが、なるべくダメージは喰らいたくない。というか、皮膚とか食いちぎられて戻るの? この世界の医療技術は大丈夫?
って、そんな心配してる場合じゃないな。今はこいつをどうにかしないと。
足元にちょうどいい武器になりそうな木の棒を拾った。そしたら攻撃力が20から28に上がった。
【スキル『パワーストライク』を習得しました】
!? 頭の中に声が聞こえてきたと思ったらなんか習得したんだが? 剣を装備してたら使えるみたいなやつか?
そんなことを考えていたらウルフが痺れを切らして襲いかかってきた。
「ッ……!」
痛い目をみたからか足狙いではなく跳躍して飛びかかってくる。
「頼む、『パワーストライク』」
当たってくれと、頼むからこれで終わってくれという祈りを込めて木の棒を思いっきり振り翳す。すると赤く光った木の棒がウルフの頭蓋をジャストミート、思いっきり打ち砕いた。
おおっ! レベルアップした! よかった倒したみたいだ。木の棒がなければこんな早期決着には至らなかったかもしれない。木の棒様々だ。そんな木の棒もウルフとの熾烈を極めた戦闘で折れてしまった。
しかし、こんな激闘だったんだ。さぞ獲得した経験値も多いことだろう。俺は少し期待してステータスを見る。
テンマ(18):レベル3
体力:24
攻撃:23
防御:20
魔力:9
器用さ:14
精神力:16
素早さ:24
職業:『剣士』 レベル1
称号:『異世界人』
ステータスは相変わらずの微増。ウルフの経験値は6、職業経験値も6みたいだ。あれ? しょっぱくね? これならスライムを狩ってる方が効率が良いんだが?
「とりあえずスライムを狩ろう」
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