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第168話 結婚式③

「ボクの場合は出会いこそ最悪なんてことはなかったけど、出会ったその日のうちに婚約したのは一緒だねぇ。まぁ政略結婚だし、テンマ君に帝国に対する帰属意識を植え付けようという父上の思惑があったわけだけど」


 確かにベネトナシュとも出会ったその日だったけど、あれは政略結婚だったか? なんかベネトナシュとトワの主導で結婚決まってなかったっけ? 確かに恋愛結婚ではないけど、皇帝の思惑とかは後付けじゃないか?


「ひどい捏造ですね。皇女の肩書きを見ない男性との自由恋愛を夢見ていた乙女がこの機を逃すまいと婚約をねじ込んだが正しいでしょう」


「それを推奨したのは他でもないトワイライト君だけどねぇ」


「それは……、なまじ同じような立場だっただけに自分だけ泥沼の政略結婚ルーレットから抜け出すのは流石に良心の呵責が………。テンマ様なら打算を受け入れた上で親愛関係を築けると思っていましたし」


 なんか変な信頼されてるけどこれ手放しで喜んでいいか分からないな。別に俺って女の子なら誰でもいいわけじゃないからね? 


「まぁ、なのであとはベネトナシュ様の気持ち次第みたいなところはありましたけど、それも存外乙女のような反応をしていたのでいいかなと」


「していない! ボクの科学者としてのイメージを毀損するのはやめてくれたまえ!」


 アロエ君が信じたらどうするんだい! とベネトナシュは強く否定するけど、ちょっとハグしただけでキャーキャー言ってたのは事実じゃん。あとお前は科学者のことをなんだと思ってんだ? 


「実際はどうだったんですか?」


「んー、こういう劇場で演じてる花形役者さんのハグ会に参加したファンみたいな感じ?」


「照れて顔を真っ赤にしていたぞ」


「ナアシュ姉様、可愛い」


 な、乙女なところも可愛いよな。というかうちの面子でベネトナシュが一番乙女かもしれない。次点は僅差でフィーかな。


「まぁ愛のない結婚だったのは間違いないけど、俺はベネトナシュとは良好な関係を築けると思ってたよ」


 これは別に後付けでも何でもなくてね。最初はトワの友達とは思えないキャラが濃いのが来たなと衝撃だったけど、連絡がつかなくなったトワを本気で心配していたみたいだし、良い子なのはすぐ分かったからな。


「人柄は良いですからね」


「アロエのことも可愛がってるし、なんだかんだ面倒見もいいんだよな。知れば知るほど魅力的な女の子だよ」


 ベネトナシュについて評するならマッドサイエンティストのような振る舞いをあえてしているだけの常識人だな。ベネトナシュには理想の研究者像があるみたいだから絶対そう思われたくはないんだろうけど。


「あ、あ……み、魅力的って……あぅ……」


 くそ、可愛いなおい。


「トワもこのくらい素直になれればよいと思うがのぉ」


「そこでなぜわたしの名前が……」


「主様に褒められているときに口角が上がらんように耐えているところをよう見るからな」


 マジで? いつも頭とか撫でても「どうかしましたか?」って感じでそんな喜んでる素振りとか見せてくれないじゃん。


「いつも無反応だから気が付かなかったわ」


「むしろそれでめげないテンマ君が凄いよ」


 いや、まぁ拒否はされてないからな。嫌がっているわけではないとは思ってたよ。


「すまんすまん。老婆心のつもりじゃったが、余計なことを言ったかのぉ?」


「タマモ様、絶対わざとですよね」


「うむ。トワが甘え下手なのもそうじゃが、主様も主様で鈍感じゃからな。見せつけられるこっちがもどかしくてかなわん」


 うっ……手厳しいな。けど気付いていなかったのも事実だから何も言えねぇ。


「大丈夫なの! お兄ちゃんは鈍感でもいいところがいっぱいあるの!」


 ありがとう。だけど改めて刺す必要はあったかな? 


「そうですね。テンマ様はわたしと初めて出会った日のことを覚えていますか?」


「え、そりゃ覚えてるよ。あんな王城に不法侵入したのなんて人生で初めてだったし」


 しかも見つかるっていうね。いやあの時はマジで焦った。


「テンマ様からしたら何でもない出来事だったかもしれませんが、わたしはこの空虚な毎日が変わるかもしれないと、どこか運命めいたものを感じずにはいられませんでした。まぁ流石に断頭台に立った時はそんな都合の良い話はなかったかと全てを諦めていましたが……最期に良い夢が見られたなとかそんなことを考えていましたね」


 最期に……か。あの時の死を目前にして涙の一つも見せずに毅然としていたトワの姿は今でも覚えている。死を受けいれているというか、生を諦めてしまっているというか、いずれにせよ生存本能が機能してない時点でまともな精神状態とは言えないだろう。


「トワの場合だと心が壊れるのも無理ないよなぁ」


 命の危険を感じて王位継承権を放棄したのに、なぜか今度は最強の手駒として盤上に無理やり引き摺り出されてさ。挙げ句には争っていたはずの両陣営が結託して謀殺だろ? そりゃ人生に絶望するわ。


「ですがテンマ様はその心まで救ってくださいました。テンマ様と出会ってから、灰色だったわたしの世界に色がついたんです。テンマ様、愛しています。そしてわたしを幸せにしてくださってありがとうございます」


「参ったな」


 俺から愛を伝えるつもりだったのに先に言われてしまった。普段は皮肉屋さんなのにこういう時は真っ直ぐに思いをぶつけてくるかね。


「感謝するのは俺の方だよ。俺だってトワに助けられてるんだから」


 今でこそクーコやベネトナシュがいるけど、最初はトワに色々任せきりだったからな。特に政治的なこととか交渉事は全部トワに頼ってたし、俺たちがこうして自由でいられるのって、そういうところでトワが上手くやり過ごしてくれてたからなんだよな。


「自慢じゃないけど、私とミーナじゃ家賃交渉すら怪しいからね〜」


「本当に自慢じゃないな……まぁ私たちは良くも悪くも冒険者としての生き方しか知らないからな」


 自虐かよ……まぁ2人とも腹の探り合いとか大の苦手だからな。でもそれで2人が頼りにならないなんてことはないんだけどね。


「お姉様はわたしのような厄介者を嫌な顔一つせず受け入れてくださいました。お姉様たちからすれば大したことないことなのかもしれませんが、あれは込み上げてくるものがありましたね」


 トワがミーナやフィーのことを姉と慕っているのは、ちょうど人間関係に嫌気がさしたタイミングで人情に触れたってのもあるのかもな。


「宮廷貴族という損得でしか動かない腹に一物を抱えた狡獪な大人に囲まれて生きてきたんじゃ。明朗快活で裏表のないフィーネに心打たれるのは然もありなんじゃな」


 なるほど、たしかにフィーはそういうのとは対極だからなぁ。フィーはただの世間話でもニコニコ話を聞いてくれるから、なんかいるだけで空気が明るくなるというか、一緒にいて居心地がいいんだよな。


「なんでか分からないんだけどな。俺はみんなとも自然体で接してるはずなんだけど、フィーが相手だとなんかそれ以上に自然体になれてる気がするんだよな」


 多分それが居心地の良さの正体なんだけど、でもこれってすげぇ大事なことなんだよな。みんなが和を乱さないようにただの義務感から仲良くしているだけじゃ、俺たち家族はここまで団結できていないと思う。みんながここを居心地のいい空間だと認識しているから、大切にしようという意識が生まれる。そうして更に雰囲気が良くなるという正のスパイラルがまた俺たち家族の結束を強める。周囲を明るくするフィーはその起爆剤だな。


「フィーの仲間思いなところとか、前向きでポジティブなところとか、それでいて意外と繊細で乙女なところとか、フィーはなんか自己評価は低いみたいだけど、俺はそんなフィーのことを愛してるよ」


「ちょっ……そんなはっきり……もう、テンマ君ズルいよ。わ、私も愛してます……ってこうやって改まって言うとなんか恥ずかしいね」


 ぐはっ、そんな可愛い反応を。これずるいのはフィーの方だろ。

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